クレスが冒険者養成学校に入校し、しばらく暇になった(もちろん、普段通り仕事はしている)ので頻繁に町に出る様になった。

 まぁ、殆どは村の住民のお使いなのだけど、馬があるので日帰り出来るしクレスに何かあってもすぐに駆け付けれるようにと思っている。

 まあ、クレスはとても賢い子なので余程の事が無い限り自分で解決してしまいそうだが…。
 だしても親として、いつでも力になれる様にだけはしていこうと思うのだった。


 ───
 お父さんにお金を出して貰って、冒険者養成学校に通う事になりました。

 最初は反対されるかと思ったけど、一緒に旅をするのに役立つと言ったら許してくれた。
 お父さんは私に結構甘いのだけど、本当にダメなときはダメという人で見た目と違って優柔不断と言う程じゃない。

 私は2歳くらいの時に森で彷徨っているところ、お父さんに拾ってもらったらしく、今まで大事に育ててくれた。
 血は繋がってないけど、私にとっては本当のお父さんはお父さんしかいないと思っている。

 とても優しくて、働き者で、見た目はぼんやりしているように見えるらしいけど、実はしっかりしている人。
 この人に育てて貰えて本当に幸せだと思った。
 きっと、これからもこの思いは変わらないと思うんだ。

 養成学校に通ったのは、自分で生活するのに冒険者としての能力を鍛えたいというのとは他に、他の地域の町や国に行ったときに困らないようにしっかりとした知識を付けたいと思ったから。

 なんでも図書室という色んな本がある部屋があったり、指導官から各種武器の使い方を教えて貰ったり、地図の見方を教えて貰ったり、魔法についての知識、野営の仕方、はたまた野草を使った料理まで。

 実に様々な事を教えてくれるみたい。
 私の独学だけでは分からない事も多いから、こういう専門知識が学べるのはとっても楽しみ。

 授業開始初日に他の生徒を紹介してくれたんだけど、びっくりしたことがありました。
 マチスさんの娘さんである、マリアがここに通っていたのです。

「わぁ、本当にクレスだ~!」

「マリア!またすぐに会えて嬉しいよ。ここに通っていたのね」

「うん、成人扱いになるまではここで勉強することになっているの。これからは学友としても宜しくね」

「うん、こちらこそ。マリアがいてとっても心強いわ」

 マリアとは護衛のお仕事で一緒に旅をしたこともあり、すぐに仲良くなった。
 お仕事の時は、一応はお客さんだったのだけど今は単なる同じ学校の同い年の生徒同士。

 より仲良くなれてとっても嬉しかった。


 通い始めて数日もするとマリアを通じて、マリア以外にも数人のお友達が出来た。
 中には将来一緒に冒険者パーティーを組む約束している子達もいるみたい。

「クレスはどうする予定なの?」

「私?ん~、多分しばらくはお父さんと一緒に旅をするかな?」

「へ~。って、お父さんって最近冒険者になったあのウードさんだよね?」

「うん、そうだけど?」

「それって、大丈夫?」

 この子はマリアとも仲が良いレイラ。
 マリアと同じ商人の娘さんらしく、歯に着せない言い方をする子だ。

 性格も竹を割ったような性格で、苦手な子もいるみたいだけど私は付き合いやすいと思う。

「大丈夫よ。みんなが思ってるほどお父さんは頼りない人ではないよ」

「でも、冒険者としては才能が無いって」

「みんな良く知っているのね。確かに、剣も魔法も使えないけど弓はそこらへんの人よりは上手だし、結構力だってあるし、体力もあるんだから!」

「はいはいはい。お父さん大好きなのは分かるんだけど、実際の戦闘になったら今言ったのは関係なくなるでしょーが。だからさ、他にもメンバーは探した方がいいよ」

「むー、否定できないのは悔しいけど…。私が卒業するまでにもっとテイマー能力を磨いてくれるといいのだけど…」

 マリアはそんな二人の話をいつもニコニコしながら見ているのが日課になっていた。

 自分も本当は卒業したら、冒険者になれたらいいのに。
 今は生活魔法くらいしか使えないけど、もっと攻撃的な魔法とか覚えて冒険者に…。

 でも婚約があるし、そもそもお父様は許さないでしょうね。
 と、心の中で独り言をいうくらいしか出来なかった。

 クレスとレイラと私、きっとそれにウードさんが心配で付いてくるんだわ。
 あのふわふわの毛の狼さんもきっと一緒ね。
 そんな事を夢想するだけで…。

「ねぇ、マリアもそう思うでしょう?」

「え?ああ、うん、そうね」

「ほら、マリアもそう言っているし、今だけだから、ね?」

「もう、しょうがないなぁ。分かったよ、今度の討伐訓練は3人でやろうか」

 マリアはうんうんと頷いていたが、心の中では急にやってきたイベントにやったーと大はしゃぎだった。

「ふふふ、楽しみだな~」

「なーに、にやけてんの?」

 つい顔に出てしまい、レイラに突っ込まれるが、レイラ自身も楽しみにしているようで満面の笑みであった。


 ─数日後、3人は養成学校の広大な敷地内にある森に来ていた。

 座学も実技も優秀なクレスは多くの生徒に声を掛けられたが、マリアとレイラと約束していると言うとみんな残念そうにしていた。

 かくいう、マリアとレイラも成績優秀で、マリアは座学成績がトップでレイラは実技がトップなのである。
 そこにどちらも上位に入っているクレスというメンバーであれば誰も口出し出来なかった。

 これから始まる討伐訓練にウキウキしていると、教官が説明を始めた。

「本日は実際に武器を持って、魔物の討伐をしてもらう。敷地内にいるのは野生動物が魔物化しただけのヤツだ。魔物の脅威度では一番下になる。だからと言って舐めてかかると大怪我するからな?全員気を引き締めて取り組むように!」

 敷地内には、上級冒険者達がわざと追い込んで野放しにしている魔物が生息している。
 知性があるゴブリンやオークなどの亜人型のモンスターは増えると危険なので放っていない。

 主に巨大化して凶暴さが増した動物がメインだ。
 それでも、油断すれば大怪我どころか命も落としかねない。

 なので必ず近くには教官たちが配備されている。

 時間制限を設けて、制限内で何匹討伐出来るかで成績を競うのが今回の訓練らしい。

 ちなみに実際に捕ったものはギルドで換金されるので、お小遣いが欲しい生徒たちもやる気十分だ。

「前の組は大猪の魔物を討伐成功したみたい。やるなぁ」

「私達は安全にかつ確実に行きますよ?無理してケガとかしたくないし」

「そうだね、二人がいれば大丈夫だと思うけど、焦りと油断は厳禁だからね」

 レイラは前の組に対抗心を燃やしているが、お金に困っていないマリアはそこまで対抗心を燃やす必要はない。
 どちらかというと、二人と実戦を兼ねた訓練自体が楽しいだけのようだ。

 クレスはそんな二人を見て、無理はしないけど二人となら問題ないよと暗に言っているのだった。
 余裕持って行動すれば、きっと楽勝だろうと。

 こうして、3人の初の討伐が始まるのだった。

「次、クレス組。出発しなさい」

「「「はい!」」」