「オレのアパート、大学のわりと近くで。バイトも……さっきのやつが言ったとおり」

「うん」

「時々、地元が一緒の男友達のとこに泊まった朝だけそっから電車通学してるとき、その子のこと見かけてた。同じ大学の子だって。親友っぽい子といつも一緒で、可愛く笑う子だなって気になるようになった。その子、大学であんなふうに笑ってるとこ見たことなかったから新鮮だった」

何かを言えるほど、私は自惚れられない。

顔が熱い気がする。膝の上に置いていた手は、知らないうちに緊張で固く握りこぶしを作っていた。

「気になれば自然と目がいくようになって――ああ、この子の、ゆったりとしたところ、いいなって勝手に和んでた」

「ど、どんくさいとかは、思わなかった? ……弱い人間だし、つまんないし」

「よく躓くみたいだし、もしかしたらオレよりかは、かもね? 弱いとかは、思わなかったよ」

「う……ん」

「弱くないよ。逃げずに、ゆっくりだけどちゃんと答えを出してる。電車で席を譲ろうか悩んで、けど最後にはちゃんと言える。困ってる人を、一度は通り過ぎようとしても、もっかい戻ってる。酷い告白なんかに、律儀に終止符打って……これは必要なんかないんじゃないかってやきもきしたけど」

「きっと、もっとちゃんと怒って断って、出来るはずだったんだよ」