「あの…、ちょっとよろしいですか?」

 親子団らんしていたところに、いきなり水を差してきたヤツがいた。
 ただ道を聞いてくるだけかもしれないし、それを顔に出さずに振り返る。

「そちらのお嬢さんは貴方の娘さんなのですか?」

 そこには、美形かつクレスと同じ銀色の髪と浅黒の肌を持つイケメンがいた。
 一瞬殺意が芽生えそうになったが、この歳で妬みはいけない。

 なんとか平然を装い、答える事に成功した。

「もちろんそうですけど、おたくは?」

 うん嘘です、失敗してました。
 なんとなく敵意を向けてしまう。

「いや、怪しい者じゃないんです。私達は遥か遠い国から旅をしてきてまして、こんな所で同郷の者に会えたのかと思ってしまって」

 よく見ると男の隣に同じく灰色に近い銀色の髪をした、浅黒い肌の綺麗な女性がいた。
 美男美女のカップルとか、どんだけなんだ!

 こちとら奥さんに早くに旅立たれて以来何もないっていうのに!

 と更に呪詛めいた気持ちが湧いてくるが、今は世界一可愛い娘がいるので幸せじゃないかと自分に言い聞かせる。

 ちなみにクレスの髪は元々はもっと暗い色でグレーブルーだったが、成長するにつれ透明度が増した銀色になった。

「あの…大丈夫ですか?」

「ああ、すいません。娘以外にその髪色の人を初めてみたので」

 黙ってしまった俺を美女の方が心配して声を掛けてくれる。
 いかんいかん、変な空気を作ってしまったな。

「え…初めて…?奥様は違うんですか?」

「え?」

 あっと、しまった。
 娘がこの髪色なのに、俺が髪の色違うのに妻も違うではおかしいか。
 変な勘繰りされたくないし、ここは誤魔化しておくのがいいか。

「ああ、大分前に亡くなったのでね。娘が生まれて以来、よその人で初めてみたなと」

「ああ…それは、余計な事を聞いてしまった。つい同じ故郷の者だと思ってしまい、大変に失礼しました」

「いえいえ大丈夫ですよ。ちなみになんですが…」

 クレスは、空気を読んでかずっと黙ってくれている。
 賢いこの子は余計な事を言わない方がいいのだろうと思っているようだ。

 俺はせっかくクレスと同じ国の出身であろう人物に会えたのだし、どこの国なのか聞いておくことにした。

「お二人の国はどこにあるんですか?」

「そうですか、あまり知らないんですね…。いえ、こちらの話です。私達はここから遥か北にある『フォーレン』という国から来ました。娘さんに流れる血のルーツになる国です。いつかは訪れると良いでしょう」

「随分と断言するんですね?」

「この銀の髪を持つのは、わが国の民しかいませんからね」

「なるほど、そうなのですね。通りで他で見かけないわけだ。教えてくれてありがとう、いつか娘と一緒に行ってみようと思います」

「お父さん!そんな遠くまで行けるの?」

「もちろん…と言いたいけど、遠くの国になるとお金貯めないとだなぁ…。頑張ってお金貯まったらね」

「うんうん、それは分かってる~。じゃあ、頑張って仕事しようね!」

「もちろんだ!マチスさんにいっぱい仕事貰わないとだ…」

 二人で話が盛り上がると二人はお邪魔だと思ったのか挨拶して去っていった。
 去り際に男の方が、『もしフォーレンに来ることがあればこれをお持ちください。きっと役に立つでしょう』と俺にエムブレムが刻まれた銀板を渡してきた。

 なんでもその男の家の家紋らしい。
 見た目通り、いい家の出身のようだ。

 羨ましくなんかないぞ!たぶん、きっと。
 クレス、もっと父さん頑張るからな!

 そんな不思議な二人との遭遇もあったが、特にトラブルもなく一日が終わるのだった。
 
 翌日も二人でサーランの町を散策して、色々買い物したり食事をしたりして一日を過ごす事にした。

 来る時の襲撃の件もあったので、冒険者ギルドに寄ってゴブリンの襲撃について報告し、ついでにお勧めの武器防具の店を紹介してもらう。

 流石マチスさんだけあり、クレスの持っている武器の方が上等なものだったので(お金を出せる範囲と言う意味では)そこで買う事はなかったが。

 時間もあるので、お金を払ってクレスの剣をそこで少し研いで貰ってから後にした。

 その後、洋服屋に行ってクレスに似合うワンピースを買った。
 カンドには無い色がいいねと言って、黄緑色のワンピースを選ぶのだった。
 
 お昼になり、レストランに入る事にした。
 たまにしか来ないのだ、ここは奮発していいものを食べようと、少し子洒落た店を選ぶ。

 ただし、ドレスコードがあるような場所は入れないから、ラフな格好でも入れるところにしたのだが。

 そこはサーランの特産品でもある川魚やエビ等、また海の町から仕入れてきた海産物などをメインにしている所で、いままで食べたたことが無いものが沢山あった。

 とりあえずおススメコースがあったので、それを二人分選んでおく。
 少量づつ色んなものが食べれれるようになっているので、観光客などに人気の商品なのだそうだ。 

 味は結構濃いめだったが、どれも美味しかった。
 川魚なら食べる事もあったが、海の魚は初めて食べるので肉厚でジューシーな魚を食べたときは少し感動した。

 最後のデザートなどは、ゼリーという半透明な甘いものが出てきて、中には果実が入っていた。
 宝石みたいに綺麗だねってはしゃいでいたクレスがとても可愛かった。
 うん、可愛かった。
 大事な事なので二回いいました。

 そのゼリーというのは、なんでも原料となるものが海で採れるらしい。
 とある海藻が原料だとか言ってたが俺にはさっぱり分からなかった。

 クレスが興味津々だったから、あとで市場に買いに行ってもいいかもしれないな。

 そんな至福なひと時を味わっていた時に、俺の視界に例の美青年達が入って来た。
 いや、嫌いっていうわけじゃないんだけども、どうもいけ好かないんだよね。

「おや、昨日の方ですね。こんな所で奇遇ですね。あー、ここ有名なお店らしいですからね」

「そうみたいですね。お二人も食べに来たので?」

「はい、丁度食べ終わったので出ていく所でしたけど。あ、申し遅れました、私はヴァレスと申します。こちらがマーレです」

「マーレと言います。お見知りおきを」

「どうもご丁寧に。俺はウードです。この子は娘のクレスです」

「!クレス…。まさか?…あ、失礼しました。娘さんの名前、綺麗で良い名前ですね、お父さんがつけたんですか?」

「ええ、そうでしょう?この子にぴったりだと思って付けたんです」

 まぁ、本当は一緒に入ってた手紙の宛名がそうだったのを拝借したんだがね。
 でも、いまではこの名がしっくりくる。
 なのでこの名前で良かったと思っている。

「そうですか…。あ、すいませんまだお食事中だったのに。では、またどこかでお会いしましょう」

 ヴァレスは爽やかに挨拶すると去っていった。
 マーレという女性も軽く会釈するとそのあとをついて行くのだった。

「お父さん、なんだか不思議な人たちだったね」

「ああ、そうだな…。」

 心の中で、なぜか一抹の不安が広がる。
 きっとそんなことは無いはずだ。

 今さら、この子を探している人がいるなんてないはず。

 もしそうだとしても、今更返せと言われても絶対渡すもんかと、心に強く決めるのだった。