「文句のひとつくらい言わせてよ……」

スマホを握りしめ、胸の痛みから気を逸らすように恨み言をこぼす。それが強がりだって認めたくないのは、自分が惨めだからだ。

同じ会社の別部署にいる彼とは、会社の同僚に誘われた合コンで出会った。気さくで楽天的な性格をしていて、一緒にいて明るい気持ちになれる人だ。本気で好きだったのに、彼女をふたりも作っていたなんて、人は見かけによらない。そんな彼氏、さっさと忘れて新しい恋でもなんでもすればいいのに、心ってままならないものだ。今でも彼への気持ちを捨てきれなくて、自分のところに戻ってきてくれるかもって期待して、私は送ったメッセージへの答えを待ち続けている。未練がましいったらない。

返事を待つくらいなら会いに行けばいいのだろうが、本人から『別れる』とはっきり言われるのもダメージが大きそうでできないでいる。私はヘタレだ。

はあっとため息をこぼしたとき、部長から「みんな、ちょっと集まってくれ」と招集がかかった。部長の席に行くと、同じ部署の佐川(さがわ)さんが照れくさそうに俯(うつむ)いて部長の隣に立っている。彼女は見るからに可憐(かれん)そうで、控えめな性格ながらも気が利くところが男女問わず社員に人気だった。

「佐川くんから、みんなに報告があるんだそうだ」

部長に促されて、佐川さんはひとつ頷き顔を上げる。

「私事で申し訳ないのですが、このたび営業部の田部(たべ)敦(あつし)さんと結婚することになりました」

……え? 営業部の田部敦って、私の彼氏なんですけど……。

グラグラと世界が揺れている。ショックで気を失いそうだった。