──白無垢(しろむく)を着させられた。

『本来これは巫女の仕事なんじゃが、うちは巫女がいないからのう。支度を手伝うのがこんなじじいで悪いのう』

吉綱さんがそう言って着つけてくれたのだけれど、なぜに白無垢? 巫女になるための儀式なんだから、ここは普通巫女服ではないだろうか。

わきあがる疑問を胸に秘めつつ、吉綱さんの先導で神社の本殿なる場所に向かう。どこからか雅びな音楽が鳴っているのだが、誰かが演奏している姿は見えない。きっと、音楽プレイヤーで流しているんだろう。

本殿に入ると、神前に果物やお酒、野菜が並んでいた。明らかに、私が着替えている間に準備できるセットじゃない。

「──高天原(たかあまはら)に神留(かむづ)まり坐(ま)す 皇親(すめらがむつ)神漏岐(かむろぎ)神漏美(かむろみ)の命以(みこともち)て 八百万神等(やほよろづのかみたち)を神集(かむつど)へに集(つど)へ給(たま)ひ──」

吉綱さんの祝詞(のりと)を聞きながら、私はダラダラと変な汗をかいていた。

なにかがおかしい。動揺を隠せずに視線を彷徨わせていると、祝詞が終わった。私は柄の悪い龍神様と並んで座らせられる。

「それでは、三度お神酒(みき)を酌み交わし、過去、現在、未来を結び、今後生涯を共にする誓いを立ててくだされ」

吉綱さんが朱色の盃(さかずき)を手渡してきたので、私は耐えきれず──。

「あの、生涯を共にするとは? というかこれ、神前式(しんぜんしき)ですよね?」

そう聞き返せば、満面の笑みが返ってくる。

「なあに、それくらいの気概で神様に仕えろという意味じゃよ」

そういうものなの……?

もやもやしながら盃に口をつければ、今度は龍神様と向き合うように立たされる。

「それでは、龍神様の角に口づけを」

「えっ……そんなことまでしなくちゃならないんですか?」

さすがに見ず知らずの男の人……じゃなくて神様に、角とはいえ口づけろとか、難易度が高すぎる。

私がいつまで経っても動こうとしなかったからだろう。龍神様はチッと舌打ちをして、私の腕を引っ張った。

「うわっ」

前のめりになる私の腰を抱き寄せ、龍神様は逃げられないように拘束する。