「息子がおるんじゃが、三年前の妻の葬式以来会っておらんな。息子も〝見える〟人間だからのう、人ならざる者が集まる神社は気味が悪いと言って、成人してすぐに家を出てしまったわい。だからのう、もう静紀さんと翠様だけが頼りなんじゃ!」

吉綱さんが私の肩を掴み、血走った目で穴が開くほど凝視してくる。ちょっと怖い、夢に出てきそうだ。

「静紀さんにはこれからバンバン神楽を舞ってもらって、ご近所さんたちに龍宮神社で参拝すれば、ご利益があると証明してもらいたいんじゃ!」

「バンバン舞ってって……」

なんか、ありがたいはずの舞が急に安っぽく聞こえてくる……。

「期待に添えるかわかりませんが、舞もこれから覚えられるように頑張ってみます。静御前もいてくれてますし……ってあれ?」

振り返ると、もう静御前の姿がない。ほんと神出鬼没だな。

まさかの形で失恋したその日の内に、騙されて龍神様と婚姻。おまけに自分が静御前の生まれ変わりだと告げられて、やったこともない舞を奉納する巫女に転職。

しかも、これから神様とあやかしの化け猫、そして幽霊と同居なんて……。

この先、不安以外のなにもないけれど、もう私には行く場所がない。

ここで、やれることをしなくちゃ──。