無事卒業試験を終えて、ついに卒業式の日がやってきました。

 殆どの人が、ちゃんと試験をクリアしてこの日に卒業する事が決まっている。

 先に試験を合格していた、レイラやマリアも一緒だよ。
 二人とも、もう会えなくなるわけじゃ無いのに『これで卒業だなんて寂しいよー』と泣きじゃくっている。

 普段姐御肌なレイラが涙ぐんでいるのを見ると、ちょっと胸にこみ上げるものがあるかも。

 しかし、これで私もやっと冒険者として活動する事が出来るようになる。
 結構勉強も頑張ったし、試験はとっても大変だったけどなんとか無事にクリアも出来たし、お父さんは大泣きしながら良かったとか、そんな無茶な試験をやらせるなんて訴えてやるとか言ってたけど、概ね問題はない…筈。

 最後の大仕事としては、なぜか主席成績者として卒業生代表として挨拶する事くらいかな?

 ちょっと大勢の人の前で挨拶をするのは恥ずかしいけど、この先何が役立つか分からないし頑張らないとね。

「では、卒業生代表クレス。前に出て挨拶を」

「はい!…皆さん、卒業生代表のクレスです。まずは、皆さんと一緒に卒業出来た事を心より誇りに思います。そして──」

 その後、ここでの培ったことや勉強をした事を活かして共に精進していきましょうという様な内容を話をして、盛大な拍手を貰えた。

 なんとか出来たよお父さん!

「最後に、主席卒業者でもあるクレスに、冒険者ギルドマスターより冒険者ライセンスの授与を行う」

 ざわざわざわ・・・と辺りでどよめきが起こった。
 過去の卒業式に冒険者ギルドマスターがわざわざ卒業生にライセンスを授与するなど無かったからだ。

 その理由は、もう知っている。
 そう、私が特例でDランクライセンスを与えられるからだ。

「えー、私が冒険者ギルドマスターである。今回、クレスの卒業試験が偉業達成にあたると認可され、特別にDランクを授与する事になった。これは、見習い冒険者では初となる快挙だ。みな盛大な拍手を!」

 おおおおおー!とどよめきと歓声の元、私はギルドマスターからDランクと書かれたライセンスプレートを貰った。
 そこにはしっかり、クレスと記載されていた。

 こうして、この日私は正式にDランク冒険者となるのでした。

 ちなみに、お父さんはというと色々頑張ったのかEランクまで昇格していた。
 なんでも私が学校に行っている間に、頑張って依頼をこなしていたらしい。
 
 今まで冒険者として才能がないと言われ続けた人が、あの歳になってからランクアップするのもかなり異例らしい。

 私と一緒に冒険に出るために、かなり無茶したんだろうな…。

 ありがとうね、お父さん。


 卒業した日、お父さんがレストランの一画を借り切って卒業パーティーを開いてくれた。
 もちろんそこには、マリアやレイラも一緒だ。

 マリアのお父さんマチスさんも来ていたので、より豪華な食事になったみたいで皆喜んでいた。

 あのマチスさんが涙を流して、『うちの娘は最高だ!』と卒業を喜んでいたのはびっくりしたけどね。

 でも、そこで『うちの娘こそが最高なんですよ!』と張り合わないでよお父さん。
 かなり恥ずかしいから…。

 そんな大人たちは置いといて、私とマリアとレイラは食事と会話を楽しんでいた。
 普段は食べない高級な料理や、デザートが並び自然と私達の目も輝く。

「ねぇ、これ見て。まるで宝石の様だわ」

「それは赤葡萄のゼリーだそうよ。海の海藻から採れるもので葡萄ジュースを固めたものなんだって」

「ん〜、美味しい!甘くて、舌触りがつるつるしてて心地いい弾力あるのが不思議ね」

「卵で固めたしっとりとした舌ざわりのプリンとは違った食感だね!あっ、こっちも美味しいよ」

 初めて食べる物に興奮しているせいか、食べた感想も饒舌だ。
 今後の事について話が移っていく。

「私は、お父様が私達だけで冒険者になるのは危険だから、3人だけでは駄目だって…」

「そうよね。正式に冒険者になったとはいえ、まだ駆け出し同士だと危険は尽きないわ」

「でもさ、クレスはもうDランクだし、うちらも直ぐに上がるだろうしさ!それに…、ウードさんも一緒なんだろ?」

 馬売のウードとして有名なお父さんが、冒険者になった事はこの町の人なら誰でも知っている。

 年甲斐もなく無謀なことをしてと、最初は蔑む人が多かったが、徐々にランクを上げていくお父さんを見て勇気を貰ったと頑張る人が増えたらしい。

 そして、Eランクに昇格した時はちょっとした町のニュースになったみたい。
 見かける度に、頑張れよ、応援してるぞと声を掛けてくれる人が増えていた。

 そして、Eランクともなれば立派な一人前の冒険者と認められる。
 そんな父が付いてきてくれるのは、とっても有り難い話なのだと。

「大人も一緒なら、マチスさんも許してくれそうじゃない?あ、それに最近ウードさんの面白い話を聞いたんだけど?」

「え、どんな話?」

「なんでも魔法を使う蛇を連れているとか…」

 ギクッ!
 と思わず反応してしまいそうになるが、グッと堪えた。

「しかも、その蛇が治癒の魔法を使えるとか…」

 ギクギクッ!!
 もう、きっと誤魔化しきれていないと思うけど平静を装った。

 私も詳しく教えて貰えっていないけど、なんでもあの山に住む神様みたいな蛇だったらしい。
 いわゆる神獣という事です。

 そんな凄い存在を勝手に祠から出してしまったと分かったら、大事になるかもしれないと、お父さんから教えて貰った時に話しました。

 なので、なるべく目立たないようにしていたつもりみたいだけど…、そもそも治癒が出来る魔物って何?!って話です。

 そんなのいないよ!?
 しかも羽が生えているだけでも珍しいのに、常にふよふよ浮いているし。

 一瞬だけ跳ぶフライスネークっていう、コウモリのような羽が生えた蛇も確かにいるみたいだけど、この子の羽は鶏のようにふさふさの羽根だし、羽ばたいてすらいないし!
 フライスネークの亜種って、いつまでも通じないと思うのよね…。

 お父さんは、どこか抜けたところがあるから平気平気とか言っているけど、それをフォローしないといけない娘の気持ちも考えて欲しいのよね!

 と珍しく、お父さんに憤りを感じていたら当の本人が酔った勢いで口を滑らした。

「ん?この蛇はな、神の使いなんだ!山の神様みたいなもんなんだぞ!すごいだろ~!」

 あたりがシーンとなる。
 そして、暫くしてから…

「あっはっはっは!ウードさんも冗談を言うんだな。あ、そうか。神様の使いと思っているくらい大事にしているんだね。にしても珍しい種類だよね、魔物図鑑でも見たことないわよ?でも、そんな珍しい蛇様もいるし、あの賢そうな狼さんもいるし、説得すればなんとかなるよ!」

 レイラは爆笑しつつ、ヘルメスの噂については本気にしていないようだった。
 どうやら、さっきのも大袈裟な噂が立っているみたいだねくらいの話だったみたい。

 でも、役立つ魔獣を連れているのはテイマーとしては一種のステータスなので、信頼度があがるのだという。
 なので、みんなでマチスさんを説得してマリアを連れだそうという話をしたかったみたい。

 私もマリアがいれば楽しいし、それに実際のところマリアの治癒魔法もかなり上達したので実戦でもかなり活躍するだろうし。

「…マチスさん!お願い、マリアと一緒に冒険させて!」

「私からもお願いします、レイラとマリアと、それにお父さんが一緒なら安全に冒険出来ると思うんです。ダメでしょうか!?」

 すると、さっきまで娘自慢でお父さんと議論を白熱させていたマチスさんが、急に真顔になってこう言った。

「クレスちゃんの気持ちは良く分かるよ。娘もそうしたいと思っているみたいなのも分かっているんです。ウードさんは、私と同じで親バカでいい人ですし、なのにきっと私の娘がピンチになっても身を挺して庇おうとするくらいお人好しなのは分かっています。しかし、本当にこの先4人でやっていけるかは、実戦でないと証明できないでしょう?なので、明日クエストをこの4人で受けて、無事に帰ってこれたら認めましょう。…正直、あの商人のドラ息子に渡すくらいなら、冒険者になって出ていった事にした方が万倍マシですからね!でも、誰かが一人でも大怪我をしたら認めません。それだけは譲れませんからね?」

 マチスさんがそう言って、差し出したクエストの内容はなんとも厳しい内容だったのです。