「会社、死ぬほど居づらい」

佐川さんに、私と敦が付き合っていたことがバレたら? 待ってるのは修羅場、私はみんなの人気者、佐川さんの幸せを脅かす女として冷ややかな目で見られる。社会人としてどうかと思うけど、いろいろ明るみになる前に退職したほうがいいかも……。

「会社辞めたら、どうしようかな」

私の実家は地方にある。部屋の更新も迫ってるし、実家に帰還コースだろう。

でも、帰りづらいな。私は三姉妹の長女なのだが、妹ふたりはすでに結婚している。ただでさえ先を越されてるのに、いちばん年上の私が職も彼氏も失うとか……。

「知られたくない……。絶対、憐(あわれ)みの目で見られる……」

はあっと、今日で何回ついたかわからないため息をこぼす。途方に暮れながら駅までの道をとぼとぼ歩いていると、目の前を一枚の紅葉が横切った。

「え……」

私は足を止める。季節は秋。紅葉が降ってきたって、なんらおかしくはない。

けれど、その紅葉が淡く金色に光っているのだ。私は驚くより先に、ゆっくりと回転しながら、まるで舞うように落ちていく紅葉にしばらく見入っていた。

どこから、飛んできたんだろう。

私は紅葉を追って、曲がり角を曲がる。すると、そばに長い石段があり、仰ぎ見る。

「龍宮神社?」

そう階段横の石の看板に書かれていた。私はふらりと導かれるように、石段を上がっていく。

二股されたことよりも、自分が選ばれなかったことのほうがつらかった。

私と佐川さんのなにを天秤(てんびん)にかけて、敦は彼女を選んだんだろう。顔? 性格? 財力? あとは……素直に甘えられないところかもしれない。

長女気質が抜けなくて、親や妹たちから当てにされることが多かった私は、人から頼られることはあっても、頼るのに慣れてなかった。たぶん敦は、そんな私よりも佐川さんみたいに守ってあげたくなるような女の子のほうが可愛く見えたんだろう。