「俺はすこぶる機嫌が悪い。だから返事は『はい』以外、受けつけねえ」

「……は?」

「てめえは龍宮神社の巫女になれ」

「……え、無理です」

巫女ってなにをすればいいかわからないし、神社のことも詳しくないし、私には務まらない……というか、そもそもまだ仕事辞めてないし。

「あ?」

私の回答がお気に召さなかったのか、龍神様の額にぴきりと青筋が入る。ひいっと小さく悲鳴をあげると、龍神様は私の顎を乱暴に掴んで詰め寄ってきた。

「俺はすぐにでも天界に帰りてえんだよ、断るんじゃねえ」

「す、すみません! けど、帰りたいなら、好きなときに帰ったらいいんじゃ……」

「それができねえから、こうして頼んでんだろうが」

いや、頼んでないですよね? 脅してますよね? もう、この方神様なんだよね? それなのにメンチ切ってくるし、ドS鬼畜不良神様って呼んでやる。

「おおっ、おおっ、ようやく来てくださいましたか!」

突然、砂利を踏む音と共に、境内にひとりの老人が現れた。長い白髪を後ろでひとつに束ね、光沢のある白い龍の文様(もんよう)入り白袴(しろばかま)を身につけている。

「ああっ、ついに龍神様がこの神社に……っ。そして神様に願いを届けることができる、真の舞い手も! 龍神の長様のお話は誠だった! うれしくて、もう今死んでも悔いはないわいっ」

瞳をうるうるさせながら、私と龍神様を見つめているおじいさん。なんだか感動されているみたいだ。

「お、おじいさんはこの神社の方ですか? いえ、まず生きてますか!?」

光の加減のせいか、おじいさんの目の下には影ができ、肌も青白い。幽霊に神様、とにかく人間じゃない存在が連続で登場してきたせいか、おじいさんまで幽霊に見えてきてしまう。

静御前みたいに、死人だったらどうしよう。人間が私しかいないとか……夢ならもう覚めて。

「わしは宮光(みやみつ)吉綱(よしつな)、この神社の神主じゃよ。わしはずっと待ってたんじゃ、神をも癒やしたとされる特別神気の強い舞い手の生まれ変わりを」

「生まれ変わり……?」

眉間にしわを寄せると、静御前はくるりと背を向けた。