『───神の贄はその身を捧げ、我はその魂を貸し与える。『神降し』!』
ヘルメスがそう唱えると、ヘルメスが光の粒となって消え、その光がウードに吸い込まれていった。
その瞬間、ウードの意識が外に飛び出す。
自分が空に浮かび、自分の頭を上から見下ろしている。
今はヘルメスが操る俺の体からは緑色の光が溢れ出している。
ヘルメスが纏う魔力が外に溢れ出ているかららしい。
(何度やっても、不思議な感じだな。おっと、いけない集中しないとだな)
「ウードよ、しっかりと魔力を調整するのだぞ?我が治癒の化身のチカラにより、癒しの結界を築く!彼の者全てを癒せ──『治癒の結界』!」
手に持つ杖を地面にドンと突くと、俺(ヘルメス)を中心に辺りに光が広がっていく。
その光は地面に見たことも無い紋様を刻みつけている。
見渡す限りに広がったその光はそのまま人々を包み込み、受けた傷を癒して消し去り失った体力をすぐに回復させてしまった。
その光景を見た人々は『奇跡』だと口々に言っていた。
倒れていた冒険者も、ハッと起き上がる。
そして自分の体を見て、不思議そうに何度も見る。
「これはお父さんの…?」
「ははっ、なんとか間に合ったみたいだね!」
「何これ・・・、力が湧いてくる・・・!」
「あれは、本当にお父さんなの!?何か、いつもと違うよ」
「クレス、レイラ!今がチャンスよ、ウードさんに気を取られているうちに攻撃を!」
クレスとレイラも、気力で保っていただけのようでなんとか持ち直したみたいだな。
マリアも体力的に結構疲弊していたみたいなので、一緒に回復しておいたが状況をしっかり把握してすぐに檄を飛ばしている。
この『治癒の結界』のもひとつの特徴として、意識した相手に魔力を渡すことが出来るというのがある。
俺の体内に溜め込んであるヘルメスが吸収出来なかった余剰分の魔力を使う事が可能なのである。
しかも、理由はわからないが俺の体を通してから魔力を渡す事によって、その回復量があがるらしい。
ヘルメス曰く、魔力を増幅するこの『神の贄』のチカラを備わった為、他の魔法が使えないのだろうという事だった。
このチカラにより、俺の魔力は魔物や魔獣にとっていい匂いがするらしく仲間にしやすいとか。
しかし、逆に言うと狙われやすいという事もあるので喜んでばかりはいられない。
『神降し』したヘルメスは、俺の魔力が切れるまでは自在に俺の体を使う事が出来る。
訓練をしていた時、剣を持たせて訓練用の案山子を切らせてみたら、目が飛び出すほどの速さで綺麗に真っ二つにしたくらい、凄い腕前だった。
きっとその辺の魔物であれば、間違いなく勝てるだろう。
オーガ相手だと、俺の腕力が足りなくて負けるらしいけどね。
(俺が出来ないから、クレスみたいに魔力による強化が出来ないらしい)
しかし、真骨頂は彼のチカラのひとつ『魔力吸収』の方だ。
この状態で『魔力吸収』するとどうなるか?
それはこういう事だ。
「我が友フェーンよ、なんと哀れな姿になりおって…。お主を苦しめる、その邪悪なものをすべて吸い尽くしてやろう!『魔力吸収』!!」
ヘルメスがそう言うと魔狼フェーンを包み込んでいる黒い瘴気が、手に持つ智慧の杖へすごい勢いで吸い取られ魔力へ変換される。
『神降し』する前の数倍の吸収力だな。
さっきまでウネウネと魔狼フェーンの周りに蠢いていた触手のような瘴気がどんどんと消えていく。
それと同時に、魔狼フェーンが苦しそうに呻いているのだ。
「やはり魔力を吸い取っただけでは元には戻らぬか…。クレスよ、お主のチカラでこの邪悪なるチカラを吹き飛ばすのだ!」
「うん分かったよ、おとうさ・・・じゃなかった、ヘルメス?やってみるね!」
「あれってヘルメスなの?!なるほど、だから雰囲気が違うんだね。クレス、わたしも援護するよ!」
「クレス、私も援護しますわ!」
ヘルメスによって、そのチカラを抑えられて身動きが取れなくなった魔狼フェーン。
だが、その攻撃が止まったわけでは無かった。
魔狼フェーンの周りに、小さな魔法陣がいくつか浮かび上がる。
そこから黒い炎が浮かび上がった。
「レイラ、来るよ!」
「分かっている、マリア援護を頼むわ!」
クレスとレイラが前に出る。
それと同時に、ゴオゥッ!と黒い炎が襲い掛かってきた。
しかし、それをマリアが魔法で撃ち落とす。
「凍てつけっ!『氷の矢』!」
ジュウッっと音を立てて、黒い炎が氷の矢によって次々に消えていく。
苛立った魔狼フェーンは、更に口から黒い炎を吐き出した。
ゴオオオオウッ!と勢いよく吐き出された黒い炎を寸前で躱し、空を舞うクレスとレイラ。
「その口、とっても邪魔だから!『高速剣』」
レイラが着地と同時に剣技を繰り出した。
無数の剣が魔狼フェーンに襲い掛かる。
グオオオオオオォゥ!
その巨大な顔がその攻撃により苦悶に歪む。
顔が凶悪なので、可哀想だって気にはならないけど、効いているのは間違いない。
しかし、目的は倒す事じゃない。
彼を救う事だ。
この町の町長も『守り神を助けて欲しい』と言っていたが、俺も出来るなら助けてあげたい。
なぜならこの守り神として崇められていたフェーンという巨狼は、町の人々の心の支えになっていた。
収穫の時も皆が口々に『守り神様のお陰』と言っていた。
ここで彼を殺してしまってはいけない。
ヘルメスも彼を救うために必死なようだ。
「お主の様な者が、こんなチンケなチカラに惑わされるな!神獣としてのプライドを思い起こすのだ!」
ヘルメスがとっても恰好いい事を言っているのだけど、俺の顔だとちょっと締まらないなぁ。
でも、ちょっと神々しい光を放っているから、それっぽくはあるか?
なんにせよ、みな真剣に戦っている時に茶化している場合じゃないな。
俺も集中して、魔力を途切れないように整える。
この数日間、ずっとこの訓練をしてきたんだ。
こんなに早く使う事になるとは思わなかったけどな。
クレスはフェーンの魔狼の背中を蹴り空に飛びあがる。さらに『飛翔』を使ってそのまま空中に留まると詠唱を始める。
「…退魔の光よ、邪悪なるチカラを祓え!『銀の聖域』ッ!!」
魔狼フェーンの全身が銀色の光に包まれて見えなくなる。
ウォオオオオオオオオオオオオオオオン!!
と、最後に一吼え聴こえてくるのだった。
ヘルメスがそう唱えると、ヘルメスが光の粒となって消え、その光がウードに吸い込まれていった。
その瞬間、ウードの意識が外に飛び出す。
自分が空に浮かび、自分の頭を上から見下ろしている。
今はヘルメスが操る俺の体からは緑色の光が溢れ出している。
ヘルメスが纏う魔力が外に溢れ出ているかららしい。
(何度やっても、不思議な感じだな。おっと、いけない集中しないとだな)
「ウードよ、しっかりと魔力を調整するのだぞ?我が治癒の化身のチカラにより、癒しの結界を築く!彼の者全てを癒せ──『治癒の結界』!」
手に持つ杖を地面にドンと突くと、俺(ヘルメス)を中心に辺りに光が広がっていく。
その光は地面に見たことも無い紋様を刻みつけている。
見渡す限りに広がったその光はそのまま人々を包み込み、受けた傷を癒して消し去り失った体力をすぐに回復させてしまった。
その光景を見た人々は『奇跡』だと口々に言っていた。
倒れていた冒険者も、ハッと起き上がる。
そして自分の体を見て、不思議そうに何度も見る。
「これはお父さんの…?」
「ははっ、なんとか間に合ったみたいだね!」
「何これ・・・、力が湧いてくる・・・!」
「あれは、本当にお父さんなの!?何か、いつもと違うよ」
「クレス、レイラ!今がチャンスよ、ウードさんに気を取られているうちに攻撃を!」
クレスとレイラも、気力で保っていただけのようでなんとか持ち直したみたいだな。
マリアも体力的に結構疲弊していたみたいなので、一緒に回復しておいたが状況をしっかり把握してすぐに檄を飛ばしている。
この『治癒の結界』のもひとつの特徴として、意識した相手に魔力を渡すことが出来るというのがある。
俺の体内に溜め込んであるヘルメスが吸収出来なかった余剰分の魔力を使う事が可能なのである。
しかも、理由はわからないが俺の体を通してから魔力を渡す事によって、その回復量があがるらしい。
ヘルメス曰く、魔力を増幅するこの『神の贄』のチカラを備わった為、他の魔法が使えないのだろうという事だった。
このチカラにより、俺の魔力は魔物や魔獣にとっていい匂いがするらしく仲間にしやすいとか。
しかし、逆に言うと狙われやすいという事もあるので喜んでばかりはいられない。
『神降し』したヘルメスは、俺の魔力が切れるまでは自在に俺の体を使う事が出来る。
訓練をしていた時、剣を持たせて訓練用の案山子を切らせてみたら、目が飛び出すほどの速さで綺麗に真っ二つにしたくらい、凄い腕前だった。
きっとその辺の魔物であれば、間違いなく勝てるだろう。
オーガ相手だと、俺の腕力が足りなくて負けるらしいけどね。
(俺が出来ないから、クレスみたいに魔力による強化が出来ないらしい)
しかし、真骨頂は彼のチカラのひとつ『魔力吸収』の方だ。
この状態で『魔力吸収』するとどうなるか?
それはこういう事だ。
「我が友フェーンよ、なんと哀れな姿になりおって…。お主を苦しめる、その邪悪なものをすべて吸い尽くしてやろう!『魔力吸収』!!」
ヘルメスがそう言うと魔狼フェーンを包み込んでいる黒い瘴気が、手に持つ智慧の杖へすごい勢いで吸い取られ魔力へ変換される。
『神降し』する前の数倍の吸収力だな。
さっきまでウネウネと魔狼フェーンの周りに蠢いていた触手のような瘴気がどんどんと消えていく。
それと同時に、魔狼フェーンが苦しそうに呻いているのだ。
「やはり魔力を吸い取っただけでは元には戻らぬか…。クレスよ、お主のチカラでこの邪悪なるチカラを吹き飛ばすのだ!」
「うん分かったよ、おとうさ・・・じゃなかった、ヘルメス?やってみるね!」
「あれってヘルメスなの?!なるほど、だから雰囲気が違うんだね。クレス、わたしも援護するよ!」
「クレス、私も援護しますわ!」
ヘルメスによって、そのチカラを抑えられて身動きが取れなくなった魔狼フェーン。
だが、その攻撃が止まったわけでは無かった。
魔狼フェーンの周りに、小さな魔法陣がいくつか浮かび上がる。
そこから黒い炎が浮かび上がった。
「レイラ、来るよ!」
「分かっている、マリア援護を頼むわ!」
クレスとレイラが前に出る。
それと同時に、ゴオゥッ!と黒い炎が襲い掛かってきた。
しかし、それをマリアが魔法で撃ち落とす。
「凍てつけっ!『氷の矢』!」
ジュウッっと音を立てて、黒い炎が氷の矢によって次々に消えていく。
苛立った魔狼フェーンは、更に口から黒い炎を吐き出した。
ゴオオオオウッ!と勢いよく吐き出された黒い炎を寸前で躱し、空を舞うクレスとレイラ。
「その口、とっても邪魔だから!『高速剣』」
レイラが着地と同時に剣技を繰り出した。
無数の剣が魔狼フェーンに襲い掛かる。
グオオオオオオォゥ!
その巨大な顔がその攻撃により苦悶に歪む。
顔が凶悪なので、可哀想だって気にはならないけど、効いているのは間違いない。
しかし、目的は倒す事じゃない。
彼を救う事だ。
この町の町長も『守り神を助けて欲しい』と言っていたが、俺も出来るなら助けてあげたい。
なぜならこの守り神として崇められていたフェーンという巨狼は、町の人々の心の支えになっていた。
収穫の時も皆が口々に『守り神様のお陰』と言っていた。
ここで彼を殺してしまってはいけない。
ヘルメスも彼を救うために必死なようだ。
「お主の様な者が、こんなチンケなチカラに惑わされるな!神獣としてのプライドを思い起こすのだ!」
ヘルメスがとっても恰好いい事を言っているのだけど、俺の顔だとちょっと締まらないなぁ。
でも、ちょっと神々しい光を放っているから、それっぽくはあるか?
なんにせよ、みな真剣に戦っている時に茶化している場合じゃないな。
俺も集中して、魔力を途切れないように整える。
この数日間、ずっとこの訓練をしてきたんだ。
こんなに早く使う事になるとは思わなかったけどな。
クレスはフェーンの魔狼の背中を蹴り空に飛びあがる。さらに『飛翔』を使ってそのまま空中に留まると詠唱を始める。
「…退魔の光よ、邪悪なるチカラを祓え!『銀の聖域』ッ!!」
魔狼フェーンの全身が銀色の光に包まれて見えなくなる。
ウォオオオオオオオオオオオオオオオン!!
と、最後に一吼え聴こえてくるのだった。