今回行くのは隣町だ。
なんでも隣町の大商人の息子がマリアさんと同い年らしく、その息子とマリアさんがお見合いという事らしい。
今回は、最初の顔合わせという事になっているが、そこで気に入られれば婚約になるのだという。
「本当は、私もまだマリアを手放すつもりは無いんですがね。向こうの方が商人ギルド内で力を持っているので無下に出来ずに・・・。 いっそ、マリアを見て気に入らないと言ってくれれば良いのですが、難しいでしょうね」
と、愚痴っていた。
『なんせうちの娘は可愛いですから!』と親バカっぷりもプラスされたが。
「ウードさん、次の野営所まで20kmありますので、そこまでいったら休憩となります。そこで交代となりますので宜しくお願いしますね」
「分かりました、馬の扱いには慣れていますので任せてください」
今回一緒に御者をするマチス商会の従業員であるダネフさんがルートを考え、今回の旅路の計画をしている。
そこで次の休憩ポイントを予め教えてくれた。
「次の野営所までは、街道の延長でもあるので殆ど危険はありませんが、何か異変があったら教えてくださいね、護衛の方々にお知らせしますので」
「分かりました、では出発しましょう」
そういって馬車を走らせた。
今回の馬車は、2頭立てで幌付きの大きな荷台の馬車で前の方が人が乗れるの様になっており、後ろ側は主に荷物を載せるようになっている。
前側にはマチスさん、マリアさん、クレス、と護衛一人、後ろに護衛二人(+エース)という振り分けになっている。
護衛の人は、休憩所ごとに前に乗る人を交代していくという事だった。
ちなみに、この馬車の馬は俺がマチスさんに卸した馬だ。
かなり前の事になるが、それでも俺の事を覚えているらしく顔を近づけるとすぐに顔を擦り付けてきた。
よしよしと首を撫でてやると気持ち良さそうにブルルゥッっと嘶いていた。
荷台の方には冒険者をしている護衛達とエースが乗っている。
ダネフさんの言う通り、野営所に来るまで何事も無く来ることが出来た。
魔物どころか、野ウサギ一匹も出てこないほどの長閑さだった。
その間にクレスとマリアはとても仲良くなったらしく、その様子を見ていたマチスさんも嬉しそうだった。
護衛のドリス、タルトス、サントは流石に手慣れていてしっかりと仕事に集中していた。
マチスさんが信頼するだけはある。
重要な案件になると必ずこの3人と指名するそうだ。
こういう冒険者には時たま事故を装って荷物を強奪したり、誘拐したりと悪事を働く者もいなくはないので、信用がある相手を選ぶのが普通なのだろう。
うちの村は貧乏なので、荷物を運ぶのは俺くらいしかいないので頼んでいるのは見たことないのだけどね。
ただそういう事件があるというのは、町に行くとよく聞くものだ。
「そろそろ休憩も終わりですね。ここからは私が御者しますのが引き続きサポートよろしくお願いしますね」
「ええ、分かりました。ここからは、野生動物や稀に魔物も出るとか」
「はい、そうなんです。そんなに強い魔物は出ませんが、それでも馬をやられでもしたら大変ですからね。警戒するに越したことはないのですよ」
そういうと、ダネフさんは馬車の周りに異常がないかを確認してから、全員が乗っているのを確認し出発た。
俺はこういう事が初めてなので、ダネフさんに色々教わりながらも覚えていく。
この歳で色々覚えるのは大変だが、娘の為だと思って叩き込んでいた。
次の野営所までは、おおよそ3時間。
今日はそこで野営する予定だ。
多くの行商人とすれ違いながらも、順調に進んでいく。
「…それでね、お父様が…」
「マリア、その話は勘弁してくれ…」
「ふふふ、マリアさんはお父様と仲がよろしいんですね」
中からは楽しそうな会話が聞こえてくる。
どうやら、マチスさんの要望は果てせているようで良かった。
確かに年頃の娘さんを連れて、いかつい男達とおっさんたちだけでは中々に窮屈な旅になるだろう。
まして商家の娘さんだ。
育ちが良い分、より辛く感じるかもしれない。
クレスも楽しそうにしているし、結果的に良かったのかもなと思うのだった。
そう、コイツらに会うまでは。
野営所には問題なく着いた。
そこまでは良かったのだ。
すっかり日も落ちていたので、予定通りそこで野営を始めた所に、近くから悲鳴が聞こえたのだ。
しばらくすると、戦闘音が聞こえてくるじゃないか。
慌てて、弓矢を荷台から取り出す。
護衛なのに武器を手放すとはとか怒られそうだけど、俺なんか単なる御者として雇われているようなもんだしね。
ただし…。
「エース!」
ウォンッ!と元気よく返事するエース。
どうやら匂いで気が付いていたみたいで、真っ先に声のする方に警戒している。
「なんで野営地でこんな騒ぎに…」
マチスさんがやりきれない感じでぼやいている。
既に辺りが暗くて視界が悪いため、ダネフさんも主の盾になるかのように、マチスにぴったりついていた。
「旦那、俺らから離れないでくださいね。あなたが死んだら俺らに支払ってくれる人がいなくなるからな」
と、ドリスさんが軽口を叩いて場を和ます。
緊張しすぎるのも良くないからな、と俺の肩をポンっと叩いて激励してくれる。
見た目以上にいい人なのかもしれない。
「怖い…、一体なにがいるの?」
「大丈夫ですマリアさん、私達が必ず守りますから!絶対離れないでくださいね」
クレスも本当は怖いだろうに、懸命にマリアを励ましながら辺りを警戒していた。
流石に夜の狩りには連れて行ったことがないので、クレスも慣れない暗闇でより緊張しているみたいだ。
「タルトス、サント。二人はマリアさんとマチスさんのそばを離れるなよ?クレスは、自分の身を守るだけを考えろ!余計な事を考えるんじゃないぞ」
「で、でも…。は、はい!分かりました」
そういいつつも、マリアの傍からは離れはしなかったが、この中でまだ経験がないに等しいクレスを思ってくれての言葉だ。
素直に頷くしかない。
それに対してマチスさんも静かに頷くだけだった。
「俺が少し様子を見てくる。いざとなったら、馬車で逃げれるように用意だけしておくんだ!」
「わかりました!」
言われて、ダネフさんが馬の準備に取り掛かろうとしたところだった。
ギャギャギャギャッ!!
出た!これが魔物!?
「なっ、こんな近くに?!ゴブリンスカウトだ!みんな注意しろ!」
そういって、現れた全身を黒塗りにしているゴブリンに向かっていくドリス。
ただでさえ暗いのに、黒塗りしているゴブリンの姿は捉えられない。
熟練冒険者のドリスですら、そうなのだ。
他の二人もマチスとマリアを守るので精いっぱいだった。
「エース!」
ウォンッ!と一吼えしてゴブリンに噛み付く。
エースは夜に小さなウサギの狩りをするくらい、夜目が利く。
しかも、鼻がいいので姿が見えなくてもすぐに見つけれるのだ。
エースが一匹のゴブリンの足に噛み付いた。
だが、ゴブリンの方も黙ってやられるわけが無い。
手に持つダガーで、エース目掛けて振り下ろそうとした!
ヒュンッ!…ズシャアッ!
この夜に一本の矢が飛び、ゴブリンの頭を貫いた。
「いやー、この弓矢は流石上等なものですね。ブレが全くないな」
そう、俺が放った矢だ。
夜の狩りはたまにしているので、この歳でもまだ夜目が利くのだ。
なので、俺にもゴブリンの姿が見えていた。
と、油断していると。
「おい!ウード後ろ!」
自分の死角から飛び出てきたもう一匹のゴブリン。
それが俺の顔に飛びついてきた。
う…すごい臭い…。
じゃなかった、やばいこのままだと殺される!
渾身の力を込めて引き剥がそうとするが、ゴブリンの力の方が強くて無理だ。
やばい…死ぬ…。
ゴブリンが手に持つ凶器が、俺の頭に刺さりそうなその時だった。
「…お父さんから、はなれろおおおおおおっ!!!」
縦一閃。
クレスが放った剣閃に真っ二つにされて、ゴブリンが左右に割れた。
そして俺も…
なんともない?!
この土壇場でクレスが、俺の顔には傷一つ付けずにゴブリンを真っ二つにするという、神業を成し遂げるのだった。
なんでも隣町の大商人の息子がマリアさんと同い年らしく、その息子とマリアさんがお見合いという事らしい。
今回は、最初の顔合わせという事になっているが、そこで気に入られれば婚約になるのだという。
「本当は、私もまだマリアを手放すつもりは無いんですがね。向こうの方が商人ギルド内で力を持っているので無下に出来ずに・・・。 いっそ、マリアを見て気に入らないと言ってくれれば良いのですが、難しいでしょうね」
と、愚痴っていた。
『なんせうちの娘は可愛いですから!』と親バカっぷりもプラスされたが。
「ウードさん、次の野営所まで20kmありますので、そこまでいったら休憩となります。そこで交代となりますので宜しくお願いしますね」
「分かりました、馬の扱いには慣れていますので任せてください」
今回一緒に御者をするマチス商会の従業員であるダネフさんがルートを考え、今回の旅路の計画をしている。
そこで次の休憩ポイントを予め教えてくれた。
「次の野営所までは、街道の延長でもあるので殆ど危険はありませんが、何か異変があったら教えてくださいね、護衛の方々にお知らせしますので」
「分かりました、では出発しましょう」
そういって馬車を走らせた。
今回の馬車は、2頭立てで幌付きの大きな荷台の馬車で前の方が人が乗れるの様になっており、後ろ側は主に荷物を載せるようになっている。
前側にはマチスさん、マリアさん、クレス、と護衛一人、後ろに護衛二人(+エース)という振り分けになっている。
護衛の人は、休憩所ごとに前に乗る人を交代していくという事だった。
ちなみに、この馬車の馬は俺がマチスさんに卸した馬だ。
かなり前の事になるが、それでも俺の事を覚えているらしく顔を近づけるとすぐに顔を擦り付けてきた。
よしよしと首を撫でてやると気持ち良さそうにブルルゥッっと嘶いていた。
荷台の方には冒険者をしている護衛達とエースが乗っている。
ダネフさんの言う通り、野営所に来るまで何事も無く来ることが出来た。
魔物どころか、野ウサギ一匹も出てこないほどの長閑さだった。
その間にクレスとマリアはとても仲良くなったらしく、その様子を見ていたマチスさんも嬉しそうだった。
護衛のドリス、タルトス、サントは流石に手慣れていてしっかりと仕事に集中していた。
マチスさんが信頼するだけはある。
重要な案件になると必ずこの3人と指名するそうだ。
こういう冒険者には時たま事故を装って荷物を強奪したり、誘拐したりと悪事を働く者もいなくはないので、信用がある相手を選ぶのが普通なのだろう。
うちの村は貧乏なので、荷物を運ぶのは俺くらいしかいないので頼んでいるのは見たことないのだけどね。
ただそういう事件があるというのは、町に行くとよく聞くものだ。
「そろそろ休憩も終わりですね。ここからは私が御者しますのが引き続きサポートよろしくお願いしますね」
「ええ、分かりました。ここからは、野生動物や稀に魔物も出るとか」
「はい、そうなんです。そんなに強い魔物は出ませんが、それでも馬をやられでもしたら大変ですからね。警戒するに越したことはないのですよ」
そういうと、ダネフさんは馬車の周りに異常がないかを確認してから、全員が乗っているのを確認し出発た。
俺はこういう事が初めてなので、ダネフさんに色々教わりながらも覚えていく。
この歳で色々覚えるのは大変だが、娘の為だと思って叩き込んでいた。
次の野営所までは、おおよそ3時間。
今日はそこで野営する予定だ。
多くの行商人とすれ違いながらも、順調に進んでいく。
「…それでね、お父様が…」
「マリア、その話は勘弁してくれ…」
「ふふふ、マリアさんはお父様と仲がよろしいんですね」
中からは楽しそうな会話が聞こえてくる。
どうやら、マチスさんの要望は果てせているようで良かった。
確かに年頃の娘さんを連れて、いかつい男達とおっさんたちだけでは中々に窮屈な旅になるだろう。
まして商家の娘さんだ。
育ちが良い分、より辛く感じるかもしれない。
クレスも楽しそうにしているし、結果的に良かったのかもなと思うのだった。
そう、コイツらに会うまでは。
野営所には問題なく着いた。
そこまでは良かったのだ。
すっかり日も落ちていたので、予定通りそこで野営を始めた所に、近くから悲鳴が聞こえたのだ。
しばらくすると、戦闘音が聞こえてくるじゃないか。
慌てて、弓矢を荷台から取り出す。
護衛なのに武器を手放すとはとか怒られそうだけど、俺なんか単なる御者として雇われているようなもんだしね。
ただし…。
「エース!」
ウォンッ!と元気よく返事するエース。
どうやら匂いで気が付いていたみたいで、真っ先に声のする方に警戒している。
「なんで野営地でこんな騒ぎに…」
マチスさんがやりきれない感じでぼやいている。
既に辺りが暗くて視界が悪いため、ダネフさんも主の盾になるかのように、マチスにぴったりついていた。
「旦那、俺らから離れないでくださいね。あなたが死んだら俺らに支払ってくれる人がいなくなるからな」
と、ドリスさんが軽口を叩いて場を和ます。
緊張しすぎるのも良くないからな、と俺の肩をポンっと叩いて激励してくれる。
見た目以上にいい人なのかもしれない。
「怖い…、一体なにがいるの?」
「大丈夫ですマリアさん、私達が必ず守りますから!絶対離れないでくださいね」
クレスも本当は怖いだろうに、懸命にマリアを励ましながら辺りを警戒していた。
流石に夜の狩りには連れて行ったことがないので、クレスも慣れない暗闇でより緊張しているみたいだ。
「タルトス、サント。二人はマリアさんとマチスさんのそばを離れるなよ?クレスは、自分の身を守るだけを考えろ!余計な事を考えるんじゃないぞ」
「で、でも…。は、はい!分かりました」
そういいつつも、マリアの傍からは離れはしなかったが、この中でまだ経験がないに等しいクレスを思ってくれての言葉だ。
素直に頷くしかない。
それに対してマチスさんも静かに頷くだけだった。
「俺が少し様子を見てくる。いざとなったら、馬車で逃げれるように用意だけしておくんだ!」
「わかりました!」
言われて、ダネフさんが馬の準備に取り掛かろうとしたところだった。
ギャギャギャギャッ!!
出た!これが魔物!?
「なっ、こんな近くに?!ゴブリンスカウトだ!みんな注意しろ!」
そういって、現れた全身を黒塗りにしているゴブリンに向かっていくドリス。
ただでさえ暗いのに、黒塗りしているゴブリンの姿は捉えられない。
熟練冒険者のドリスですら、そうなのだ。
他の二人もマチスとマリアを守るので精いっぱいだった。
「エース!」
ウォンッ!と一吼えしてゴブリンに噛み付く。
エースは夜に小さなウサギの狩りをするくらい、夜目が利く。
しかも、鼻がいいので姿が見えなくてもすぐに見つけれるのだ。
エースが一匹のゴブリンの足に噛み付いた。
だが、ゴブリンの方も黙ってやられるわけが無い。
手に持つダガーで、エース目掛けて振り下ろそうとした!
ヒュンッ!…ズシャアッ!
この夜に一本の矢が飛び、ゴブリンの頭を貫いた。
「いやー、この弓矢は流石上等なものですね。ブレが全くないな」
そう、俺が放った矢だ。
夜の狩りはたまにしているので、この歳でもまだ夜目が利くのだ。
なので、俺にもゴブリンの姿が見えていた。
と、油断していると。
「おい!ウード後ろ!」
自分の死角から飛び出てきたもう一匹のゴブリン。
それが俺の顔に飛びついてきた。
う…すごい臭い…。
じゃなかった、やばいこのままだと殺される!
渾身の力を込めて引き剥がそうとするが、ゴブリンの力の方が強くて無理だ。
やばい…死ぬ…。
ゴブリンが手に持つ凶器が、俺の頭に刺さりそうなその時だった。
「…お父さんから、はなれろおおおおおおっ!!!」
縦一閃。
クレスが放った剣閃に真っ二つにされて、ゴブリンが左右に割れた。
そして俺も…
なんともない?!
この土壇場でクレスが、俺の顔には傷一つ付けずにゴブリンを真っ二つにするという、神業を成し遂げるのだった。