よく朝、出発前にそれぞれの安否確認や荷物の確認をし、簡単な打ち合わせをした。

 護衛に被害が多く出ている商人分を誰が代理するかなどだ。
 幸い、マチスさんは俺らだけしか連れて来ていないので、被害がなく護衛も全員健在だ。

 そのため、一人だけでも貸して欲しいという事になり、サントがその商人の護衛に就くことになった。
 もちろんタダと言うわけではないが、全額請求というわけにもいかない。
 その代わりに、次の街まではみんな一緒に行く事で、負担額を減らすという事にした。

 今後の商売で有利に進めるうえでも、今のうちに恩を売っておくのは良いことなのです。
 ウードさんも商売をするのだから、そういう駆け引きを覚えておくといいですよ、とマチスさんに教えて貰った。

 ちなみに、ドリス達や俺らに支払う金額は変わらないそうだ。
 なので、純粋に利益が増えるドリス達は喜んでいた。

 準備が出来てすぐに出発した。
 流石にもう襲ってこないだろうが、精神的によろしくないので皆早く離れたかったようだ。

 それは俺も同じ気持ちだったので、なんの異論もないのだけどね。

 そこから隣町までは順調に進むことが出来た。

 町までも半日もあれば着くということだったし、皆でまとまって行動しているのでひとつの商隊のようになっていた。

「クレスは、凄いのね!あんな化け物を倒しちゃうだなんて。私なんて顔見た瞬間、体が石になったかのように動くことも出来なかったわ」

「私だってとっても怖かったです。でも、お父さんが死んじゃうかもって思ったら勝手に体が動いていたの」

「そっか、大事なお父さんだもんね」

 そんな話が聞こえてきて、また涙が流れそうになる。
 こんな出来のいい娘を運んできた神様に感謝した気分になった。

 そこから一度野営地で休憩し、進む事8時間くらいで隣町についた。

 隣町は内陸なのだが、大きな河に面していているため水産物の品も豊富であり、うちの村や近くの町である『カンド』よりも中央都市に近い分栄えていた。

 数年に一回起こる河の氾濫がネックだけどねと町の人が言っていたが、それもお金を掛けて治水しているために、そこまでの被害にはならないらしい。

 この町の名前は『サーラン』。
 大きな河川に隣接し、その河川に船を浮かべる事で様々な資材を運んだり、海の村との交易なども盛んであるためかなり発展している。

「ここサーランには、商会ギルドの中でもかなり影響を持つ者がリーダーをしていまして、今回はそんな商会のリーダーである『トール』商会長のトールのご子息とお見合いなのですよ」

 ため息をつきながらも、面会の準備をするマチスさん。
 今回俺とクレスは、道中の護衛なのでお見合いをしている間は自由に行動していいという事だった。

 カンドに戻るのは明後日の朝という事で、マチスさんの宿屋に荷物を預けてからサーランの町を見学して回る事にした。

 ちなみにドリス達はマチスさんの身辺警護も引き受けているので、お見合いについて行かないといけないらしい。

「クレス!また帰りにいっぱい話をしようね!」

「うん、楽しみにしている!」

 すっかりクレスと仲良くなったマリアさんは、クレスと離れるのを名残惜しそうにしながらも、父親の為にトール商会へ向かっていった。


 サーランの町はとてもいい町だ。
 新鮮な食料や、珍しい雑貨など交易が盛んなだけありとくにかく品数が多かった。 

「お父さんと初めての旅行だね!」

「そうだなあ。父さん中々遠出は出来なかったからな。欲しいものがあったら遠慮なくいうんだぞ?多少のお金は持ってきているからな」

 こう見えて、マチスさんのおかげもありお金に不自由するほど貧乏はしていない。
 娘の欲しい物の一つや二つどうってことない…筈だ。

「みて、お父さん。この髪飾り綺麗」

「へぇ、色がちゃんと塗ってあるだなんて珍しいなあ」

 そう言いながら、露天で販売している、ものをあれこれ物色していた。

「お客さん、こちら初めてかい?これは、中央都市で流行っている髪飾りでね鉱石と染料を練り混ぜて作った塗料を塗ってあるんだ。水に濡れても落ちないよ?」

 いくらかなと見ると、銀貨10枚もする。
 なかなかに高価なものだ。

「結構高いなぁ。もう少し値段下げれないのか?」

「うーん、そうは言ってもねぇ。元々それなりに値段するし、あっちからの運搬費もあるからこれ以上は値引けないよ」

「お父さん、いいよこんな高いの。普通ので十分だから」

 クレスはこういう時にすぐに遠慮してしまう。
 俺としては助かるのだけど、折角ここまできたんだし何をプレゼントしてあげたい。

「よし、買おう!」
「お父さん!?」

「まいどー!今後とも御贔屓に~」

 銀貨10枚を渡し、買った髪飾りを頭につけてあげる。

「わぁ、…ありがとうお父さん!」

「はは、良く似合っているよ」

 そのあと、カンドには売っていない綺麗な色の服を一着買ってあげて(それは銀貨5枚だった)、外で食べ物を買ってから二人で食べた。

 エースには、串に刺さった焼き肉をかってあげて食べさせた。

「しっかし、すごい人が多いなぁ」

「そうだね~、お父さん。ほら、あの人とか髪の色とか金色だよ?どこの地方の人なんだろ」

 カントには基本俺と一緒でブラウン系が殆どだ。
 綺麗な銀色の髪を持つクレスはどこに行っても目立つので、俺よりも有名人だったりする。

 この町は色んな地方からも商売人や移住者がいるみたいなので、同じ髪の色の人がいないか探しているようにも見えた。

 クレスは俺が本当の父親じゃない事は早くから知らせている。
 だけど、そんなことは関係ないと言ってくれた。

 だがそれでも、自分のルーツは知りたいと思うのが人間だろう。

「ちゃんとした冒険者になったら、色んなところに行けるのかな?」

「それは…。行けるだろうな」

「あ、お父さん大丈夫だよ?一人で出ていくとか言わないからね!一緒に色んなところ行けたらいいなって思っただけ」

「そ、そうか!お父さんも頑張るから、お金貯めて一緒に旅出来るようにしようか!」

 本当!ありがとう~!と抱き着いてきたクレス。
 本当、この子を一生守っていくんだと改めて心に誓った俺だった。

 しかし、俺は気が付いていなかった。
 俺ら二人を見ている怪しい人物が居たことを…。