「うわあ……綺麗……」

金色の紅葉が一気に空へと舞い上がる様に、目を奪われていると──。

生暖かい風が肌を撫(な)でた。たちまち空が曇り、ポタッと頬に雫(しずく)が落ちてくる。それは次から次へと地上を濡(ぬ)らし、すぐに勢いのある雨になった。

「う、嘘! あんなに晴れてたのに……」

「今のは雨乞いの舞だ。舞ったことがないと言ってはいたが、お前の魂が神に届く舞をいかにして踊るのか、覚えていたようだな」

「魂が……」

そんな非現実的なことがあるわけない。そう思うけれど、妙に納得している自分もいた。踊れるはずがない舞を踊れたことがなによりの証拠だ。

「これで、眠っていたお前の力も目覚めた」

「それって、どういう……」

どういうことですか?と静御前に尋ねようとしたときだった。

──ゴロゴロッ、ガッシャーン!

突然、闇をふたつに裂くような雷が境内に落ちた。

「きゃああっ」

耳を押さえてその場にしゃがみ込み、私は灰色の空を見上げる。細い雲が生き物のように空をうねうねと動いていた。しかも、雲間から信じられないものが顔を出す。

「なに、なんなの……あれ……」

天から下りてくるのは、深紅のぎらついた瞳と赤い鱗(うろこ)で覆われた身体から成る巨大な龍。私は完全に腰が抜けて、舞殿に尻餅をついた。

「てめえが俺の嫁か」

目の前に現れた龍が、鋭くて太い牙のある口を開けて話しかけてくる。