たくさん面倒なことに付き合ってくれた彼のことを、私はあまり知らないのだと、心に余裕が出来たせいでようやく気づく。……ずいぶんと薄情なものだ。

「そういうことじゃないんじゃない?」

親友は、私が彼から助けられたことを聞き、彼が去っていった方向の線路を遠くまで見送っていた。

「そうかな……」

「どんどん、知りたくなってきたんだよ。前よりもっと。――今度お礼しなきゃ。同じ線なんだよね」

「そう言ってた。ちゃんと聞いておかないといけないね」

どの辺りに住んでいて、バイト先はどこなのだろうとか。もしかしたら大学の近くでバイトしているかもしれない。……そうだとしたら、今日はずいぶん迷惑を掛けてしまった。

助けられた。本当に。

だから、今度は私だって。

その為にももっと知りたい。

彼のことを、私はやっぱり多くを知らなかった。


そして、今まで彼から聞いていたことには嘘もあったと知るのは、数日後のこと。