「今日から魔獣ビースト調教師テイマーとして登録して貰うぞ?」

 唐突にガルバドから登録変更を言われる。
 確か最初に登録した職業(クラス)は狩人だったはずだ。

 それから、()()()()希少種の翼蛇ケツアルカトルを見つけて、さらに()()()()()()()()()()ので相棒として連れ歩いていることになっている。

 エースは野生種の大型の狼なので、ハンターが連れているのは特に珍しくもないのだが、魔獣としても珍しいケツアルカトルは見ただけでも幸運とされているのでかなり注目されていた。
 主にご利益が欲しいとかで。

 実際にそのあとに俺(というか、主にパーティー)が色々と活躍していると冒険者たちの間で噂になると、やはり幸運になるというのは本当だったんだと一時期あの山でケツアルカトルを探す冒険者が増えたとか。

 実際にはあの山にはそんな魔獣はいないので、みんなには申し訳ない気持ちだったが本当のことを言うわけにもいかないので、心の中でだけ謝っていた。

 そんなわけで、実力でテイムしたわけじゃないし、実際にはテイムじゃなくて契約したわけだから詳しいことを聞かれるのを避けるためにわざわざ職業を変更するなんてしてこなかったわけだ。

 それなのにわざわざ変更しろとはどういうわけなんだろうか?

「ええと、それはいったいなんでなんだ?別に狩人のままでも問題ないだろう?」

「それが大ありなんだな。お前が連れている翼蛇は、モンスターランクでいうとBランク相当なんだとよ。
 それをただの狩人が連れて歩いているとなると、いつ暴走させるかわからない奴が高位の魔獣を連れているということになるんだよ。
 そうなると下手すりゃ討伐に対象になるぞ?」

「はぁっ?!そんな、連れているだけで討伐対象とか聞いたことないぞ?!」

「俺も、ただの狩人がBランク魔獣連れて歩いているだなんて聞いたことねーよっ!!」

 うん、そうだよなー。
 俺もなんとなく、そんな気がしてたわ。
 つーか、フェーンの事もばれているっぽいし、ヘルメスの事も言ってしまうか?

『ふむ、それもアリかも知れんな。
 こういう相手は、隠し事するよりも真実を告げて巻き込むのが常套手段、というのが昔からの決め手だぞ』

 なるほど、そういうもんか。
 ヘルメスのお墨付きももらったし、さっそくそうしよう。
 その上でどうすべきか聞いておくのがいいかもしれない。
 なんせ、目の前にいる人物は冒険者ギルドのトップの一人なのだから。

「あー、それなんだけどな。実は正確に言うとカツアルカトルでは無いんですよねぇ。
 この翼蛇が何か知りたいですか?いや、知りたいよね?」

「な、なんだ急に。というか、いやな予感しかしないんだが。
 なんだ、その悪だくみしてそうな顔は!!」

 お、さすがに勘がいいな。
 だが時すでに遅しだ。

「実はな───」

 それから、ヘルメスの事を詳しくガルバドに話をした。

 サイハテ村の近くにある山に封印されていた神様の遣いである『神獣』だった事。
 自分は騙されて契約をさせられたこと。
 そして、そのおかげで色々なスキルを代行して使えるようになった事。

 さらには、そのヘルメスのチカラによってウインドの町にいた神獣フェーンも契約することになったことなどなど。

「…つまりは、お前はテイムしたわけじゃないし、能力が開花したわけでもないと」

「そうなんだよ。だから、狩人のままでいいんじゃないかと思うんだよな」

 うんうんと頷きながらそう返答する。
 うん、これで万事解決…。

「なるほど、だったら仕方がないかーっ!がっはっはっはー…ってなるわけないだろうーがっ!!?」

 あれ、ならんかった。

「何てことしてくれてるんだよ!?神獣2体と契約しただと?それで普通の狩人ですとかなるわけないだろうーがっ!!?魔獣調教師(ビーストテイマー)でも怪しまれるレベルだぞ!?」

 と、グランドマスターであるガルバドが頭を抱える事態になってしまった。
 しかし、これはヘルメスの言う通りだったかもしれない。
 ここで巻き込んでおけば、この先ガルバドには言ってあると言えばいいのだから。
 冒険者としては才能がなかったけど、その分商人のイロハはマチスさんに教わったからな。
 ここまでくればこちらの勝ちだ。

「くっそー、面倒ごとを解決する筈が面倒ごとに巻き込まれちまったか…。
 こうなったら仕方がない、神獣の件はこっちで誤魔化しておく。その代わり、お前は今日から魔獣調教師(ビーストテイマー)だ!これは決定事項だからな。グランドマスター命令だから、拒否するなら冒険者ライセンスはく奪だ!」

「えええっ!?そりゃあ、ないよ…」

「そんな大事なことを今まで黙っていたお前が悪い!すぐにギルドに報告していたら…。現地の職員が頭抱えたことだろうが…、俺が困ることはなかったのによ…」

 おいおい、心の声が駄々洩れだぞ?
 でもなー、言っても信じてもらえていたかどうか。
 今も、なぜヘルメスが神獣だと信じてもらえたかも謎なのに。

「まぁ、このヘルメスが今までは黙っておけって言ってたから仕方ないだろ…」

「なんだと、その神獣と会話が出来るのか?」

「そりゃあ、契約者だから言葉くらいわかるんじゃないか?」

「通常は、魔獣と契約しても言葉が通じるなんて無いはずだ。だが神獣には言葉を話す者がいるというが、その神獣がそうなのか?」

 その言葉を聞いて、ヘルメスがガルバドの前に出る。
 そして、ガルバドにも伝わるように言葉を発した。

『ほう、そのような知識を持つ者がまだこの世におったのだな。
 そう、我は人と言葉を通じることが出来る神の遣い。
 伝令のチカラを持つ智識と治癒の神獣ヘルメスだ。我を介することでウードは他の神獣とも会話が出来るのだ』

「おおっ!!本当に話が出来るのか…。ウード、お前は本当に神獣と契約したんだな」

「さっきから思ってたけど、よくヘルメスを神獣だと信じられるな」

 俺ですら未だに信じられないのに。
 本当は悪魔の遣いで、俺は騙されているんじゃないかと思うくらい容赦ない修行を毎日させられているし。

(ウードよ、お主の今日の修行はより厳しくなると思えよ?)

 うん、余計な事考えたら普通に筒抜けだし。
 やばい、そんな修行したら明日は起き上がれないかも。

「ふふん、俺には『魔力感知』のスキルがあるからな。ある程度の魔力量が見えるんだよ。
 正確に測ることは出来ないが、大体がわかるんだ。その中でも、そこのヘルメスとフェーンというのは魔力量がそこらの魔獣よりも段違いに多い。
 …ちなみにウード、お前もだがな」

「え、俺もか?でも、最初のギルドの鑑定や数年前に登録した時もそれほど魔力はないと言われてたけど」

「そうらしいな、資料にも魔力も魔法の資質も無しとあるな。
 だが今のお前は、魔力だけならBランク魔導士と同等の魔力量があるぞ?」

「本当かっ!?それじゃあ、俺もついに魔法が使えるように…!」

 どれだけ頑張っても、魔法を使うことが出来なかった。
 ヘルメスと契約した後も、何度も試したのだが成功することはなかった。

 しかしだ、もしかしたら出来るようになっているかも知れないのだ。
 期待の眼差しをガルバドに向けてみると。

「あー、それはなぁ…。やっぱほら、魔法は才能があるかないかだからな」

 あっさりと俺の期待は裏切られるのであった。
 く、俺は諦めないからな!