「じゃあ、クレスまた休み明けにね!」

「うん、マリア、レイラもまたね」

「ああ、秋にまた一緒に頑張ろうね」

 マリアとレイラに見送られて私は学校を後にします。

 そう、今日から夏休みというものらしいです。
 訓練所や司書室は使えるみたいですが、講師となる先生方がお休みになるという事で再会までは講義や訓練が無いのです。

 最初のうちは毎週末実家に帰ってたのだけど、やはり毎週帰るとなると中々勉強の方が進まないので、1月に1度だけにしていました。

 今日から長い休みになる予定だったので、今月はまだ実家に帰っていなかったの。
 お父さんも、ずっと一人で寂しい思いをしていただろうと思っていたんですが…。

「お父さん、この子だれ?」

 実家に帰ると私より2~3歳年下の男のが居ました。
 え、こんな子、村に居なかったと思うんだけど?

「クレス紹介するよ。この子はキール。訳あって、面倒見る事になった」

「キールといいます。よろしくお願いしますクレス…おねえちゃん」

 照れながらそう言いうキールを見た瞬間、思わず抱きしめていた。

 なんてかわいい子!
 こんな弟が欲しかったんだよねぇ。
 いいこいいこ。

「う、く、クレスおねえちゃん?」

「よろしくねキール!」

 満面の笑顔でぎゅっとしながら、そう言うと顔を真っ赤にして俯いてしまった。
 あ、ついついやり過ぎちゃった。

「あはは、ごめんごめん。キールが可愛くてついね」

「まー、仲良くやれそうなら、いいんだが。キールは俺が保護者になっているが、一応ここの下働きとして雇った丁稚でもあるから、家の仕事については甘やかさないようにな?」

「えーと住込みってこと?うん、分かったよお父さん。でも、なんで急にこの子(キール)を雇ったの?」

「ああ、実はな…」

 そこで衝撃の事実を知った。

 およそ一か月前にお父さんが山賊に襲われてたのも衝撃だったけど、そこで山賊の一員でもあったキールを保護したらしい。

 最初は反抗的だったみたいだけど、キールがエースにボコボコにされたので反抗する気力は削がれたとのこと。
 そのあと、きっと処刑されると思っていたら、お父さんに村に連れて行かれて『山賊に襲われていた迷子を保護した』とお父さんが村人に説明したのを聞いてビックリ。
 
 村人が『また迷子を拾ったのか!…じゃあ、最後まで面倒頑張れよ』と何も疑うことなく話が進んでしまい唖然としたらしい。

 それよりも、本当に自分を守ろうとしてくれたお父さんに感謝しているみたい。

「旦那様は、真面目に働けば一杯ご飯を食べさせてくれると約束してくれて、本当に一杯食べさせてくれたんです。あの日まで、お腹いっぱいに食べた事なんて無かったから…。思い出すだけでも涙が止まらないです」

 そう言うと本当に大粒の涙を流しながら、お父さんに何度もありがとうと言う姿を見て私も泣けてきちゃった。

 考えたら、私もお父さんに拾って貰ってなかったら、きっとあの森で飢え死にしてたんだろうな。
 そう考えたら自分の事のように思えて、キールを他人事には思えなかった。

「それでな、一応丁稚として雇っているから衣食住は用意している。まぁ、なんだ同じ家に住んでいるんだから家族みたいなもんだけど…」

 そこで、ずいっとお父さんはキールに顔を寄せて。

「クレスに変な事をしたら、追い出すくらいじゃ済まないから?」

 と鬼のような顔をしながらキールを脅してた。
 気圧されたキールは、さっきとは違う涙を浮かべてコクコクと何度も頷いていた。

「普段は厳しくも優しい旦那様があんな顔をするなんて、思っても無かったよぅ」

「もう、お父さん。心配してくれるのは嬉しいけど、キールが可哀想だよー。大丈夫、基本は優しい人だから怖がらないでいいからね?」

「うん、ありがとうクレス姉ちゃん!」

 こうして、予期しない形で家族が増えたのでした。


 キールはとっても真面目で、最初にお父さんにナイフで向っていったとは思えない程だ。
 朝は誰よりも早く起きて動物の世話を始めて、それが終わるとすぐに薪割をする。
 薪割が終わると、今度は森の浅い所で薬草や山菜などを採っていた。

 あんまりにも頑張ってるから、無理しないでねと言ったら。

「この一か月で、旦那様に色んなことを教わったんだ。自分でやれる事がいっぱいあるなんて誰も教えてくれなかったから、すっごい楽しいんだよ?無理なんてしないよ!」

 と笑顔で返ってきた。

 こんないい子を攫って酷い扱いをしていた山賊は、本当の悪人だったんだろう。
 結末がそうなってしまったのは仕方ないことだと思う。

 それでも、この子がお父さんに出会えて良かった。
 もし、別の人に助けられていたら良くて孤児院に預けられただろう。

 孤児院が悪いわけじゃないけど、それでもここよりもよほど過酷な生活をしないといけない。
 そう考えると、お父さんに見つけて貰えて幸運だと心から思う。

 ちなみに、迷子の届け出はしてあるらしいが、彼を迎えに来る親はいないらしい。
 もしかしたら、もう亡くなっているか、遥か遠くの国の人なのか、もしくは彼を売ったか…。

 貧乏な家では、末の子を身売りするのは珍しいことじゃないらしいし。
 もし、そうだとしたら、この村で幸せに暮らして欲しいの思う。

「そうだ、キールは文字の読み書きできるの?」

「ううん、全然できなんだ。誰も教えてくれなかったから…」

「そっか、じゃあ私が教えてあげようか?」

「本当!?うん、お願い!」

「よーし、じゃあこれが…」

 こうして我が屋には、キールという弟が出来た。
 
 ちなみにキールは丁稚という扱いだから、お父さんの事を暫くは『旦那様』と呼んでいたのだけど、村の人から『なーにが旦那様だよ、偉そうに!ウード、もうお前が父親みたいなもんだろうが。キールも”父さん”って呼んでやれよ』と冷やかされたので、そのあと暫くしてからキールも、”父さん”って呼ぶようになったのよ。

 ちょっとお互いに照れくさそうにしてたのは、今でも微笑ましい思い出だよ。

 こうして、私に弟が出来きたのでした。