クレスの夏休みも終わり、養成学校に戻った頃には季節は秋になっていた。
俺はキールを連れて山菜やきのこを採りに山に入っていた。
この山は、家の近くの森からさらに奥に入ったところにあり、普段は強い猛獣が居るので来ないのだが、秋になると猛獣達は狩場を移動するので比較的安全になる。
勿論、例外はあるので護衛には必ずエースを連れて行くし、弓矢や猛獣を追い払う匂い袋等を用意はしている。
山に辿り着くまでにニ時間。
これでもゆっくり来たつもりだが、まだまだ体力が備わっていないキールは既に息が上がっていた。
「若いのにだらしないな。もっと体力付けないとだな」
「父さんみたいに鍛えてきたわけじゃ無いから、しょうがないでしょう?」
キールはすっかり家に馴染んで、周りとクレスに言われて父さんと呼ぶようになった。
『俺が父親でいいのか?』って聞いたら、『ウードさんが父さんになってくれるなら嬉しいです』って涙が出そうな返事だったので、それ以来は息子として育てている。
意外と物覚えが良く、また自分から色々と覚えようとするので吸収力が半端ない。
子供は天才だと誰かが言っていたな。
そんな訳で、たった数ヶ月一緒に暮らしただけで動物の世話、炊事洗濯などの家事、そして狩りの手伝いなど様々な事をこなしてくれている。
こんなに優秀な子なのに、なんでちゃんと育てなかったんだあの野盗は?
そう思ってたら『前までまともに食べれなかったから、あまり動けなかったけど、父さんは食べさせてくれるからいくらでも働けるよ!』って笑顔で言われて納得した。
そりゃ、常に腹ペコなら何も出来んわな。
そんなわけで、育ち盛りなのもあり沢山食わせている。
そのおかげで前よりも体付きも良くなってきた。
本人曰く身長も伸びたそうだが、ん〜、流石にそこは分からないかな。
ま、そんな成長しているキールだが、まだまだ体力では俺に劣るみたいだ。
無理しても仕方ないので、山に入る前にいったん休憩を取っていた。
「これから山を登りながら山菜とか取るからな。無理したりするなよ?ちょっとの油断が滑落とかで命落とすからな?」
「分かったよ父さん。でも、ここまでして採りに来るような物なの?」
「んー?まぁ、勿論山菜自体はそこそこの値段で売れるし、キノコもこの時期が一番味がいいからな。売るならこの時期が一番いいだろうな。それに一番厄介な魔獣も少ないからな。でも…」
「でも?」
「正直、俺からしたらそんなに儲からないかな。正直、新鮮で美味しいから採りに来ているだけだ」
「えええっ!?じゃ、これから採るのは自分達で食べる用ってこと?」
「おう、そうさ。まぁ、採れ過ぎたり余ってきたら村の人にも分けてあげるけどな」
「そうなんだね。でも、美味しいのなら頑張ろうかな…」
「そうそう、自分の食料は自分で確保出来るようになっておけよ?それが出来れば生きるのには困らないだろ?」
「確かに、そうだよね。食べる事が出来ない人が俺の周りにはいっぱいいたし。それがどれだけ大事かは身に染みて分かってるよ!」
「そうそう。生きる為に食べるのに、その為にケガとかしてたら意味無いからな?確実に慎重に進むぞ?」
「分かったよ父さん」
さて、雑談しているうちに体も休めたようだ。
涼しくなったとは言え、動けば汗もかく。
しっかり水分をとり、塩分とエネルギー補給に持ってきた燻製肉を食べる。
胡椒は高くて中々買えないけど、ハーブやトウガラシ等を使って味濃いめにしてあるので、こういう時に補給に丁度いいのだ。
休憩が終わり、山登りを開始した。
山登りと言っても、山道がしっかりとあるわけじゃ無いから常にけもの道を進む。
藪を鉈で斬り払いながらも進んでいくと、じめっとした空間に出る。
日陰になっており、湿気が少し多い。
うん、ここならありそうだな。
「キール。ここらで山菜とキノコを探すぞ。こういう日陰になっている場所は生えやすいし、味と食感がいいのが採れる。よく覚えておけよ?…ほら、あった」
そう言って、取ったキノコを見せる。
大き目のそのキノコは、町ではアカタケと言われる一般的なキノコで、味が良く調理しやすい。
キノコと言えばこれってくらいだ。
その他にも、クロイワタケや少し高級なセンニンダケというのも採れた。
一部毒キノコがあったので、それの見分け方も教えておく。
さらに、色々な山菜が群生していたのである程度だけ残して摘んでいく。
根を残せば来年も生えてくるが、少し残すと更に数が増えたりする。
こういうのは、昔からそうすると来年多くなると親達から受け継いだ知識なので、なぜなのかは分からない。
ただそう言うもんだと、キールにも教えておいた。
「なるほど。山菜も花みたいに種とか出来て増えるのかな?」
「あー、そうなのかもな。花が咲くような時期に来たことが無いから見たことないけどな」
そんな雑談をしつつ、背負って来た籠一杯になるまで採取を続けた。
俺らが山菜採りに夢中になっている間に、エースは一人で狩りに出掛けたらしく、アナウサギを2羽ほど捕まえてきていた。
「よし、こんなもんかな…」
「もう?まだ昼過ぎたばかりだよ?」
「日が暮れるまでやったら、帰れなくなる。それにいくら魔獣が少ないとは言え居ないわけじゃ無いんだ。危なくなる前に下山するぞ」
「そっかー、残念だな。僕の方ももう少しで一杯になるんだけど」
「欲張るといいこと無いからな。それじゃ、行こうか」
「はーい」
お昼ご飯は持ってきているが、出来るなら下山してからゆっくり食べたいので後にしていた。
だが初めての山菜取りで興奮していたのか、キールが空腹で少しふらついている事に自分で気が付いていなかったようだ。
下山しようとした矢先に足を滑らせてしまう。
「うあああああああああっ!!!」
湿気が多いせいで滑りやすく、また低い木が多いために障害となる物が少ない。
そのせいで一気に下の方まで滑り落ちてしまった。
「おおおいっ!?大丈夫かあああああああっ!」
俺は慌てるも、しかし二の轍を踏むわけにいかないので慎重に降りて行った。
しかし、滑り落ちた跡をたどっていくと、途中でキールが消えた。
「え?」
どこ行ったんだ!?
山の中は暗いとはいえ、まだ昼間だ。
見失う程暗くなってない筈なのに…。
どこだと探そうとした時、エースがウォンッ!と吼えた。
よく見ると、藪の中に大きな空洞が見える。
もしやこの穴に落ちたのか?
「おおおい、キールいるか!?」
「いっててて…、父さん!?…あ、僕はここだよっ!」
穴の上から覗く俺の顔が見えたらしく、下から声が聞こえた。
しかし結構深い穴だな。
「おおい、そこから登ってこれそうか?」
「父さん、ごめん。…足を挫いてすぐには歩けそうに無いんだ」
なんてこった。
しかし、この深さだ。
足を折ったとしてもおかしくはない。
俺は籠の蓋代わり乗せてあるリュックの中身からロープを取り出す。
それを近くの丈夫そうな木にしっかりと巻き付けた。
反対側を自分の腰のベルトに通してから、胴に巻き付ける。
これで途中で落ちるって事は無いだろう。
そうして、俺はゆっくりとロープを使って穴の中を降りて行った。
下までたどり着くと、そこには足を擦っているキールがいた。
下に着いてから、籠を下して背負い直したリュックからランタンを取り出す。
そこに着火用の火打石で火をつけて、辺りを照らした。
「キール大丈夫か?」
「うん、大丈夫って言いたいけど、結構痛い」
キールに近づいて体のあちこちを触る。
うん、とりあえず打ち身と捻挫で済んだみたいだ。
ただ、これだと暫く歩けないから背負っていくしかないか。
まぁ、キールくらいなら大丈夫なくらい力はあると自負している。
それよりも、ここの穴結構深いな。
普通の動物が使う塒《ねぐら》かと思ったけど、縦穴には足を掛ける場所が無いので、普通の動物だとここから出る事は出来ないだろうな。
そう考えると、熊のような動物の巣ではないだろう。
ランタンでぐる~っと、周りを照らして見る。
「うわあっ!!?」
年甲斐もなく、思わず声を上げてしまった。
そして、ここが何なのか分かってしまったのだ。
そこにあったのは顔だった。
それも巨大な顔。
しかも人間の顔なんかではなく、…それは大蛇の顔だった。
…そう、俺達は大蛇の巣穴に落ちてしまったのだった。
俺はキールを連れて山菜やきのこを採りに山に入っていた。
この山は、家の近くの森からさらに奥に入ったところにあり、普段は強い猛獣が居るので来ないのだが、秋になると猛獣達は狩場を移動するので比較的安全になる。
勿論、例外はあるので護衛には必ずエースを連れて行くし、弓矢や猛獣を追い払う匂い袋等を用意はしている。
山に辿り着くまでにニ時間。
これでもゆっくり来たつもりだが、まだまだ体力が備わっていないキールは既に息が上がっていた。
「若いのにだらしないな。もっと体力付けないとだな」
「父さんみたいに鍛えてきたわけじゃ無いから、しょうがないでしょう?」
キールはすっかり家に馴染んで、周りとクレスに言われて父さんと呼ぶようになった。
『俺が父親でいいのか?』って聞いたら、『ウードさんが父さんになってくれるなら嬉しいです』って涙が出そうな返事だったので、それ以来は息子として育てている。
意外と物覚えが良く、また自分から色々と覚えようとするので吸収力が半端ない。
子供は天才だと誰かが言っていたな。
そんな訳で、たった数ヶ月一緒に暮らしただけで動物の世話、炊事洗濯などの家事、そして狩りの手伝いなど様々な事をこなしてくれている。
こんなに優秀な子なのに、なんでちゃんと育てなかったんだあの野盗は?
そう思ってたら『前までまともに食べれなかったから、あまり動けなかったけど、父さんは食べさせてくれるからいくらでも働けるよ!』って笑顔で言われて納得した。
そりゃ、常に腹ペコなら何も出来んわな。
そんなわけで、育ち盛りなのもあり沢山食わせている。
そのおかげで前よりも体付きも良くなってきた。
本人曰く身長も伸びたそうだが、ん〜、流石にそこは分からないかな。
ま、そんな成長しているキールだが、まだまだ体力では俺に劣るみたいだ。
無理しても仕方ないので、山に入る前にいったん休憩を取っていた。
「これから山を登りながら山菜とか取るからな。無理したりするなよ?ちょっとの油断が滑落とかで命落とすからな?」
「分かったよ父さん。でも、ここまでして採りに来るような物なの?」
「んー?まぁ、勿論山菜自体はそこそこの値段で売れるし、キノコもこの時期が一番味がいいからな。売るならこの時期が一番いいだろうな。それに一番厄介な魔獣も少ないからな。でも…」
「でも?」
「正直、俺からしたらそんなに儲からないかな。正直、新鮮で美味しいから採りに来ているだけだ」
「えええっ!?じゃ、これから採るのは自分達で食べる用ってこと?」
「おう、そうさ。まぁ、採れ過ぎたり余ってきたら村の人にも分けてあげるけどな」
「そうなんだね。でも、美味しいのなら頑張ろうかな…」
「そうそう、自分の食料は自分で確保出来るようになっておけよ?それが出来れば生きるのには困らないだろ?」
「確かに、そうだよね。食べる事が出来ない人が俺の周りにはいっぱいいたし。それがどれだけ大事かは身に染みて分かってるよ!」
「そうそう。生きる為に食べるのに、その為にケガとかしてたら意味無いからな?確実に慎重に進むぞ?」
「分かったよ父さん」
さて、雑談しているうちに体も休めたようだ。
涼しくなったとは言え、動けば汗もかく。
しっかり水分をとり、塩分とエネルギー補給に持ってきた燻製肉を食べる。
胡椒は高くて中々買えないけど、ハーブやトウガラシ等を使って味濃いめにしてあるので、こういう時に補給に丁度いいのだ。
休憩が終わり、山登りを開始した。
山登りと言っても、山道がしっかりとあるわけじゃ無いから常にけもの道を進む。
藪を鉈で斬り払いながらも進んでいくと、じめっとした空間に出る。
日陰になっており、湿気が少し多い。
うん、ここならありそうだな。
「キール。ここらで山菜とキノコを探すぞ。こういう日陰になっている場所は生えやすいし、味と食感がいいのが採れる。よく覚えておけよ?…ほら、あった」
そう言って、取ったキノコを見せる。
大き目のそのキノコは、町ではアカタケと言われる一般的なキノコで、味が良く調理しやすい。
キノコと言えばこれってくらいだ。
その他にも、クロイワタケや少し高級なセンニンダケというのも採れた。
一部毒キノコがあったので、それの見分け方も教えておく。
さらに、色々な山菜が群生していたのである程度だけ残して摘んでいく。
根を残せば来年も生えてくるが、少し残すと更に数が増えたりする。
こういうのは、昔からそうすると来年多くなると親達から受け継いだ知識なので、なぜなのかは分からない。
ただそう言うもんだと、キールにも教えておいた。
「なるほど。山菜も花みたいに種とか出来て増えるのかな?」
「あー、そうなのかもな。花が咲くような時期に来たことが無いから見たことないけどな」
そんな雑談をしつつ、背負って来た籠一杯になるまで採取を続けた。
俺らが山菜採りに夢中になっている間に、エースは一人で狩りに出掛けたらしく、アナウサギを2羽ほど捕まえてきていた。
「よし、こんなもんかな…」
「もう?まだ昼過ぎたばかりだよ?」
「日が暮れるまでやったら、帰れなくなる。それにいくら魔獣が少ないとは言え居ないわけじゃ無いんだ。危なくなる前に下山するぞ」
「そっかー、残念だな。僕の方ももう少しで一杯になるんだけど」
「欲張るといいこと無いからな。それじゃ、行こうか」
「はーい」
お昼ご飯は持ってきているが、出来るなら下山してからゆっくり食べたいので後にしていた。
だが初めての山菜取りで興奮していたのか、キールが空腹で少しふらついている事に自分で気が付いていなかったようだ。
下山しようとした矢先に足を滑らせてしまう。
「うあああああああああっ!!!」
湿気が多いせいで滑りやすく、また低い木が多いために障害となる物が少ない。
そのせいで一気に下の方まで滑り落ちてしまった。
「おおおいっ!?大丈夫かあああああああっ!」
俺は慌てるも、しかし二の轍を踏むわけにいかないので慎重に降りて行った。
しかし、滑り落ちた跡をたどっていくと、途中でキールが消えた。
「え?」
どこ行ったんだ!?
山の中は暗いとはいえ、まだ昼間だ。
見失う程暗くなってない筈なのに…。
どこだと探そうとした時、エースがウォンッ!と吼えた。
よく見ると、藪の中に大きな空洞が見える。
もしやこの穴に落ちたのか?
「おおおい、キールいるか!?」
「いっててて…、父さん!?…あ、僕はここだよっ!」
穴の上から覗く俺の顔が見えたらしく、下から声が聞こえた。
しかし結構深い穴だな。
「おおい、そこから登ってこれそうか?」
「父さん、ごめん。…足を挫いてすぐには歩けそうに無いんだ」
なんてこった。
しかし、この深さだ。
足を折ったとしてもおかしくはない。
俺は籠の蓋代わり乗せてあるリュックの中身からロープを取り出す。
それを近くの丈夫そうな木にしっかりと巻き付けた。
反対側を自分の腰のベルトに通してから、胴に巻き付ける。
これで途中で落ちるって事は無いだろう。
そうして、俺はゆっくりとロープを使って穴の中を降りて行った。
下までたどり着くと、そこには足を擦っているキールがいた。
下に着いてから、籠を下して背負い直したリュックからランタンを取り出す。
そこに着火用の火打石で火をつけて、辺りを照らした。
「キール大丈夫か?」
「うん、大丈夫って言いたいけど、結構痛い」
キールに近づいて体のあちこちを触る。
うん、とりあえず打ち身と捻挫で済んだみたいだ。
ただ、これだと暫く歩けないから背負っていくしかないか。
まぁ、キールくらいなら大丈夫なくらい力はあると自負している。
それよりも、ここの穴結構深いな。
普通の動物が使う塒《ねぐら》かと思ったけど、縦穴には足を掛ける場所が無いので、普通の動物だとここから出る事は出来ないだろうな。
そう考えると、熊のような動物の巣ではないだろう。
ランタンでぐる~っと、周りを照らして見る。
「うわあっ!!?」
年甲斐もなく、思わず声を上げてしまった。
そして、ここが何なのか分かってしまったのだ。
そこにあったのは顔だった。
それも巨大な顔。
しかも人間の顔なんかではなく、…それは大蛇の顔だった。
…そう、俺達は大蛇の巣穴に落ちてしまったのだった。