「おかしいな、風のうわさじゃ静御前は霊になって地上を彷徨(さまよ)ってるって聞きましたが? そうだとしたら、魂は地上にある状態だろ。生まれ変われるはずがねえ」
「事情が複雑でな。実際に地上に行って、本人に確かめてくるといい」
「適当にもほどがあんだろ……」
「なに、永遠に奉り神になれと言っているわけではない。龍宮神社に神のご利益があると人間たちに実感させ、信仰を取り戻すことができたら、天界に戻ってもよい」
「それ、事実上の無期限じゃないですか」
「その点に関しては、お前の働きにかかっている」
くそっ……なら、とっとと解決してすぐにでも天界に戻ってやる。
「天界に戻るときには、巫女との婚姻も破棄させてもらいますよ」
「構わない。彼女は愛に生き、愛に死んだあの者の生まれ変わりだ。きっと、お前の心も溶かしてくれる」
「……? 俺の婚姻する龍宮神社の巫女って、まさか……」
俺の動揺をよそに、長はふっと意味深に笑う。
「さっそくだな。聞こえてこないか、翠。舞の雅楽が──」