「いちから説明するでのう。あやかしというのは、もとは神様や人間、動物の霊なんじゃ。それらが憎しみを持つと、霊はあやかし堕ち、神様は神堕ちといって魂が穢れ、あやかしになる。生前の姿を保っていないものはあやかし、と見分けるといい」

「じゃあ、あの子はあやかしなんだ」

ミャオを見れば、キッと睨まれてしまった。

「あ……さっきは怖がったりして、ごめんなさい」

肩を竦(すく)ませながら謝るも、ミャオはふいっと顔を背けて去っていってしまう。

気まずい空気が漂い、見かねた吉綱さんが「ミャオは人見知りなんじゃよ」と間を取り持ってくれた。

「あやかしは気性が荒く冷酷じゃが、彼らにも意思があるからのう。基本は常世(とこよ)であやかし同士社会を築き、生活しておる。まれに現世(げんせ)への未練ゆえ、この世に留まる者や常世から現世に来て悪さを働く者もおるがのう」

「とこよ……げんせって、なんですか?」

「ああ、常世は行き場のないあやかしのために神様が用意した世界のことで、現世はわしらがいるこの人間の世界のことをいうんじゃよ」

私のいる世界の他に、別の世界が……。

吉綱さんの話からすれば、静御前やミャオもなにか未練があって現世に留まってるってことだよね。ふたりはどんな未練があって、ここにいるんだろう。

「私のことが気になるか、静紀」

「うわっ」

急に耳元で囁(ささや)かれ、肩をびくつかせる。勢いよく振り向けば、幼児姿の静御前が腰に手を当てて立っており、ふんっと笑った。

「今までどこに行ってたんですか!」

「ずっとお前の中にいたぞ。これまでは地上を放浪しておったが、こうして自分の魂に出会えたのだ。用がないときはお前の中におることにした」

どうりで、婚姻の儀をした日から姿を見ないと思った。

「……それはそうと、静御前。婚姻の儀のこと知ってましたよね?」

ぴたりと静御前の動きが止まり、懐から取り出した扇で口元を隠す。

「お前が言ったのだろう、幸せな結婚がしたいと」

「言いましたけど、かりそめの婚姻で幸せになれるはずがないじゃないですか……」

「幸せは己で手に入れるもの。この婚姻が幸と不幸、どちらに転ぶかはお前次第。龍神の長と名乗る神が私の前に現れたときは何事かと思ったが、お前にとって転機になればいいと思ったまで。だから私は、その力を目覚めさせ、龍神様と引き合わせた」

静御前はあくまで私のために龍神の長様に加担したと? でも、なんで……。