「知ってますよ。奉り神は人間に信仰されなければ消滅する。だから、わざわざ人間と契りたい神もいない。そもそも、神と婚姻できる力ある巫女も減ってる。それであの神社は、長らく奉り神がいないんでしょう?」
「そうだ。ゆえに地上にも神の恩恵が行き渡らず、あの神社の辺りではあやかし絡みの揉(も)め事が起こり始めている」
神は巫女の願いを聞き届け、その恩恵を与えるのが役目だ。そして龍宮神社の巫女の願いを受けるのは、主に龍宮にいる龍神の仕事。ここ数百年は巫女からの舞の奉納もなく、地上の願いを知る機会はなくなっていたが……そうか、あやかしどもが悪さをし始めたか。ま、俺には関係のない話だがな。
「そうですか」
俺は興味なく答える。
神は滅多に地上には降りない。天界からでも巫女の願いを叶(かな)えられるからだ。なのにわざわざ地上に赴いて、人間を見守ろうとする物好きはあいつくらいだろう。
忍び寄ってくる喪失感を無理やり頭から追い出そうとしたとき、長からとんでもない言葉が返ってくる。
「そこで翠、龍宮神社の奉り神になることを命じる」
「……………は?」
一瞬、なにを言われたのかが理解できなかった。人間嫌いのこの俺に、地上に降りて神社に縛られるだけでなく、人間のために力を貸せと?