ランタンを灯し、辺りを照らして眺めて見つけたのは、大きな蛇の顔だった。

 最初は全く身じろきもしないので、作り物か?とか考えたけど、ちろっと動く舌が動くのが見えてしまった。

 この顔というか、頭だよね。
 その大きさから考えると、その大きさ(長さ?)は人間が10人程はあるだろう。

 下手をするとそれ以上あるのかも知れない。
 それがこんな所で何をしているんだ?

 もしや、俺らのように落ちてきた生き物を食べて生きているんだろうか?

「ククククッ。騒がしいと思ったら人間か。我を眠りから呼び起こしたのはお主達か?」

 蛇が喋った!?
 え?え?えええ!?

「ふむ、混乱しているのか。まぁ、数百年ぶりに目覚めたのだ。腹は減っているがお前たちではどちらにしろ足りぬ。なーに、今すぐに喰いはしない。落ち着いて質問に答えるのだ」

 とっても上から目線で偉そうに言ってくる蛇。
 いや、実際偉いのかも知れない。

 こんな巨大な大蛇は見たことが無い。
 頭一つで人間の体の半分ほどあるのだから。

「ええと、封印とはなんですかね?俺らはこの穴に落ちてしまっただけで…」

「ほう、そこから差す光は本物か。なるほどな。お前たちは、運よくここに辿り着き、我を封印していた物を破壊してくれたようだな」

 そう言う大蛇の目線をたどると、キールが何かを下敷きにしているのが分かった。

 それは、何かの像を象ったものだったようだ。
 その像は上下真っ二つになっていた。

「こんなもので、そんな巨体を封印出来ていたのか?」

 壊れた像を手に取り眺めてみる。
 魔力を感じたり出来ない俺では、どれだけ凄い者なのか分からないけど、こんな事で壊れるだなんて随分と適当な封印だと思う。

「フハハハ、そうよな。しかしだ、この穴自体が封印されていたのだから、その像で充分だったのよ。口惜しい事にな。しかし封印するために、この上に社があったはずだが、長い時で朽ち果てたか?社の管理者の気配も感じられぬが…、お主ではなさそうだしな」

「社?ここ数年ここら辺を見てきたけどそんなものは見た記憶が無いな…」

「そうか。…ほう、お主は面白い魔力を持っているのう」

 唐突に俺を見て、面白そうに眼を細めて俺を眺める大蛇。
 え、まさか美味しそうとか言わないよな!?

「な、なんだ唐突に。魔力なんて俺には殆ど無いぞ?」

「ほう、自分の事が分かっていないのか?お主、動物にやたら好かれたりしないか?」

「!?なんでその事を…」

「やはりな。なるほど、道理でお主を食べたいと思わないわけだ。お主、我と契約する気はないか?」

「契約?」

「そうだ。我と契約すれば、お主は我を使役する事が出来るようになる。もちろん、お主に害を与える事はせぬようにもな」

「それをする事でお前にどんなメリットがあるんだ?」

「我は、いい加減ここから出たい。だが、今のままでは出る事が出来ん。そこで、お前の魔力だ。それが我に供給されれば我はここから出る事が出来る。どうせ、人間の寿命などせいぜい100年。それ以降は、我も自由になるという事だ」

「なるほど…。それで断ったら?」

 自然とごくりと唾を飲み込む。
 本能で、その答えを聞きたくないと思ってしまう。

 そう思わせる雰囲気を大蛇が醸し出す。

「答えるまでも無かろう。出る事は叶わぬが、お主たちを喰って腹の足しにするまでよ」

 うああーっ!やっぱりか。
 逃げようにも、キールはすぐには動けない。
 
 いくら体力が自慢だとか言っても、キールを背負ってここから脱出するのはかなり時間が掛かる。

 きっと、その間に食べられてしまうのだろう。

「だ、だが。お前は動けないんだろう?だったら…」

 シュッっと何かが飛び出てきて、俺に巻き付いた。
 それは滑っとして、それでいて体中を締め付けてくる。

「クックック、これでも逃げれると思うか?我が舌は、この穴の中くらいなら届くほど伸びるのだぞ?」

 最悪だ。
 この巻き付いているのは、大蛇の舌らしい。

 つまり、このまま引き摺られて食べられるか、契約するかの2択しかなくなったわけだ。
 最後の抵抗とばかりにナイフに手を伸ばそうとすると…。

 キイイイッンと甲高い音を立てて、ナイフが弾き飛ばされた。
 大蛇は舌の先を器用に使って、俺のナイフを弾いたのだった。

「往生際の悪い男よな。それに、お前を飲み込もうと思えばいつでも出来るのだぞ?さあ、最後のチャンスだ。契約するか?それとも、我が胃に収まるか?」

 その時、ふとキールに目が行った。
 キールは恐怖のあまり、既に意識が朦朧としているみたいだ。

 俺が断れば、俺ばかりかキールの命もここで終わり。
 それを知った時、クレスはどう思うだろうか?

 ダメだ、こんな所で死んでいる場合ではない。
 後の事は後で何とかするしかない。

「わかった、契約しよう」

「おお、その言葉を待っていた!我は、かつては神獣と呼ばれし翼を持つ蛇、ヘルメスだ。お主の名前を教えるのだ」

「俺は、ウード。しがないハンターさ」

「ふふふ、お前はこれからはハンターとは言われなくなるだろうよ。では、儀式をする。───我が名は、翼をもつ蛇、知を司る神の使い。我を遣いし神の名を受けしその名はヘルメス。我とウードは盟約を結び、ウードを主と認める!」

 すると俺とヘルメスの周りに魔法陣が浮かび上がった。
 同時に光に包まれ、光が収まると大蛇が消えていた。

「え?」

 そして、俺の手にはいつの間に持っていたのか不思議な杖が現れていた。

「ここだ、ウードよ」

 声のする方に目をやると、小ぶりな白蛇が飛んでいる。
 よく見ると、背中には翼があるようだった。

「お前、ヘルメスか?」

「そうだ、主と契約したことにより、その魔力と本体をその杖に封印した。今見えているのは化身なのだ」

「ええと、なんで小さくなったの?」

「あんな大きな体では、外に出たときに不便だろう?それにな、あの状態では魔力を大量に消費してしまうのだ。そこの少年が壊した像で我は魔力を維持していたのだが、壊されてしまったのでな。あのままでは、危うく魔力を失い過ぎて命尽きるところだったわ」

 詳しく話を聞くと、どうやら壊した像は封印であり魔力を供給する魔道具でもあるようだ。
 自然に存在する魔力を集めてヘルメスに供給するのと同時に、ヘルメスの力を封印する事で魔力の放出を防ぐ効果もあったらしい。

 つまり、像が壊れてしまったのであのままでは魔力が足りなくなり、体を維持できなくなり消滅するところだったようだ。

「そんなときに、丁度よく変わった魔力を持つウード、お前が目の前に居たからな。契約してお前から魔力を供給して貰えば、我は消えずに済むというわけだ」

「つまり、本当はそれが目的で契約したのか?」

「お、流石に気が付いたか?だが、最終手段としてお主を食べるという選択肢もあったのは事実だ。ただ、お主は動物や魔物などの生き物を活性化出来る魔力を持っているからな、契約してお主から魔力を供給して貰うのが一番効率がいいのだよ」

「魔力って、殆ど無いって認定だったはずだけど…」

「ふむ、人間の測定がどのようにして行われるかは分からぬが、確かにお主は魔力を持っておるよ。まぁ、魔力を持っていない生物などこの世界にはおらぬがな。ただ、お主は魔法として発現する能力を持っていないのだろうよ。なので、魔力を供給するには近くに寄らないと無理なのだ」

 そして、なぜヘルメスの本体を杖に封じて俺に持たせてたかを説明されるのだった。