「庇ってくれて、ありがとう」

「アイツらのほうがおかしいんだ」

その言葉に安堵する。日々を重ねるごとにもっと大切になっていく相手とのことを、私以外があんなふうに考えていないことに。

そんなことはないと思っていながらも、あの場でそれを肯定してくれる存在がどれ程心強かったことか。

隣に座る彼は、罵られる私に偶然遭遇し、朝少しだけ顔を合わせた同じ大学に通う人間というだけで私を助けてくれた。

「大野くんは、見て見ぬふりが出来ない優しい人だね」

「……俺は、そんないいヤツじゃないよ」

「そうかなぁ」

「目茶苦茶ズルい人間ですけど?」

耳を赤く染めながら嘯く彼は、次の駅で乗り込んできた妊婦さんに席を譲っていた。お腹がまだ目立たない妊婦さんの、それを知らせるマークのストラップを見つけたらしかった。

つり革に掴まり私の前に立つ彼は、見上げると、さらにもう少しだけ朱く染まっていた。