「それで、お願いというのはですね、うちの娘の護衛を頼みたいのです」

 え、追加の馬とかペット用の動物を頼まれると思っていたんだが…。

「あの…、お言葉ですが、自分は護衛に向かないかと思いますが?」

「ああ、いえいえ。ウードさんではなくお嬢さんに頼みたいのです」

「いやいや、それなら尚更駄目でしょう!?まだ、十二歳の子供なんですよ?」

「大丈夫、ギルドには登録出来る歳でしょう?それにそんな危険な事はさせませんよ。実はですね…」

 そこでマチスさんから詳しく説明された。

 なんでも、娘さんが外の街に出掛ける予定があるのだが、護衛が男ばかりでは嫌だとごねているらしい。

 それで冒険者ギルドに依頼したが、今空いている女性の冒険者はいないという。

 当然、腕の立つ冒険者自体は雇い済みらしく、飾りでもいいので冒険者として一緒に来てほしいと言う事だった。

 もちろん馬車の御者として俺も雇うつもりだという。

「武器防具はこちらで全て用意します。それを装備して、道中娘と話をしてくれていればいいので…」

 今回はどうしても娘も連れて行かないといけないのだ、という事らしいが…

「お父さん、受けてあげようよ。いつもお世話になっているんでしょ?」

「それはそうだけど…」

 動物の世話もあるし、準備もしないといけないだろうからなぁ。
 あ、いつ出立かな?

「予定の日はいつですか?」

「出発は明後日の予定です。 受けてくれるなら、ギルドの登録はツテを使って話を通しておきますし、登録料もこちらで負担しますから!」

 最後の一押しとばかりに、畳み掛けてくるマチスさん。 
 こうなると、断るのはほぼ不可能に近い。

 それなら…

「では、条件を一つだけ追加させてください」

「おお、私に出来る事ならなんでも言ってください」

「では、俺もギルドの冒険者に登録出来るようにしてくれませんか?」

 俺の出した条件に驚くマチスさん。
 それはそうだろう、俺が冒険者の才能が無いと知っているのだから。

「一応聞いておきますが、理由は?」

「娘を一人で冒険者にするわけにはいかないじゃないですか。マチスさん、…うちの娘に目をつけた変な冒険者が、すぐ勧誘してくるかもしれないでしょう?!そうならない様に俺のパーティーに登録する為ですよ!」

 それを聞いたマチスさんは一瞬あ然とするも、納得したように笑った。

「あっはっは!あなたもすっかり親バカですなぁ。娘を持つ親としては気持ちが分からないでもないですが。ええ、いいでしょう。そういう事なら手配しておきましょう」

 ただ後悔しても知りませんからね、とだけ付け加えられた。

「しかし、クレスちゃんも大変だね。ウードさんの子離れはまだまだ先のようだぞ?」

「あははっ。でもお父さんと一緒に、色々な所に行けるなら私は嬉しいです」

「これは、なんと親泣かせが上手な娘さんですな」

 クレスの言葉を聞いて、事実俺は泣きそうになった。
 なんていい子なんだっ!

「では、明日中にギルドに登録を済ませてください。その後に簡単な講習があるでしょうから、冒険者のイロハはそこで聞いてください。それが終わったら、そのまま依頼の手続きになると思いますので、依頼を受け終わったら商会に顔を出してくださいね?」

 こうして、ひょんな事から俺とクレスは冒険者登録する事になった。

 これが俺とクレスの運命を変える事になるとは、その時は思いも拠らなかったが。

 ──
 昨日は、帰りに少し豪勢な食事をしてから帰り、村長に数日家を空けることを伝えておいた。

 家畜の世話とかは、代わりに村の人がやってくれる約束をなんとか取り付ける事にも成功する。
 (もちろん、お駄賃は発生したが)

 そして今、俺らは冒険者ギルドに来ている。

 依頼する用事も無かったので、実に二十年以上ぶりの冒険者ギルドだ。

 若い時は夢を抱いてここに来て、才能が無いと言われて門前払いを受けたのもあり、柄にも無く緊張してしまう。

 先ずは受付に行って、マチスさんの紹介だと言うとベテランの職員が出てきた。

「話はマチスさんから聞いています。お二人とも、こちらに記入をお願いします」

 そう言われて、名前や年齢等を記載する。
 今回は護衛依頼なので、クレスは護衛希望と書く。
 俺は狩人として登録をした。

 手続きが済むと、次は武器講習となった。

 主にどの武器が適しているかを見極めるために実施しているらしい。
 特に若い子は見た目で武器を選んだりしがちなので、ベテラン指導者が適した武器を選別してくれるのだ。

 俺は若い時に、ここでどの才能も無いと言われて冒険者を諦めた経緯がある。

「ウードさんは、長年弓矢を扱っているだけあり、弓矢がベストウェポンですね」

 流石にギルドが懇意にしているマチスさんの紹介なので、却下というのは無いらしい。
 まぁ、二十年もやっているので流石にそこらの若僧よりは腕が確かなのは間違いないが。

「クレスさんは、剣も斧も弓も才能がありますね。どれも上級者並みに扱いが上手いですよ。今まで経験が?」

「えーと、お父さんと一緒に森で狩りしたり薪割りしたりお肉捌いたりしてたくらいですけど…」

 そう、クレスなんだが、十歳くらいから狩りも手伝ってくれていて、下手すると俺より弓が上手い。

 薪割りを6歳からしているので、斧の扱いも慣れていて、何度か手斧で熊を仕留めていたりする。

 剣は持たせた事ないが、本人曰く肉を捌く包丁を使ってので、どう刃を当てれば切れやすいか、力が入りやすいかなど、体に染み付いてますと言う事だった。

 え、長年やってますが、そんな事出来ませんが??
 もしかして、親の贔屓目を差し引いても、この子は天才とかっ!?

「なるほど、クレスさん。あなたは中々の逸材になりそうだ。今は無理をしないで地道に鍛錬を続けてくださいね。取り敢えず、体格的に細剣をメインにしておくといいでしょう。で、ウードさんちょっとお話が…」

 俺がクレスの保護者だと知っている指導官は、俺を手招きして呼び寄せる。

「あなた、クレスさんのお父さんでしたよね?」

「ええ、その通りですが」

「あなたが今回冒険者になった理由は聞き及んでいました。正直最初は鼻で笑ってしまいましたが…」

 こいつ、なんて失礼な奴だ!
 と思うものの、だよなーと思う自分もいたりする。

「あなたの判断は、結果的に良かったと思います。今回マチスさんからの依頼が終わったら私宛に来てください。大事な話がありますんで!」

 娘の事を思うなら、絶対に来なさいと念押しまでされて送り出された俺らは早速マチスさんの商会に向かうのだった。

 ちなみに依頼の方は、指導が終わったら直ぐに発行された。
 こういうケースは稀にだが有るらしく、職員も手慣れているとのことだった。


「良くいらした、無事に済みましたか?」

「ええ、問題なく終わりましたよ」

「それは良かった。では明日の打ち合わせを始めましょう」

 こうして、いきなり冒険者になった俺達は最初の仕事である隣町までの警護についてマチスさんと打合せするのだった。