「まあ、贈り物と言っても、儂が与えられるものなど決まっておるの」

 そう言うと、1冊の分厚い魔導書を取り出した。
 その装飾を見る限り、かなり使い込まれた物と感じられる。

「これはの、儂が創ったオリジナルの魔導書だ。儂の考えた魔法が記されておる」

「え、師匠!それをくれるんですか!?」

「馬鹿者!これをくれてやってもお主らでは殆ど使えぬわ!しかし、この中からお主らに丁度良さそうな魔法を授けよう。そうだの、これなんかが丁度いいだろう。
 レイラよ、お主には『散火弾《ショットガン》』を、マリアには『氷結槌《アイスハンマー》』、そしてクレスには『高速電撃弾《レールガン》』を授けよう。これらを今からお主らの頭の中に刻印する。しっかりと受けとれい!」

 すると、三人に目掛けて詠唱を始めるアーネスト。
 その手の平には小さな魔法陣が浮かび上がる。
 そして、3つの魔法陣が出来上がるとレイラ、マリア、クレスに向っていった。

 3人が魔法陣に包み込まれると、一瞬ぐらっとよろめく。
 しかし、それ以外はなんともないようだ。

「これは…。魔法のイメージ?」

「ほう、流石だの。やはりクレスが一番魔法の才能があるようだの?そうじゃ、今浮かび上がっているイメージそのまま空に向って魔法を放ってみよ」

 アーネストに言われるままに、クレスが魔法を解き放った。

「『電撃』を一か所に溜め込んで、『飛翔』と『高速』を重ね掛けし、瞬時に解き放つ…。これが…瞬き翔けろ雷!『高速電撃弾《レールガン》』!!」

 バリバリバリバリバリバリ!!っと音を立てて、一直線に空を焦がす眩い光が放たれた。
 空から落ちる稲妻とは違い、一点に収束して放たれるその魔法は、岩をも貫きそうだ。

「うむうむ、一回で成功するか。良い才能を持っておる。その魔法は『電撃』よりも魔力消費を抑えつつ、発射速度、威力を格段に向上させた攻撃魔法だ。もっと修練すれば金属の盾すら撃ちぬけるだろうの」

 マジかよ。
 金属を貫く魔法とか、聞いた事ないんですけど?
 まぁ、元からそんなに詳しくないけどさ。

「では、私も!氷魔法を一点に集めて、集めて、集めて…」

 マリアが魔法を発動すると、杖の先にどんどん氷の飛礫が集まり次第に大きくなる。
 そして…。

「砕け!凍れ!『氷結槌《アイスハンマー》』!!」

 マリアは集めた氷の塊をそのまま目の前に打ち付けた。
 ドガンバリバリイーーン!と大きな音を立てて砕けるが、その衝撃で岩も砕けるだけでなく、砕けた岩やその周辺も凍り付いた。

「うむ、合格だの。マリアも魔法のセンスは申し分ないようだの。うむうむ。さて…、最後はレイラだの?」

「うう…。未だに『火弾《ファイヤー》』すら使えないのに、また火系魔法!?ええと…、小さな火を玉を一瞬作って前方にばら撒く?…こうかな?『散火弾《ショットガン》』!」

 パパパパパパパンッ!!と連続で破裂する音ともに、チカチカする光が発せられた。
 うん、しっかり見てたせいで目がちかちかする。

「師匠~。これって攻撃威力無いんじゃ?」

「うむ、その通りだの。お主のセンスでは、威力のある火炎を作るのは難しい。だから、一瞬で爆発させて威力をあげる『爆炎』系の魔法を覚えさせたのだが、これは少ない魔力で作り出せる目くらましだの。剣を主力に戦うお主には、こういう虚を突く魔法が有効だろうて」

 『ううーーん、そうかのかなぁ?』と悩む仕草をするも、『なるほど、自分の戦闘スタイルには便利かもね』と言って納得していた。
 切り替えが早い子で良かったと思う。

「もっと高威力な魔法はいくらでもあるがの、いまのお主らではこれらが丁度良いじゃろう。また、会う機会があればそのレベル合わせて授けてやるかものぅ」

 ふぉっふぉっふぉと笑うと、地面にへたり込むアーネスト。
 やはり歳には勝てないのか?
 いや…、今ので魔力がまた枯渇したみたいだな。

「アーネストさん!大丈夫ですか?」

 クレスが、すかさず倒れそうになるアーネストを支えた。
 マリアも治療魔法をかけようとするが、本人に手で止められた。

「大丈夫だ、少しふらついただけの事。歳には勝てんわい」

「アーネスト様!そんな魔力が少ない状態で『魔法継承』などすれば、魔力が無くなるに決まっているではないですか。下手すれば、お命にかかわりますよ?」

「ほほほ、良く知っておるの?だいぶ昔に大きな魔獣と戦って大怪我をしてしまっての。それで儂は現役を退いたのだ。せめて、役立つ魔法を後世に残さんとの」

 それからほどなくして、ギルド職員に支えられてつつアーネストは帰っていった。
 一先ず命に係わるほどじゃないらしいので安心だ。
 新しい魔法に湧いている娘たちだが、目下の問題が残ったままだ。

「そういや、封印はどうするの?」

「完全な封印は出来ませんが、しばらくはこうして封じているしかないでしょうか…」

『ならば、我に任せぬか?』

「「「え!?」」」

 皆がヘルメスの方を向く。
 まさか、封印する方法があるのか?
 だとしたら、先に言って欲しかったんだけど。

『我が本体内に取り込めば、封印された事と同じ状態になる筈だ。ただ、取り出すには大量の魔力を必要とするからそう簡単に取り出せなくなるがな』

「どうせ使えないんだろ?だったら、いいんじゃないか?」

 そう言って見渡すと、町長だけが顔を青ざめている。
 ああそうだ、このままだとこの町が火の海になるんだったよね。

「分かりました、それならヘルメス様にお任せしましょう」

『フェーンもそれで良いか?』

『うん、そうだね。でもそれだとさ、ぼくはお役目の為に君達について行かないといけないんだけど…』

 少し考える素振りを見せてから、俺の方を見た。
 あの目は、猛獣が獲物を発見した時の目だ。
 嫌な予感しかしないぞ。

『ならば、このウードと契約したらどうだ?弱った体で外に出てしまったら、魔力が切れて消滅するぞ?』

『あれ、やっぱりそうなんだ?今までは、その槍から溢れる魔力を糧にしていたけど、もう出来ないもんね。でも、契約したらその『神の贄』の魔力を貰えるって事かな?』

『うむ、その通りだ。僅かな魔力でも、この者の魔力であれば魔力を回復していく事も可能だろう』

 ヘルメスが勝手に俺の魔力をあげる約束しているけど、俺大丈夫か?
 でも、あの槍から魔力が溢れているのであればヘルメスを通して俺にも魔力が供給されるって事か?

『そうなんだね、分かったよ。この町はこの地で生まれた眷属たちに任せるから、これからはきみ達について行くよ。その方が色々と面白そうだし、お役目も果たせるからね』

 色々と勝手にヘルメスが決めてしまったが、俺は神獣と更に契約するみたいだ?
 フェーン本人は、尻尾をぶんぶん振り回し本当に面白がっているみたいだ。
 ああやっていると、大きくなっただけのエースみたいだな。
 ちょっと、かわいい。
 契約したらもふもふさせてくれるかな?

『心配するなウードよ。我と同じく、この杖の中にフェーンの本体と槍を封印するのだ。今までと変わらんぞ?』

「ん-、そうなのか?まぁ、今更心配してもそれしか手が無いんだろう?フェーンも、ヘルメスと同じく魔力が切れて消えてしまうかもしれないんだろう?分かった。契約しよう」

 魔人のせいで滅茶苦茶にされた挙句消えるだなんて、可哀想すぎる。
 俺なんかと契約するだけで生き残れるなら、助けてあげたい。

『ありがとう、ウード。これからは君から魔力を貰う代わりに、神器と共に君を守ってあげるよ!じゃあ、早速はじめるね』

 見た目と違って、少年のような口調で語りかけてくるフェーン。
 しかし、雰囲気を一変させて契約の祝詞を諳んじる。
 次の瞬間、俺とフェーン、そしてヘルメスの下に魔法陣が浮かび上がる。

『我は、神狼フェーン。炎を司る神の遣い。我は盟友との盟約により、汝ウードと契約を交わし、汝を主と認めよう!』

 カッと魔法陣が光を放って、俺とフェーンとそしてヘルメスを包みこんだ。

「あ、槍が勝手に・・・」

 クレスが思わず呟く。
 ヴァレスが持っていた槍が浮き上がり、そのままヘルメスに吸い込まれて消えた。
 そして、そのヘルメスとフェーンも同時に光の球体となって俺が手荷物杖に吸い込まれていった。

「うおおおおお・・・・」

 智慧の杖から、俺に大量の魔力が流れてくる!
 オーガ達の魔力を吸収した時とは比べ物にならない程の魔力の量だ。

『これで契約は成った。ぼく炎狼フェーンは、その時が来るまでウードに付き従うよ!』

 杖から再びヘルメスとフェーンが現れた。

「おお。再びフェーン様が顕現されたぞ!」

 そう町長が歓喜の声を上げる。
 こうして、俺とフェーンの契約が結ばれたのだった。