町長が言うにはやはりこの大きな狼がこの町の守り神であったフェーンらしい。

 元の大きさは、きっと魔獣化していた時とさほど変わらなかったのかも知れない。

 とはいえ、今でもエースの倍くらい大きな狼なのだが。

 弱っているとは思えない程フサフサの毛皮は青白くうっすらと光を帯びているように見える。
 炎嵐の神獣と言っていたけど、炎の要素は見られないな。
 もしかして、使う魔法とかスキルが炎系なのかな?

 今は瞳を伏しているが、ヘルメスの治癒が終わった事を考えるともうすぐで起き上がるだろう。
 果たして、大人しくしてくれるといいのだけど。

 すると、クレスが何を思ったかフェーンに近づいていく。
 そして、そっと撫でようとした。

「あっ、クレス!まだ危ないから近づいちゃ駄目だっ!!」

「んーん。大丈夫。もう、怖い感じはしないよ。ね、狼さん?もう、大丈夫だからね?」

 下手したら牛よりも大きな狼に、なんの恐れも無くそのしなやかな手で優しく撫でるクレス。
 心做しかフェーンの表情が和らいだ気がした。

『あれ…ぼくは…』

 頭に直接響くような声。
 ヘルメスと同じ感じだ。

 それに同調するかの様に、ヘルメスの分身体がフェーン近づいて…
 その小さな羽根で叩いた!
 って、なんでだよっ?!

『んー、君は…もしかしてヘルメス…の子供かな?ちっちゃくて可愛いねぇ?』

 まだうまく動けないのか、顔だけあげてヘルメスを見る。
 そのままその大きな口を開けば、ヘルメスをパクっと食べれそうだ。

『お主、分かってて言っているんではないだろうなっ!?…これは我の分身体だ。訳あってこの姿なのだ』

 からかわれている分かって、憤りを隠さないヘルメス。
 というか、フェーンの方もヘルメスの事を知ってる口ぶりだな。
 その気安い遣り取りを見てると、旧知の仲という感じだ。

『あっはは、ゴメンゴメン。もしかして、ぼくと一緒でチカラを失ったのかい?』

『…その話はあとでゆっくりしよう。と言うことは、フェーン。お主もチカラを失ったのか?』

『相変わらず、隠し事が下手くそだね?うん、ぼくも大部分のチカラを失ったみたいだよ』

『ふん、隠すつもりも無いがな。…しかし、一体何があったのだ?』

 そこで、フェーンから今まであった事を話してもらった。
 
 瘴気を纏った怪しい人物がフェーンの棲みかにやって来て、いきなり襲ってきた事。
 その際に、どうやら神が遺した封印を解かれてしまった事。
 そして、妖しい壺を投げつけられて、邪悪な瘴気に包まれてしまい、それから意識がなくなった事。
 俺達と戦っていたのは、朧げにだが覚えているらしい。

 どうやら、怪しい瘴気を纏った奴が例の魔人のようだな。
 妖しい壺に瘴気か…。

「あのー?守り神様はなんと仰ってるのですか?というか、守り神様と会話出来るのですか!?」

「えっ、聞こえないんですか?」

 町長が堪りかねて聞いて来た。
 俺らがフェーンと話している内容が気になるようだ。

 それより、今まで気が付かなかったんだが、ヘルメスの言葉もフェーンの言葉も周りの人には分からないのだな。
 あれ、でもクレス達には伝わっていたよな??

『お主は相変わらず抜けておるな?我らの言葉は、誰も彼もが聞けるわけではない。我らの言葉は、我らが認めた者にしか伝わらないのだよ』

「えっと…つまりは、選んだ相手にしか聞こえないって事か?」

『そんなの、当たり前だろうが』

 ええっー!?
 いや早く言ってくれよ。
 隠れてゴニョゴニョ話をしてた俺が馬鹿みたいだろ?!

『心配するな、もしもお前が大声で話し掛けていたら、常に大きな独り言を言う変人になっていただろうからな』

 あっぶねぇっ!?
 てか、どっちにしろ早く教えてほしかったよ…。
 どちらかというと俺は隠し事は苦手だから、周りに聞こえないと分かっていればもっと気楽に生活出来たのに…。

「えっとですね…、俺等はこの蛇の魔獣を通して声を聞くことが出来るんですよ〜」

 と、町長には取り敢えずそう誤魔化しておく。
 まずは詳しく話を聞くので、後で内容を伝えるとだけ言っておいた。
 『出来るなら、私もお声を聞いてみたかった』とか哀しそうに言っていたが、そこは諦めてほしい。

『そうか、君達にもぼくの声が届くんだね?流石、神の伝令ヘルメスだね』

『余計な話は良い。お主を拐かした魔人は打倒したが、この後はどうするのだ?そのままでは、ここの維持も危ういのではないか?』

『うーん、そうだねぇ。まだ生き残っている眷属達はいるから、一先ずはその子らに任せればここの治安自体は問題ないとは思うんだ。ただ…』

『ただ?』

『御主人様から預かっていた、神器の封印が解かれてしまったんだよね。ぼくでは再び封印出来ないから、とっても困ったよ』

 フェーンの口調が見た目と違って温和というか、おっとりしているせいでまるで緊張感が出ない。
 あのヘルメスですら、その様子にガックリ項垂れている。

『…あまり困った感じがしないのは我の気のせいか?しかし、その神器とはあの槍のことか?』

『!?そうっ、それだよ!取り返してくれたんだね。良かった〜!でも、そのままだと、そのうち大変な事になるんだよ。ヘルメス、数百年近くぶりだけどなんとかしてよ〜』

『全く、お主は相変わらずだな。あれは…もしかして『炎槍レーヴァテイン』か?だとしたら、そのまま放置すれば…』

『うん、そうだよ。あれ、封印が解かれるとそのうちここら辺は火の海になるね〜』

『!!?だとしたら、早くせねば!』

 のんびりとした少年のような口調で話すフェーン。
 しかし、告げている内容はのんびりしている場合ではない事だ。

「そう言えば、その槍っていうのは何処にいったんだ?」

 話をしている内に、さっきまで地面に刺さっていた槍が無くなっている。
 そこの事に気が付き一瞬全員に緊張が走る。

「それならこちらにありますよ、ウードさん」

 そう言ってそこに居たのは、ヴァレスであった。
 その右手には、さっきの槍が収まっている。

「ヴァレスさん!」

「ふふ、私もいるわよ?数日ぶりねクレス」

 その隣には、ヴァレスの従者だというマーレも一緒だった。

「二人とも、今までどこに居たんだ?というか、居たんなら手伝ってくれても良かったのに…」

「すいません。ここ数日間は先ほど皆さんが倒した魔人の動向を追っていたんです。まさか、神獣を操って嗾けられるとは思いもしなくて、正直油断してました」

 そして、二人はこの町での目的と今まで何をしていたのかを話し始めるのだった。