私は、レイラ。
カンドにある商家の娘。
上に兄が二人いて、下には妹がいる。
父から兄妹全員が商家の者として読み書きや計算、礼儀作法など厳しく教育を受けさせられていた。
おかげで普通の人よりはそう言う事が出来ていたけど、ただそれだけだった。
通常、商家の家の娘は同じ商人ギルドの家に嫁がされる。
うちの家は商人ギルドの中ではそれほど力が無いため、嫁ぐ先も良くて少しランクの上である商家の次男坊の嫁というのがいいところだという。
別にそれ自体に不満は無いのだけど、ただどれだけ努力しても意味が無いと言われているようで小さい時からとても嫌だったのを覚えている。
転機は急に来た。
10歳の頃、父が知り合いの高ランク冒険者と知り合いらしくたまたま家に来た事があったわ。
その時に、兄が剣の稽古を無理やりお願いして、苦笑いしながらもその冒険者が指導を兼ねて模擬戦をしたの。
結果は散々足るもので、その指導をしてくれた冒険者には才能がないとハッキリ言われていた。
あの時のしょげた兄の顔は今でも覚えているわ。
その時にわたしは何を思ったのか、落ちていた木の棒を掴み自分もやりたいといきなり飛び掛かったのよ。
小さい時からお転婆と言われたわたしだったけど、あの時のお父様の顔ったら可笑しいったらなかったわ。
しかし、その時わたしの行動に一番驚いていたのは、その冒険者だった。
一瞬わたしの太刀筋がみえなかったらしく、結果的にはあっさり弾かれたのだけど、それでも本気で払われたのを覚えている。
当然、わたしは吹き飛ばされて宙を舞ったあとに盛大に尻もちをついて大泣きしたのだけど、次の一言でぴたりと泣き止んだ。
「大丈夫か?すまん、びっくりして一瞬本気を出してしまったよ。しかし…お嬢さんは単なるお転婆じゃないな。その小さな体では想像が出来ない程に剣の振りが早い。もしかしたら、君は剣の才能があるかもしれないなぁ」
それは単なるお世辞だったのかもしれない。
咄嗟に弾き飛ばした言い訳だったのかもしれない。
でも、わたしはそれを真に受けてしまったのだ。
お尻の痛みが消えた頃、もうその冒険者は町にはいなかったけど、わたしはひとりで剣の練習を始めた。
もちろん最初は真似事にしかなってなかったけど、段々と様になっていくのを両親が見て何かを感じたらしい。
ある時から、週に1回くらい剣の指南する先生を呼んでくれるようになった。
そのおかげで12歳になった頃には、冒険者養成学校に入学を認めて貰うまでになったのだった。
入学してみたら自分より凄い人が殆どだったので自分の才能の低さに挫けそうになったけど、クレスやマリアと出会い一緒に行動しているうちに、二人に負けたくない一心で死ぬほど訓練をしたわ。
そのおかげで『高速剣』なんていう、実家にいるときは知らなかったスキルを習得してしまったのだけど、そういう良い刺激を貰える友人に出会えて本当に幸運だったと思う。
きっと、ひとりではあんなスキルを習得する前に挫折していたに違いない。
でもそんなスキルを手に入れて、どこか自分を過信していたのね。
大切な友人を守るためにとはいえ、そのあと動けない程の重傷を負ってしまった。
あの時クレスがいなかったら、守った筈のマリアもその後で命を落としていたかもしれないのに。
戦場では最後まで立っていられないと生き延びれない。
それをあの時に痛感した。
だからこれからは、もっと強くならないと…!
自分の為じゃない、みんなの為に。
サーランに出発する前、ギルドに通って他の冒険者やギルド職員に色々聞いて調べたわ。
自分に今足りないのは、さらなる攻撃手段。
一手だけでは決定打に欠けると考えた。
そうなると、今は使っていない攻撃手段がいい。
そう、つまり魔法だ。
魔法の適性は『炎』だと分かっている。
クレスは『風』。
マリアは『水』。
ウードさんは適正無ということだ。
ウードさんと違い、適性があるのに魔法が使えない。
オーガと戦うまでは、剣があるのだからいいと慢心していた。
でも、実際に戦って分かってしまった。
それだけでは足りないのだと。
でもこれから新しいスキルを習得するのは、とても難しいと思う。
なんせ今使えるスキルが剣技の中でも上位に分類されるものだから。
これ以上の剣技となると、自力でなんとか出来るものじゃないのはわたしでも分かっている。
だからこそ、今まで疎かにしていた魔法を習得しないといけないと思ったの。
冒険者ギルドで熟練の炎の魔法使いについて聞いて回った。
中でも指導をしてくれるような上級者がいないかをだ。
何人にも聞いて、今そんな人はいないだろうと言われ続けた。
アテが無くなり、途方に暮れそうになった時だった。
ある人が教えてくれそうな人がいる所を教えてくれた。
それはここサーランから船で河を渡り、渡った先のとある町だ。
そこは魔導士が多く住む町らしく、現役を退いた魔導士もいるらしい。
そこの町なら引退した炎の魔導士もいるだろうという事だった。
「だからウードさん、今後の為にその町に行って炎の魔導士を探したいの。わたしのせいで寄り道をさせてしまうかもしれないけど、これ以上みんなの足を引っ張りたくないの。それにこれからも皆と一緒にわたしも旅もしたいから!」
自分でもわがままだって分かっている。
他のパーティーなら、その時点で一旦別れると言われるだろうと。
いやもしくは、そもそも反対されるかも知れない。
剣の才能が多少あったとしても、本格的な訓練は家での2年も合わせても5年しかない。
そんなわたしだけの為に、寄り道をするパーティーなど殆どいないだろう。
だからウードさんも…。
「それって、ウインドの町の事か?確かに魔導士が多いらしいな。ああいいよ、次の目的地はそこにしようか。あそこは果樹園が沢山あるって話だし、美味しい果物が食べれるぞ」
『ほう、魔導士の町ウインドか。あそこには、丁度行きたいと思っていたのだ』
「ええっ!?いいの?私の意見で目的地変えちゃって」
正直こんなすんなりいいと言われるとは思ってもいなかった。
そのまま真っ直ぐ中央都市セントラルへ向かうとばかり思っていた。
中央都市セントラルは、その名前の通りにこの大陸の中央にあり大陸を治める王家の王都と王城が隣接している都市だ。
人口はおよそ30万人。
この大陸で一番大きな都市だわ。
王都へは通行証が無いと入る事は出来ないけど、この中央都市には比較的自由に入る事が出来る。
もちろん、一般人は門番のところで一般的な審査を受ける必要があるけど、よほど怪しい奴じゃない限り通れるという話みたい。
もちろん、今の私達ならギルドタグを見せるだけでパス出来るんだけどね。
報酬がいいクエストも比較的このセントラルに集まる傾向にあるから、まずはそこへ行こうと話をしていたばかりだった。
だから反対されると思っていたんだけど…。
「いいも何も、そこに行った方がレイラが強くなれる可能性があるなら是非も無いだろう?それに、急ぐ旅じゃないんだから」
「そっか…。うん、ありがとうウードさん!」
「レイラも、もっと早く言ってくれればいいですのに。意外とそういうの気にするのですから」
「ははっ、ごめんね。なんか我儘言うみたいで嫌でさ」
「レイラ、そんなのは我儘でも何でもないよ。みんな仲間なんだし、遠慮しないでよ」
「うん、みんなありがとうね!」
みんなのお陰で、笑顔で出発する事が出来る事になった。
やっぱり、このパーティーに入れて良かったと心から思うわたしだった。
その後の食事が飛び切り美味しくて、目の端に涙が浮かんでいたのは仕方ないと思うわたしだった。
カンドにある商家の娘。
上に兄が二人いて、下には妹がいる。
父から兄妹全員が商家の者として読み書きや計算、礼儀作法など厳しく教育を受けさせられていた。
おかげで普通の人よりはそう言う事が出来ていたけど、ただそれだけだった。
通常、商家の家の娘は同じ商人ギルドの家に嫁がされる。
うちの家は商人ギルドの中ではそれほど力が無いため、嫁ぐ先も良くて少しランクの上である商家の次男坊の嫁というのがいいところだという。
別にそれ自体に不満は無いのだけど、ただどれだけ努力しても意味が無いと言われているようで小さい時からとても嫌だったのを覚えている。
転機は急に来た。
10歳の頃、父が知り合いの高ランク冒険者と知り合いらしくたまたま家に来た事があったわ。
その時に、兄が剣の稽古を無理やりお願いして、苦笑いしながらもその冒険者が指導を兼ねて模擬戦をしたの。
結果は散々足るもので、その指導をしてくれた冒険者には才能がないとハッキリ言われていた。
あの時のしょげた兄の顔は今でも覚えているわ。
その時にわたしは何を思ったのか、落ちていた木の棒を掴み自分もやりたいといきなり飛び掛かったのよ。
小さい時からお転婆と言われたわたしだったけど、あの時のお父様の顔ったら可笑しいったらなかったわ。
しかし、その時わたしの行動に一番驚いていたのは、その冒険者だった。
一瞬わたしの太刀筋がみえなかったらしく、結果的にはあっさり弾かれたのだけど、それでも本気で払われたのを覚えている。
当然、わたしは吹き飛ばされて宙を舞ったあとに盛大に尻もちをついて大泣きしたのだけど、次の一言でぴたりと泣き止んだ。
「大丈夫か?すまん、びっくりして一瞬本気を出してしまったよ。しかし…お嬢さんは単なるお転婆じゃないな。その小さな体では想像が出来ない程に剣の振りが早い。もしかしたら、君は剣の才能があるかもしれないなぁ」
それは単なるお世辞だったのかもしれない。
咄嗟に弾き飛ばした言い訳だったのかもしれない。
でも、わたしはそれを真に受けてしまったのだ。
お尻の痛みが消えた頃、もうその冒険者は町にはいなかったけど、わたしはひとりで剣の練習を始めた。
もちろん最初は真似事にしかなってなかったけど、段々と様になっていくのを両親が見て何かを感じたらしい。
ある時から、週に1回くらい剣の指南する先生を呼んでくれるようになった。
そのおかげで12歳になった頃には、冒険者養成学校に入学を認めて貰うまでになったのだった。
入学してみたら自分より凄い人が殆どだったので自分の才能の低さに挫けそうになったけど、クレスやマリアと出会い一緒に行動しているうちに、二人に負けたくない一心で死ぬほど訓練をしたわ。
そのおかげで『高速剣』なんていう、実家にいるときは知らなかったスキルを習得してしまったのだけど、そういう良い刺激を貰える友人に出会えて本当に幸運だったと思う。
きっと、ひとりではあんなスキルを習得する前に挫折していたに違いない。
でもそんなスキルを手に入れて、どこか自分を過信していたのね。
大切な友人を守るためにとはいえ、そのあと動けない程の重傷を負ってしまった。
あの時クレスがいなかったら、守った筈のマリアもその後で命を落としていたかもしれないのに。
戦場では最後まで立っていられないと生き延びれない。
それをあの時に痛感した。
だからこれからは、もっと強くならないと…!
自分の為じゃない、みんなの為に。
サーランに出発する前、ギルドに通って他の冒険者やギルド職員に色々聞いて調べたわ。
自分に今足りないのは、さらなる攻撃手段。
一手だけでは決定打に欠けると考えた。
そうなると、今は使っていない攻撃手段がいい。
そう、つまり魔法だ。
魔法の適性は『炎』だと分かっている。
クレスは『風』。
マリアは『水』。
ウードさんは適正無ということだ。
ウードさんと違い、適性があるのに魔法が使えない。
オーガと戦うまでは、剣があるのだからいいと慢心していた。
でも、実際に戦って分かってしまった。
それだけでは足りないのだと。
でもこれから新しいスキルを習得するのは、とても難しいと思う。
なんせ今使えるスキルが剣技の中でも上位に分類されるものだから。
これ以上の剣技となると、自力でなんとか出来るものじゃないのはわたしでも分かっている。
だからこそ、今まで疎かにしていた魔法を習得しないといけないと思ったの。
冒険者ギルドで熟練の炎の魔法使いについて聞いて回った。
中でも指導をしてくれるような上級者がいないかをだ。
何人にも聞いて、今そんな人はいないだろうと言われ続けた。
アテが無くなり、途方に暮れそうになった時だった。
ある人が教えてくれそうな人がいる所を教えてくれた。
それはここサーランから船で河を渡り、渡った先のとある町だ。
そこは魔導士が多く住む町らしく、現役を退いた魔導士もいるらしい。
そこの町なら引退した炎の魔導士もいるだろうという事だった。
「だからウードさん、今後の為にその町に行って炎の魔導士を探したいの。わたしのせいで寄り道をさせてしまうかもしれないけど、これ以上みんなの足を引っ張りたくないの。それにこれからも皆と一緒にわたしも旅もしたいから!」
自分でもわがままだって分かっている。
他のパーティーなら、その時点で一旦別れると言われるだろうと。
いやもしくは、そもそも反対されるかも知れない。
剣の才能が多少あったとしても、本格的な訓練は家での2年も合わせても5年しかない。
そんなわたしだけの為に、寄り道をするパーティーなど殆どいないだろう。
だからウードさんも…。
「それって、ウインドの町の事か?確かに魔導士が多いらしいな。ああいいよ、次の目的地はそこにしようか。あそこは果樹園が沢山あるって話だし、美味しい果物が食べれるぞ」
『ほう、魔導士の町ウインドか。あそこには、丁度行きたいと思っていたのだ』
「ええっ!?いいの?私の意見で目的地変えちゃって」
正直こんなすんなりいいと言われるとは思ってもいなかった。
そのまま真っ直ぐ中央都市セントラルへ向かうとばかり思っていた。
中央都市セントラルは、その名前の通りにこの大陸の中央にあり大陸を治める王家の王都と王城が隣接している都市だ。
人口はおよそ30万人。
この大陸で一番大きな都市だわ。
王都へは通行証が無いと入る事は出来ないけど、この中央都市には比較的自由に入る事が出来る。
もちろん、一般人は門番のところで一般的な審査を受ける必要があるけど、よほど怪しい奴じゃない限り通れるという話みたい。
もちろん、今の私達ならギルドタグを見せるだけでパス出来るんだけどね。
報酬がいいクエストも比較的このセントラルに集まる傾向にあるから、まずはそこへ行こうと話をしていたばかりだった。
だから反対されると思っていたんだけど…。
「いいも何も、そこに行った方がレイラが強くなれる可能性があるなら是非も無いだろう?それに、急ぐ旅じゃないんだから」
「そっか…。うん、ありがとうウードさん!」
「レイラも、もっと早く言ってくれればいいですのに。意外とそういうの気にするのですから」
「ははっ、ごめんね。なんか我儘言うみたいで嫌でさ」
「レイラ、そんなのは我儘でも何でもないよ。みんな仲間なんだし、遠慮しないでよ」
「うん、みんなありがとうね!」
みんなのお陰で、笑顔で出発する事が出来る事になった。
やっぱり、このパーティーに入れて良かったと心から思うわたしだった。
その後の食事が飛び切り美味しくて、目の端に涙が浮かんでいたのは仕方ないと思うわたしだった。