目の前にわたしがいた。

 白いシーツのベッドに寝かされ、体には何本もの管が繋げられていた。
 右目と頭に当てたガーゼには少し赤色が滲んでいて、顔に着けた酸素マスクは一定のリズムで曇っている。
 そばに置かれた機械からは、無機質な音が鳴り続けている。

 ベッド脇のパイプ椅子にはお母さんが座っていた。
 血が止まってしまったかのような白い顔をして、お母さんはじっと、寝ているわたしの顔を見つめていた。
 声をかけても振り向かない。わたしの声が、まるで聞こえていないみたいに。

 ふと、誰かがこちらへ近づいてくるのに気づく。白いユニフォームを着た女の人だ。
 その人は眠るわたしの顔を覗き、機械のモニターと点滴を確認するとすぐにその場を離れた。
 わたしには……ベッドに寝ているわたしではなく、ここに立っているわたしには、一切見向きもしなかった。

 目の前のわたしは左目を閉じ、身じろぎひとつせず眠っている。
 そのもうひとりのわたしを、わたしは、誰にも気づかれることなく見下ろしている。

 ……何がどうなっている?
 わたしに一体、何が起こっている?

日野青葉(ひのあおば)

 声に振り返る。
 寝ているわたしの足元に、ひとりの男の子が立っていた。
 わたしと同じくらいの歳だ。見たことのない、知らない男の子。

 知らないはずなのにわたしの名前をはっきりと呼んだ、その人と、目が合った。
 どこか冷たいその視線は、間違いなく、わたしのことを見ていた。