その後、俺は各地を巡った。そして色んな高校を転々とし、何度も高校生として日々を過ごした。長い電車の時間をかけこの地を遠くへと行った。
けどいくら心を開いてくれる友達が居たって、俺はあんまり人とは関わりたくない。それでも俺は表向きにはみんなと仲良しみたいな感じに見えるから、割と信頼されてた。
そして俺は帰ってきた、この町に。
「奏、あなたにはこれからいろんな困難なことが起こるでしょう。誰であろうと自分を嫌ってしまう時はあるけど、あなたにそうなって欲しくないの。私が居なくなっても自分の運命と向き合って強く生きていくのよ。」
お母さんは亡くなる前日、俺が寝ている耳元で小さくそう囁いた。今でもその言葉は俺の心に残っている。
「あれからはもう十六年が経つのか。あんまり変わってない感じがするけどね。」
今日は雪が降っている。俺は黒いチェスターコート、パーカーと紺のジーンズを着てきて、正解だと思った。時間をかけてやっといい住める場所が見つかった。それもかつてお母さんと住んで家に戻りたくないからわざわざ別の場所で住むと決まった。
ある面白い噂が耳に入ってきたから帰ってきたんだ。元々は帰ってくるつもりはなかったけどね。
噂によると夜桜っていう一家の娘が死神と言われているらしい。俺はある程度夜桜一家のことを知っている。俺は一回そこを訪ねたことがある。しかも縁談に行って、大失敗に終わったのだ。
その縁談はうちの仕来りのせいで台無しになったのだ。
時が過ぎ、また新たな一年が始まろうとしている。そしてまたつまらない始業式を迎えた。
始まったすぐ教室に一個の空いた机があると目に映った。よくクラスメイトの名前をチェックしてみると、不思議なことに俺は夜桜さんと同じクラスだ。
クラスメイトから夜桜さんは家に籠っているらしいと聞いた。そして俺は学級委員長として選ばれ、先生の依頼もあって、夜桜さんの家に行くことにした。
そして俺は今日夜桜さんの家に訪ねると決めた。
よりによって今日はとても蒸し暑い。もう少しで夏休みだから仕方がないかと思いつつ、俺は夜桜さんの家まで歩いた。
そして俺はチャイムを鳴らしたが誰も出て来ない。門の戸に手をかけたらすっと開いたから中に入ることにした。すると中には引き戸があった。流石に入るわけにはいかないと思って、何回か夜桜さんの名前を呼んでみた。
けど誰も返事がなかったから一度帰ることにした。
「それにしても夜桜さんの家の雰囲気は三十年前と全く一緒だな。なんか前庭もよく手入れされてる。」
「しかもよくあんな立派な屋敷を建てたもんだ。」
そんなこと考えながら俺は自分で借りてるマンションに帰った。すごく近くて助かった。
日が沈む頃に、俺はもう一度夜桜さんの家に訪ねて行った。
俺はまた引き戸の前に立った。すると扉が開いた。彼女は俺を見てびっくりしたようだ。
夕日を浴びた彼女が眩しく見えた。俺は彼女が夜桜雪恵ということはすぐに分かった。何故なら彼女はお母さんにとてもよく似ているからだ。
分かっていながらも、俺は彼女が雪恵さんかどうか訊ねた。すると彼女は俺を追い出そうとする。彼女はずっと俺と目を逸らしていた。
俺は真っ直ぐ彼女を見た。何故か彼女を放って置く訳にはいかないと思った。
もし彼女は俺と同じ痛みを抱えているなら尚更だ。
俺は心を完全に閉ざした彼女を連れ出したくて焦ってしまった。俺は彼女が家に籠っていることを何故か昔の自分に重ねて、自分の情けさを叱った。
気付けば彼女は俺を睨んでいる。俺は彼女が怒っているのにすぐに気づいた。
元々は彼女を助けに来たのにやってしまった。己の感情を抑えきれなかったのだ。
俺が本心で謝っても彼女は許してくれず、彼女は家に入ってしまった。そして強く引き戸を閉じた。
「本当ににごめんなさい。」
俺は閉じた扉に向かって、小さく囁いてその場を去った。