ウインドを出た俺達は、海を渡る為にまずは中央都市セントラルへ向かう事にした。
 海を渡るには、セントラルの北にあるオーサという町へ行かないといけないのだが、海を渡るには中央都市セントラルで手続きをしないといけない。
 理由は、海の先は別の国になっており許可証が無いと面倒な検査を受けないといけないらしい。

 その点俺達は冒険者ギルドから正式に冒険者ライセンスを貰っており、冒険者ギルドに申請を出せば許可証を発行してもらえる。
 そのギルドの正式な許可証を見せれば、指名手配犯じゃない限りそれだけで入国出来るんだとか。

「お父様が言うには、商人の場合は商人ギルドから許可証を発行して、更に運び込む荷物の積荷の品目一覧とか色々と出さないといけないから、身一つで入れる冒険者の方が楽でいいと言っておりましたわ」

 流石大商人の娘、一般人の俺には分からない事も当たり前の教養として身に付けている。
 俺もしっかり勉強しないとだな。
 ちなみに俺に商人のいろはを教えてくれたのもマチスさんだ。

 俺が若い頃に冒険者としての才能が無いと判断されていた時に、動物調教師《テイマー》としてなら生きていると見込んでもらえ、家畜や馬を卸す仕事を与えてくれたのだ。
 マチスさんに会っていなければ俺はクレスを養うどころか碌な生活をしていなかったに違いない。

 セントラルは、この大陸一の大都市で人口は30万人以上いる。
 名前の通り大陸の中央にあるため、様々な物資と人が行き交う都市であり、ここにはあらゆるものが揃っている為、人口がどんどん増えていっている。

 人口が増え続けているため物資が不足しているため、意外と物価が高い。
 逆に言うと多少の値上げくらいなら問題ないので、一旗揚げようと商人達も自然と集まっている。
 そのため様々な物が入ってくる一方で、毎日様々な商人たちがひっきりなしで出入りしている。

 中央都市セントラルの北には王家が住む王都と王城があり、貴族たちはそこに住んでいる。
 ここには通行書が無いと一般人は入れない為、俺が行く事は無いだろう。
 そういや、アーネストさんはその王都で働いていた王宮魔術師だったらしいな。
 
 王都に入るのは厳しい制限が掛かっているが、中央都市側は比較的自由に行き来出来るので、別名『自由都市』とも言われている。

 冒険者ギルドの本部もここにあるのだ。
 流石本部とあって重要なクエストもここに集まっている。
 地方では受ける事の出来ない高額報酬や高難易度のクエストを受ける為、Aランク冒険者が多数滞在している。

 まずはそこに行って、今回のウインドの町で起きた出来事を伝えないといけない。
 俺はあまり説明が上手くないのだが、今回は書簡を届けるクエストとして大事な報告書を本部に届ける事で事は足りるだろう。

 細かい事はクレスやマリアに聞いて貰えば、上手に説明してくれるに違いない。

『なんか、情けない事を考えておらんか?』

 ヘルメスさん、勝手に人の心を読むんじゃない。
 しかし、物事には得手不得手という物があるんだ。
 こういうのは、学術が得意な二人に任せるのが得策だ。

『わ~、久々の大きな都市だなぁ。ぼくが自由に駆け回っていた頃は、ここに町はなかったんだけどなぁ』

『フェーン、それはもう数百年前の話だぞ?』

 『ええ~!?』と心の声を駄々洩れにして驚いているが、俺には二人の会話が丸々聞こえてしまうのでもう少し静かにして欲しいもんだ。

 馬車に揺られて数時間。
 勿論、御者は殆ど俺だが、時々交代したがるので交代しつつゆっくり走らせている。
 
 既に目の前に大きな門が見える。
 あれが『自由都市』を囲む防壁にある門だな。

 比較的自由に入れる都市とはいえ、何も審査が無いわけじゃない。
 しっかりと、身分と荷物や貨物も調べられる。
 
 とはいえ、身分を証明する物があるので、俺達はそれほどの時間も掛からずに中に入る事が出来た。

「やっぱり、このギルドタグの効果は大きいですね」

「魔法で刻印されているから偽造出来ないみたいだし、みんなDランク以上だからね」

「でもあの守衛のおっちゃん、わたし達を見て何度もタグを確認していたよ?」

「そりゃあ、お前達3人はまだ若いからな。その歳でDランク以上になるって凄いことらしいぞ?」

 そんな事を話つつ、街の中を抜けていく。
 門衛にも確認し、ギルド本部のある場所へ向っていく。

 宿屋も探したいところだけど、それもギルドに聞くといいと親切な門衛のおっちゃんが教えてくれた。
 最初こそ疑ったが、偽造出来ない物である以上本物なわけで。
 本物と分かった後は、興奮気味に、

 『おめーたちすげーな!名前は?『ラ・ステラ』?聞いたことないチーム名だな。何、結成してまだ2か月くらい!?それでチームも本人達もDランク以上って、すげーな。おし、今度からおめーらの顔は覚えた!次から、顔パスでいいぞ!これからも、頑張るんだぞ~!』

 といっぱい色々言われた。
 話の最後には応援までしてくれたので、とってもいい人だったなぁ。

 馬車を10分も走らせていると、ギルド本部に辿り着く。
 ちゃんと馬車を預かる厩舎があり、そこに馬車を預ける。
 勿論、タダというわけにはいかないのでチップを渡しておいた。

 最初は魔獣扱いのヘルメスとフェーンもここで預かると言われたが、『私の従魔なので、常に一緒にいたいのです』と言ったら、笑顔で『大事にされているんですね、とてもいい事ですよ』と言われた。

 大事にしてない訳じゃないけど、彼の言う意味とは違うので少し心が痛い。
 離れられないのは本当なので、どちらにせよ置いていけないのだ。
 これでエースだけ置いていくとあとでかなり拗ねるので、エースも一緒だ。
 クレスにじゃれ付きながらも、暴れることなくギルド本部に一緒に入る。

 中に入ると、とても広くて綺麗だった。
 しかし、そこに居るのは間違いなく屈強な冒険者ばかり。
 俺の様などこから見ても村人のおっさんの様ないで立ちをしている者はいない。

 せめてもう少しくらいそれっぽい恰好でもしようかな…。
 そう思っていると、最初は訝しげな視線ばかりだったがクレス達を発見した途端あたりの雰囲気が変わる。
 
 冒険者には女性が居ない訳じゃない。
 荒事が多いのでどうしても男性が多くなっているが、それでも3割くらいは女性だ。

 しかしだ。
 その殆どの人が、見た目からして屈強な女の戦士ばかりなのである。

 そんな時に、まだ少女とはいえ可憐な見た目の美女が3人入ってきたらどうなるのか?

「お嬢さん達、見たところまだ新人さんじゃないのかな?俺のとこにきたら、いい事を教えてあげるよ?」
「いやいや、こんな胡散臭いやつより俺のとこにきな!なに、戦えなくても俺らが戦うから大丈夫だ!一緒に来るだけで分け前をやるぞ!どうだ!?」
「こんな野蛮な集団に入ったら何をされるか。さあ、僕らのようなエレガントなチームに是非───」

 と、そんな輩がわらわらと集まってくるのだった。

 うん、こうなると分かっていたさ。
 だから、お父さんはクレスだけで旅をさせれないんだよっ!!?
 と冒険者達を蹴散らすべく鬼の形相を作り、その集団に割った入ろうとする俺であった。