レイラの提案もあり、私達は港町サーランから河川を船で渡り魔導士の町ウインドへ行く事になった。

 サーランでは乗船手続きや、買い物などをして2日くらい滞在となった。
 思えば、こんな遠くへ来れるのも実家で家の事を全てやってくれている弟のキールのお陰だね。

 カンドを出発する前に、家に寄ったのだけどいつの間にか彼女が出来ていた。
 なんと、村長の孫娘のユンナらしい。
 私とお父さんがいない間に仲良くなったらしく、今はうちの家畜や馬の世話も一緒にやってくれるいるらしいよ。

 私にはまだ恋人とか出来た事ないのに、ちょっとズルイ!とか思わなかったと言えばウソになるけど、それでも幸せそうな顔で『ユンナとここで待っているから、姉さん父さん気を付けて行ってきてね!』と言われれば、姉としても幸せを喜んであげる事しか出来ない。

 でも、おかげで安心して村を出て冒険者として旅に出れるのだから、ユンナには感謝しかないよ!
 ありがとう、ふやけきった顔している弟をよろしくね!

 最終目的地は、私の生まれ故郷だという『フォーレン』という国だ。
 ここサーランで出会った不思議な雰囲気の二人組に教えて貰った国だ。

「確か、名前をヴァレスさんと言ったっけ?」

「はい?呼びましたか?」

 船が来るまでの待合室で皆で寛いでいたところ、思わず呟いた一言に丁度入ってきた銀髪の美青年が反応した。


「ええええっ!?なんでいるんですか?」

「え?なんでって、船に乗るからなんですが…」

「いや、そうですよね…。っじゃなくて、なんでこの町に?もしかして、この町に住んでいるの?」

 そこに居たのは紛れもなくあの時の二人組、ヴァレスさんとマーレさんだった。
 まさかこんなタイミング良く現れるとは思っても居なかったので取り乱してしまい、少し恥ずかしい。
 でもなんでこんな所で会うんだろうか?

「いえいえ、私達は任務がありあちこちを飛び回っているのです。それにしてもお久しぶりですね。確かクレスさんと…ウードさん?そちらのお嬢様方にはお初にお目にかかりますね」

「ヴァレスさんにマーレさんか。3年ぶりくらいか?良く俺らの事を覚えていたなぁ」

「わたくしは、マリアと申しますわ。以後お見知りおきを」

「わたしはレイラだよ。宜しくね、クレスと同じ銀髪のお兄さんっ!」

 お父さんは相変わらず訝しげに二人を見ているが、嫌っているという感じでは無さそうだ。
 なんだろう、苦手意識でもあるのかな?
 マリアとレイラは笑顔で挨拶している。

 マリアは流石お嬢様に育てられているので、スカートの端をつまんで綺麗な挨拶をして見せた。
 対してレイラは、珍しく自分から寄り付いて顔を近づけて挨拶していた。
 今にも腕でも組みそうな勢いだ。
 マーレさんが後ろからコホンッと咳払いすると、ヒューっと離れたが。

 二人はやっぱり恋人なのかな?
 これだけお互い美男美女だから、そうなってても不思議じゃないよねぇ。
 うん、別に羨ましいとかじゃないんだからね?
 お似合いだと思うし!

「丁度、クレスさんとウードさんに伝えたい事があったので、探していたのですが、見つかって良かったです」

「ほう、うちの娘と俺にかい?」

「はい、我々の国の事と、クレスさんのその魔力についてです」

「!?」

 その言葉で私とお父さんの警戒が一気に高まった。
 あの事を知っているのはお父さんと私、それとヘルメスくらいだ。
 あれ以来あの力を発動する事は出来ていない。

 一体この人たちは、何者なんだろうか?

『ウード、気を付けよ。いくら同郷らしきものとは言え、あの場に居なかったものが知りうる筈が無い。不用意な事は言うなよ?』

(ああ、分かったよ。もし、万が一の時は頼んだよ)

『心得ている』

 そこで大きな鐘の音が鳴り響いた。
 どうやら船が到着したようだ。

「どうやら船が来てしまったようですね。私達も同じ船に乗りますので、船の中で話をしましょうか」


 そこでヴァレスさん達と別れて、私達も乗船することにした。
 お父さんは馬車を入れないといけないので、先に馬車や馬たちを乗船させる。
 もちろんエースも一緒だ。

 船での移動はおよび8時間程だ。
 小舟なら人力であるが、この大型の船の場合は人力で動かせる規模じゃないので魔道具が使われるらしい。
 魔道具は学校で習ったくらいの知識しかないけど、魔力を込める事で様々な働きをしてくれるらしい。

 その魔道具によっては、物を一時的に浮かせたりする物があるらしいのでとても便利だというのは間違いない。
 そういえば、ジャイアントウーズを討伐した時にも魔道具が落ちてたんだっけ?
 既に壊れてたから捨ててきちゃったみたいだけど、何の魔道具だったのかなぁ。

 船に乗ってしばらくすると、ヴァレスさんとマーレさんがやって来た。
 本当にこの船に乗る予定だったんだね。

「お待たせしました。今日は天気もいいし、波も少ないらしいので外で話をしましょうか」

 みんなで甲板に出てきた。
 水しぶきが舞い、心地よい風が吹く。

「それで話と言うのは?」

 お父さんが早速話を切り出した。
 その目線はいつもより厳しい気がするのはきっと気のせいじゃないよね。

「はい。まずは私達の事ですが…。この銀色の髪を持つ我ら一族は、邪悪なる者を祓う役目を担っています。その役目で我ら二人もこの国であちこちを回り、暗躍する者を祓ってきたのです」

「暗躍する者?」

「はい。邪悪なる神に仕え、この世に混乱を齎す存在。我々はソレを『魔人《マジン》』と呼んでいます」

「魔人…ですか」

「はい、そうです。皆さんは会ったことがある筈です。黒い靄を纏った人語を話す魔物を」

 人語を話す黒い靄を纏った魔物…。
 それって、もしや…。

「クレスさん、ウードさん。あなた方は人語を話すオーガに会いましたね?」

「なぜ、それを!?」

 あの場には自分達しかいなかった筈だ。
 それなのになぜヴァレスがその事を知っているのか。

「黒い靄の事は、誰にも伝えていないが、それをなぜあんたが知っている?」

「ウードさん。そう警戒しないでください。我々は、その魔人を探す能力を持っているんです。ですから、あなた方が偶然遭遇する前にあそこに潜んでいる事は知っていたのですよ。当然、ある程度の調査も済んでいました」

「じゃあ、偶々俺らがあそこに来たと言うのか?お前が嵌めたんじゃないだろうな?」

「そんな事をするわけが無いでしょう?どちらかと言うと、貴方達が中に入ってしまって焦りましたよ。慌てて追いかけて中に入った時には通路が塞がってしまうし、無理に壁を壊せば崩落する恐れもありましたからね」

「あの時、()()()()()と私とで別のルートを探していたんですが、その前に皆さんが脱出したのを感じて戻ったのです。そうしたら、道が開けているのであのオーガ達の亡骸を調べたんです。まだ魔人の魂が残っていると思ったのですが…綺麗に消え去っていました」

「その時に確かに感じたのですよ、銀の魔力が使われた事をね」

「銀の魔力?」

 ヴァレスさんと、3年ぶりに会った私はあの時に覚醒したチカラについて、知る事になるのだった。