「てめえが人間だからに決まってんだろうが」

「それだけで!?」

「それだけ、だと?」

ぴくぴくと龍神様の眉が震えている。あ、これやばいやつ。

「困ったらすぐ神頼み、他力本願で神の恩恵っつう甘い汁を啜(すす)って生きてるてめえら地上のうじ虫どものどこを好きになれと?」

「う──うじ虫なんて、あんまりです! 女性に対して失礼にもほどがあります!」

「女性? はっ」

龍神様は鼻で笑った。すごくバカにされている気がする。

「てめえは、うじ虫に欲情するか?」

「…………」

「てめえを女として見ることは一生ねえ」

──私は悟った、この性悪神様とは一生わかり合えない。

「百歩譲って、女として見れなくてもいいです。けど、うじ虫だけはやめてくれませんか? 私は静紀です、原静紀。ちゃんと名前で呼んでください」

そうお願いしたところで聞いてくれる神様でないことは、この短いやりとりでも嫌というほど思い知った。これはダメ元だ、ダメ元。

「その名前は、てめえにはもったいねえ。うじ虫で十分だろ」

ほら、やっぱり。そっちがその気ならと、私は段ボールを開封して、中からお饅頭の入った箱を取り出す。

「次、私をうじ虫って呼んだら、こうしてやります」

私は龍神様の口にお饅頭を突っ込む。

「ふぐっ」

鳩が豆鉄砲を食ったような顔。もぐもぐと口を動かした龍神様の頬が徐々に緩んでいき、心なしか瞳もキラキラしているような……。

「もしかして、お饅頭が気に入ったとか」

「……んぐっ、んなわけねえ。人間が作ったもんなんか、食えるか」

ごくんっとお饅頭を飲み込んだ龍神様は、そう言いつつもじっと私の手にあるお饅頭の箱をちらちら見ていた。

「そうですか、じゃあ他のみんなで分けますね」

龍神様が食べたそうにしているのに気づいていたが、私は段ボールを手にすくっと立ち上がる。すると、龍神様も腰を上げた。しかも私の段ボールから、お饅頭が入った箱だけを横取りしようとする。