前にいたゴブリンを吹き飛ばし、その後ろから大きな体と屈強そうな体を持つ魔物の集団が現れた。
 その丈は俺の1.5倍はあり、凶悪そうに口からは牙が覗いている。
 手にはゴブリンが持っていた倍ほどもあるこん棒が握られており、目はギラギラと獰猛にぎらつかせていた。

 吹き飛ばされて壁に激突したゴブリンは、頭から血を流しそのまま絶命したようだ。
 大柄の魔物の一体が、その頭にかぶり付いて喰らっていた。

「うえええ。ゴブリン丸かじりかよ~」

「そんな事より、この魔物達はっ!みんな、オーガだよ!」

 オーガ。その脅威度は単体でランクE、集団で現れたらランクD以上となる。
 集団といっても、それほど大勢で現れる事は少ない。
 今回も、現れたのはオーガが6体ほどだが、それでも脅威度がDランクとなる。

 オーガは動きは愚鈍だが、その怪力とタフさが特徴の魔物である。
 群れからはぐれた一体のみでも、冒険者のいない村などが襲われたらひとたまりもない。
 肉があるものをなんでも喰らう悪食で、人や家畜を喰らうので発見されたらすぐに討伐対象となる。

 ちなみにこちらもあまり加食向きじゃない(ようは、不味い)。
 しかも、素材となる部位も少なくせいぜい大き目の魔石を持っているくらい。
 だから、腕の立つ冒険者しか好んで相手にはしないのだ。

 しかし、この状況は拙いな。

『ウードよ、一旦、町に戻って救援を求めた方が良いのではないか?今のお主らでは、勝てなくもないが無事では済まんぞ』

 確かに、いくらなんでも複数のオーガを、しかもこんな狭い洞窟で相手にするのはかなり分が悪いだろう。 
 すぐに撤退を指示しようとした、その時だった。

 ガガガガ…。
 ゴゴゴゴゴ……ゴウン。

 重い地鳴りのような音を立てて、なんと後ろの道が塞がってしまった。
 そして、さっきまで壁だったところがぽっかり穴が空いて、そこから一体のオーガが現れた。

 ウガアアアアアッ!!

 力任せに振られたこん棒は、マリア目掛けて振り下ろされる。
 突然の出来事に、目を見開いて動くことが出来ないマリア。

「マリアッ!!」

「させるかああああっ!」

 咄嗟にレイラがオーガとの間に割って入るが、マリアごと吹き飛ばされてしまった。
 しかし流石と言うべきか、あの一瞬でオーガの腹部に横一文字の大きな傷を作っていた。
 ドバっとそこから血が流れる。

 ガアアアアアッ!!

 怒り狂うオーガ。
 乱暴にこん棒を振り回しながらも、さらに襲い掛かってくる。

 マリアは今の一撃で壁に激突してしまい、意識を失ったようだ。
 そのマリアを庇うように、フラフラとしながらも立ち上がるレイラ。

「う…く…、やらせないよっ!!『高速剣』!」

 レイラが無数に見える剣閃を煌かせ、オーガを切り刻んでいく。
 オーガはそれに構わずレイラに突進していった。
 その結果。

「がああああっ!!」

 グゴオオオオっ!!

 レイラは強烈な一撃を喰らってしまい、再び吹き飛ばされた。
 だが、オーガも無数の傷を負い全身から血を噴出している。

 そして…。

 バターンとオーガは仰向けに倒れて、絶命したのだった。

「ぐ…、あ…」

「レイラ!今治療するからな!」

 あまりの突然の出来事に我を忘れかけていたが、すぐにレイラとマリアに駆け寄りヘルメスの『治癒』の力を使う。

 しかしオーガの一撃が効いてしまったらしく、レイラもそのまま意識を失ってしまい動けなくなるのであった。
 マリアも、気を失ったまま目を覚ます様子は無い。

 少し離れたところでも、剣と硬い木がぶつかる音が聞こえた。
 クレスがオーガ達と戦ってるようだ。

「クレスっ!」

「おとうっさんっ!こっちは、何とか、抑えるから!…二人をお願いっ!」

 思わず駆け寄りそうになるが、その前に必死に戦うクレスから止められる。
 二人を先に治療して欲しい、と。

 既にヘルメスによる『治療』でほとんど傷は塞がっている。
 しかし、打ちどころが悪かったのか、二人ともすぐには目を覚ましそうになかった。
 このままでは、撤退するのは難しい。
 しかも、退路は先ほど塞がれてしまっている。
 さすがにあの岩で出来た壁を動かす自信は無かった。

 そうなると、迂回路を探すしかないが道は突然オーガが現れた時に出来た道か、今クレスは戦っているオーガ達の後ろにある道か、どちらかしかない。

 当然、オーガ達の後ろの道に続くのはゴブリンの集落と思われていた場所に繋がっている。
 しかし、新たに出来た道は何処に繋がっているかも分からない。

 二人も戦闘不能の状態では、ゆっくり探索も出来ないが、更に敵がいると思われる方に進むのも自殺行為に近い。

 どちらにしろ、このオーガ達をどうにかしないと今の状態では撤退すら不可能だろう。

「『加速』!いくぞぉぉ!はあああああああっっ!!!」

 風魔法の『加速』を使い、高速移動を繰り返しオーガを翻弄するクレス。
 オーガの力任せな大雑把な攻撃をくぐり抜け、一撃一撃を確実に入れていく。

 しかも、その殆どが急所を狙っての攻撃だ。
 右目を斬り付けて視界を奪い、次の手で死角から首筋を狙って切り裂く。

 さらにその隣のオーガを蹴りつけて、踏み台にして後ろのオーガの胸を一突き。
 それでさらに二体目が倒れた。

 素早く剣を引き抜くと、今度は低い位置で回転しながら一閃し、オーガの足を斬り付けた。
 バランスを失ったオーガに対し、わき腹から一突きしその鼓動を止めた。

 1分にも満たない時間で3体を見事倒したクレス。
 しかし、残った3体が黙って見ているわけがない。

 怒り狂うわけでもなく、今度は連携するかのように2体同時にこん棒を振り下ろしたかと思うと、時間を空けてさらにもう一体が襲い掛かってくる。

 どうやら、一撃でもまともに当てればクレスに勝てると思っているようだ。
 その考えは合ってはいるが、そもそもクレスに当てれずにイライラしているように見えた。

『ほう、さすがクレスだな。『加速』を使った状態では、愚鈍なオーガでは当てる事すら出来ぬか』

「だけど、それも魔力が残っている内だけだ。ヘルメス、なんとかならないのか?」

『我が戦闘に加わっても、邪魔になるだけで大した戦力にならんよ。お主にあのオーガの皮膚を貫通するだけの力量がなければ、そもそも突き刺すことも出来ぬしな』

 杖を奥深くまで刺すことが出来ないと、魔力を吸い取る事も難しいみたいだ。
 そうなると、俺が弓矢で攻撃するくらいしかないが、それこそクレスにあたるかもしれないので、下手な事は出来ない。

『向こうから突っ込んでくれでもすれば、刺さるかもしれんがの』

「そんな馬鹿な事…。いや、それだ!」