「やっと来たか、待ちくたびれたぞ、静紀」

「…………え、なんで私の名前を知ってるの?」

巫女って、透視もできるとか?

私がぎょっとしている間にも、女の人は近づいてくる。

白く透き通った肌に長いまつ毛、ふっくらとした唇。舞殿の縁に手を置き、こちらを見下ろしてきた彼女の面立ちは、この世の者とは思えないほど美しい。

「あっ……と、神社の巫女さんですか? すみません、こんな夜に参拝になんか来てしまって……」

何事もなく会話をしながら、女の人を観察する。

着ている服がなんだか巫女さんっぽくない。着物の合わせ目がなく、首元まで襟があり、平安時代の人が着ていそうな……狩衣衣装(かりぎぬいしょう)にそっくりだ。……って、なんで私、狩衣衣装なんて言葉、知ってるんだろう。

「私が巫女? 私をあのような典型的な型でしか舞えぬ輩(やから)と同じにするな」

美女に凄(すご)まれると、迫力が二割増しだ。

「すみません」

あれ、なんで私、見知らぬ美女に謝ってるんだろう。

「私は白拍子だ。神や人間、そしてあやかし……求められれば誰のためでも舞い、その心を楽しませ、癒やす舞妓。まあ、その仕事のほとんどは、人の願いに応じて神に助力を乞い、雨を降らせたり災厄を収めたりすることだが」

「神やあやかし? 私、そういうオカルトチックな話は、ちょっと……」

なんだろう、この流れ。まさか怪しい宗教に勧誘してくるつもりなんじゃ……。

警戒しつつ後ずされば、女の人は「こちらへ来い」と言い、持っていた扇を手招きするようにひらひらと動かす。行きたくないけど、『あなたが胡散臭(うさんくさ)いんで嫌です』と断るわけにもいかず、私は気が進まないまま彼女に近づいた。