目を覚ますと、朝から町が騒々しい。
遠くから警鐘が鳴り響いてくるのが分かる。
「一体、何事なんだ?」
バターン!と勢いよくドアが開けられた。
この部屋の鍵を持っているのは俺とクレスだけ。
予想通り、自分の愛娘が慌てた顔で部屋へ飛び込んできた。
「お父さん!外が大変な事になっているよ!」
「一体、どうしたんだ?」
「いいから、外を見て!」
言われて、俺は窓を開けて外を眺める。
すると、一瞬息を吸うのを忘れるかのような光景が飛び込んできた。
山が燃えている。
そして、その山の方から無数の黒い何かが町の方へ移動しているのが見える。
あれは…、魔物か!?
「山火事で魔物が町に流れ込んできているのか?」
「うん、詳しくは分からないけど、それを警鐘を鳴らして知らせているみたい」
「そうか、わかった。まずは全員を集めてギルドへ行こう」
「うん、分かった!みんなを呼んでくるね」
クレスがレイラとマリアを呼びに行き、各自しっかり装備を整えてからギルドへ向かった。
状況を考えると、戦闘に参加する事になるだろう。
『ウードよ、何か分らぬが燃えているあの山からとても嫌な気配がするぞ』
「あそこから魔物が大量に流れてきているのが見えた。あの山に何が起こったんだ?」
ヘルメスが不安を隠すことなく、凶兆を知らせてきた。
こんな風に言うヘルメスは初めてかも知れない。
ギルドに到着すると、少なくない冒険者が詰めかけていた。
この町に滞在している冒険者のランクは決して高くはない。
主に、この町は安全なのかとかそう言う事を聞いているみたいだ。
「現在調査中です!まずは、町の人々を守るために皆さんに協力していただきたい!ここに緊急クエスト書を発行しますので、各自これを受け取って町の防衛に参加してください!この事態が収まるまでは船は出ません!陸路も現在塞がれています!」
複数のギルド職員がクエスト書を来た冒険者に配りつつ同じことを叫んでいた。
水路も陸路も使えない。
それはすなわち、逃げ場は既になくなっているという事だ。
どうやら、町にいる冒険者はこのクエストに参加するしか選択肢は無いようだ。
「昨日までは平和でしたのに、一体なぜ…。確かこの町には守り神様がいて、魔物に襲われる心配が無かったので…」
マリアが不安げにそう呟いた。
そのを聞いていたのか分からないが、一人のベテランそうな冒険者が話しかけてきた。
「あんたらも冒険者か?見たところ駆け出しのようだが、こんな時にこの町にいるなんて災難だな。さっき農夫に聞いたが、こんな事生まれて初めてだと言っていた。守り神が乱心しかとかなんとか。とにかく、大量の魔物が町に迫ってきている。お前達みたいなヒヨッコは…。んん?!」
そこでその冒険者は、俺らが身に付けているギルドタグを見て驚く。
冒険者は他の冒険者と連携する時もあるのでギルドタグを見やすい位置に身に付けるように義務付けされている。
「よく見たら、そのギルドタグの色…、お前達Dランクパーティーなのか。こりゃあ驚いたな。ん-、あれか、あんたが高ランクで引率しているのかい?」
そう言って、俺の方を見る。
いやいや、この中で冒険者として一番弱いのは俺だよ。
そうか、こんな若い冒険者のパーティーがDランクパーティーとは信じられないんだろうな。
「いやいや、俺ら全員がDランク以上だけど、娘のクレスが一番高くてCランク冒険者だ」
人に対して改めて言うと誇らしくなる。
やはりウチの娘は最高です!
「はぁっ!?こんなお嬢さんがCランクだって?この若さでか!…いやまてよ。もしやあんたら、最近噂になっている『ラ・ステラ』っていう冒険者パーティーか?」
「驚いた。良く知っているな!ああ、俺らは『ラ・ステラ』だよ。そんな噂になっているのか?」
「ああ、俺はちょっと前までは中央都市にいたんだが、そこでも期待の新人パーティーが現れたって他の冒険者達が騒いでいたぜ?なんでもオーガロードを倒したとか」
もう、そんなところにまで話が伝わっているのか。
人の噂というのは、本当に回っていくのが早い。
ましてや、情報が命といえる冒険者だ、より伝わるのが早いのだろう。
しかし、変な自慢になっては困るなと言い淀んでいるとマリアが話を引きついた。
「はい、私達は別の討伐クエストである洞窟に行ったんですが、そこに巣くっているのが実はオーガロードだったみたいで…。運良く倒すことが出来ましたが、…今思い出しても恐ろしいですわ」
そう説明してから、こちらに顔を向けてニコっとするマリア。
どうやら当たり障りなく話を纏めてくれそうだ。
こういう時、この子は本当に頼りになる。
「運良くって…、運だけで倒せる相手じゃねーぞ?…しかし、嘘じゃなさそうだな。実力があるなら大歓迎だ。しかし、無茶はするなよ?お前達くらいの時は、何かと無理して死に急ぐからな…。確実に倒せる相手を選んで倒してくれ。なーに、他にも冒険者がそれなりにいるし、ここには魔術師がわんさかいるからな。命を粗末にするんじゃねーぞ?」
どうやら、本当に心配してくれていた親切な冒険者だったようだ。
ぶっきら棒ではあったが、気の良い人だと分かってホッとした。
しかし、この町で何が起こっているのか。
「どう思う?ヘルメス…、あれ?」
ヘルメスが何かを感じていないかを訊こうとすると、いつの間にか相棒の姿が消えている。
こんな事、今まで無かったのに…。
ギルドの真上、かなりの上空に一匹の蛇が浮いていた。
普通の蛇と違い、左右に羽が生えている。
『あ奴が棲む領域でなぜこんな事が起こるのだ?もしや、あ奴の身に何かが起きたのか?』
宙に浮かぶ白い蛇は、その者がいるであろう山を見つめて呟くのであった。
そして、問題の山からフワッと立ち去る一つの影。
邪悪に染まるその瞳は、赤い光を放っている。
しかし、フードで隠された顔はその瞳しか認識出来ない。
まさに影そのものが動いているようだった。
その邪悪は影は、燃える山の頂上を一度だけ振り返るとニヤリと嗤い、森の暗闇にすぅーっと消えていくのだった。
その直後に。
グウォオオオオオオオオオオオオオオオン!!
ウインドの町中に響き渡るほどの咆哮。
その振動で地面が揺れたほどだ。
そして、その声を聞いたギルドへ逃げてきた、人々の顔絶望の色に変わっていく。
「なんと!今のは守り神様の声だ」
「なんと怒りに満ちた鳴き声なのだ」
「お怒りだ!誰が守り神様を怒らせたのだ」
「終わりよ、この町は終わるんだわ…」
「ああ、あの魔物達に俺ら喰われてしまうんだろうか…」
「オラたちの畑が、なくなっちまう…」
人々が絶望に染まる。
既に膝を折られ、地面に伏そうとするものまでいる。
彼らにとって、絶対の守護者が居なくなったと理解してしまったのだ。
そんな中、その負の連鎖を断ち切るかのように一人の少女が叫んだ。
誰が見ても、か弱い少女。
しかし、その瞳には強い意志が宿っている。
そして、その少女の姿は戦う者の姿であった。
「みんな、聞いてください!私達が、この町にいる冒険者があなた達を絶対に守ります!ですから、ギルドの指示に従って避難してください!さあ、早く!」
逃げるのを諦めていた農夫たちがギルド職員と、それを護衛する冒険者に連れられて避難していく。
それを見送ると、こちらを振り返り。
「お父さん、みんな行こう!」
「ああ、分かったよ。行こうか」
「ええ、行きましょう」
「うん、行こう!わたしの修業した成果を見せる時が来たわ!」
クレスの言葉に、俺、マリア、レイラが頷いて返事する。
そうして、魔物がやってくる方へ足を運ぼうとした時だった。
『ウードよ、頼みがある』
すると、いつの間にか戻って来ていたヘルメスが話掛けてきたのだった。
遠くから警鐘が鳴り響いてくるのが分かる。
「一体、何事なんだ?」
バターン!と勢いよくドアが開けられた。
この部屋の鍵を持っているのは俺とクレスだけ。
予想通り、自分の愛娘が慌てた顔で部屋へ飛び込んできた。
「お父さん!外が大変な事になっているよ!」
「一体、どうしたんだ?」
「いいから、外を見て!」
言われて、俺は窓を開けて外を眺める。
すると、一瞬息を吸うのを忘れるかのような光景が飛び込んできた。
山が燃えている。
そして、その山の方から無数の黒い何かが町の方へ移動しているのが見える。
あれは…、魔物か!?
「山火事で魔物が町に流れ込んできているのか?」
「うん、詳しくは分からないけど、それを警鐘を鳴らして知らせているみたい」
「そうか、わかった。まずは全員を集めてギルドへ行こう」
「うん、分かった!みんなを呼んでくるね」
クレスがレイラとマリアを呼びに行き、各自しっかり装備を整えてからギルドへ向かった。
状況を考えると、戦闘に参加する事になるだろう。
『ウードよ、何か分らぬが燃えているあの山からとても嫌な気配がするぞ』
「あそこから魔物が大量に流れてきているのが見えた。あの山に何が起こったんだ?」
ヘルメスが不安を隠すことなく、凶兆を知らせてきた。
こんな風に言うヘルメスは初めてかも知れない。
ギルドに到着すると、少なくない冒険者が詰めかけていた。
この町に滞在している冒険者のランクは決して高くはない。
主に、この町は安全なのかとかそう言う事を聞いているみたいだ。
「現在調査中です!まずは、町の人々を守るために皆さんに協力していただきたい!ここに緊急クエスト書を発行しますので、各自これを受け取って町の防衛に参加してください!この事態が収まるまでは船は出ません!陸路も現在塞がれています!」
複数のギルド職員がクエスト書を来た冒険者に配りつつ同じことを叫んでいた。
水路も陸路も使えない。
それはすなわち、逃げ場は既になくなっているという事だ。
どうやら、町にいる冒険者はこのクエストに参加するしか選択肢は無いようだ。
「昨日までは平和でしたのに、一体なぜ…。確かこの町には守り神様がいて、魔物に襲われる心配が無かったので…」
マリアが不安げにそう呟いた。
そのを聞いていたのか分からないが、一人のベテランそうな冒険者が話しかけてきた。
「あんたらも冒険者か?見たところ駆け出しのようだが、こんな時にこの町にいるなんて災難だな。さっき農夫に聞いたが、こんな事生まれて初めてだと言っていた。守り神が乱心しかとかなんとか。とにかく、大量の魔物が町に迫ってきている。お前達みたいなヒヨッコは…。んん?!」
そこでその冒険者は、俺らが身に付けているギルドタグを見て驚く。
冒険者は他の冒険者と連携する時もあるのでギルドタグを見やすい位置に身に付けるように義務付けされている。
「よく見たら、そのギルドタグの色…、お前達Dランクパーティーなのか。こりゃあ驚いたな。ん-、あれか、あんたが高ランクで引率しているのかい?」
そう言って、俺の方を見る。
いやいや、この中で冒険者として一番弱いのは俺だよ。
そうか、こんな若い冒険者のパーティーがDランクパーティーとは信じられないんだろうな。
「いやいや、俺ら全員がDランク以上だけど、娘のクレスが一番高くてCランク冒険者だ」
人に対して改めて言うと誇らしくなる。
やはりウチの娘は最高です!
「はぁっ!?こんなお嬢さんがCランクだって?この若さでか!…いやまてよ。もしやあんたら、最近噂になっている『ラ・ステラ』っていう冒険者パーティーか?」
「驚いた。良く知っているな!ああ、俺らは『ラ・ステラ』だよ。そんな噂になっているのか?」
「ああ、俺はちょっと前までは中央都市にいたんだが、そこでも期待の新人パーティーが現れたって他の冒険者達が騒いでいたぜ?なんでもオーガロードを倒したとか」
もう、そんなところにまで話が伝わっているのか。
人の噂というのは、本当に回っていくのが早い。
ましてや、情報が命といえる冒険者だ、より伝わるのが早いのだろう。
しかし、変な自慢になっては困るなと言い淀んでいるとマリアが話を引きついた。
「はい、私達は別の討伐クエストである洞窟に行ったんですが、そこに巣くっているのが実はオーガロードだったみたいで…。運良く倒すことが出来ましたが、…今思い出しても恐ろしいですわ」
そう説明してから、こちらに顔を向けてニコっとするマリア。
どうやら当たり障りなく話を纏めてくれそうだ。
こういう時、この子は本当に頼りになる。
「運良くって…、運だけで倒せる相手じゃねーぞ?…しかし、嘘じゃなさそうだな。実力があるなら大歓迎だ。しかし、無茶はするなよ?お前達くらいの時は、何かと無理して死に急ぐからな…。確実に倒せる相手を選んで倒してくれ。なーに、他にも冒険者がそれなりにいるし、ここには魔術師がわんさかいるからな。命を粗末にするんじゃねーぞ?」
どうやら、本当に心配してくれていた親切な冒険者だったようだ。
ぶっきら棒ではあったが、気の良い人だと分かってホッとした。
しかし、この町で何が起こっているのか。
「どう思う?ヘルメス…、あれ?」
ヘルメスが何かを感じていないかを訊こうとすると、いつの間にか相棒の姿が消えている。
こんな事、今まで無かったのに…。
ギルドの真上、かなりの上空に一匹の蛇が浮いていた。
普通の蛇と違い、左右に羽が生えている。
『あ奴が棲む領域でなぜこんな事が起こるのだ?もしや、あ奴の身に何かが起きたのか?』
宙に浮かぶ白い蛇は、その者がいるであろう山を見つめて呟くのであった。
そして、問題の山からフワッと立ち去る一つの影。
邪悪に染まるその瞳は、赤い光を放っている。
しかし、フードで隠された顔はその瞳しか認識出来ない。
まさに影そのものが動いているようだった。
その邪悪は影は、燃える山の頂上を一度だけ振り返るとニヤリと嗤い、森の暗闇にすぅーっと消えていくのだった。
その直後に。
グウォオオオオオオオオオオオオオオオン!!
ウインドの町中に響き渡るほどの咆哮。
その振動で地面が揺れたほどだ。
そして、その声を聞いたギルドへ逃げてきた、人々の顔絶望の色に変わっていく。
「なんと!今のは守り神様の声だ」
「なんと怒りに満ちた鳴き声なのだ」
「お怒りだ!誰が守り神様を怒らせたのだ」
「終わりよ、この町は終わるんだわ…」
「ああ、あの魔物達に俺ら喰われてしまうんだろうか…」
「オラたちの畑が、なくなっちまう…」
人々が絶望に染まる。
既に膝を折られ、地面に伏そうとするものまでいる。
彼らにとって、絶対の守護者が居なくなったと理解してしまったのだ。
そんな中、その負の連鎖を断ち切るかのように一人の少女が叫んだ。
誰が見ても、か弱い少女。
しかし、その瞳には強い意志が宿っている。
そして、その少女の姿は戦う者の姿であった。
「みんな、聞いてください!私達が、この町にいる冒険者があなた達を絶対に守ります!ですから、ギルドの指示に従って避難してください!さあ、早く!」
逃げるのを諦めていた農夫たちがギルド職員と、それを護衛する冒険者に連れられて避難していく。
それを見送ると、こちらを振り返り。
「お父さん、みんな行こう!」
「ああ、分かったよ。行こうか」
「ええ、行きましょう」
「うん、行こう!わたしの修業した成果を見せる時が来たわ!」
クレスの言葉に、俺、マリア、レイラが頷いて返事する。
そうして、魔物がやってくる方へ足を運ぼうとした時だった。
『ウードよ、頼みがある』
すると、いつの間にか戻って来ていたヘルメスが話掛けてきたのだった。