「でも、あなたが現れた! 舞で雨を降らせた特別な舞い手が! わしも六十になる。高血圧に腰痛持ち、身体もボロボロの老いぼれじいさんじゃ。だから、わしを助けててくれんかのう? この神社の巫女になってほしいんじゃ!」

鬼気(きき)迫る表情で訴えてくる吉綱さん。あまりの剣幕に相づちすら打てないでいた私は、はっとして龍神様の手を振り払い、舞殿の端に放り置かれていた鞄を肩にかける。

「本当に申し訳ないんですけど、私は巫女にはなれません。他をあたってください」

雨が降ったのだって、どうせまぐれだ。好きな人の特別にすらなれなかった私に、そんなアニメや漫画のヒロインみたいな力があるなんて誰が信じるっていうんだろう。

さっさと立ち去ろうとしたら、「逃げんじゃねえ」と龍神様の肩に担がれた。

「ちょっ、なにするんですかっ……」

「てめえに拒否権はねえ。つべこべ言わず、巫女になりやがれ」

「横暴だっ、このドS鬼畜不良神様!」

有無を言わさず、私を神社の建物のほうへ荷物のように運んでいく龍神様。

「口答えすんな。さもなけりゃ──」

龍神様は腰の刀に手を伸ばし、カチンッと親指で鍔を押し上げ、鈍く光る銀の刀身を見せつけてくる。

こんなの脅しだ! 仕事を辞めたいとは思ったけど、会社に迷惑かけるし、すぐにはできない。でも……断れば斬られる。選択肢なんて、あってないようなものだ。

「わ……わかりました。巫女になる件、お受けします」

殺されてしまうかもしれないなら、巫女を引き受けるしかないじゃない。

「ありがとうございますっ、それではさっそく巫女になる儀式を始めましょう!」

「巫女になる儀式?」

なにそれ、そんなすぐに準備できるものなの? そういえばさっき、吉綱さんと龍神様が準備がどうのこうのって話してたような……というか私、まだ辞表も出してないんですけど。

「さ、参りましょう!」

ノリノリの吉綱さんに一抹の不安が残るも、私はあれよあれよといううちに建物の中に連れていかれ……。