その後の道中は、平和そのものだった。敵に合うこともなく3時間ほど歩いた。

「ふぅ、そろそろお前の村だ。そこに川があるだろ? あの川をたどればすぐさ」

俺達は森から出て、川をたどり始めた。

「おい、あの女の子お前の知り合いか?」

 カインが指差した方向には川を寂しそうに一人で眺める女の子がいた。綺麗な金髪それだけで誰か分かる。

川に流された時、助けようとした幼馴染のシルヴィだ。

「おお、随分綺麗な嬢ちゃんだなしかもいい服を来てやがる貴族だな」

声を掛けてやりたいが、カインさんには記憶喪失と言ってしまった手前反応することができない。

人の気配を感じ取ったようでシルヴィがこちらを向いた。そして俺を見るときれいな青い目をゴシゴシと擦りそれでも俺が消えないのを確認すると、泣き始めた。

「お、おい! お前見て泣き始めたぞ? やばいぞ貴族様を泣かせるなんて下手したら極刑ものだぞ!」

「カインさんがごついから泣いたんじゃないですか?」

「何! それは否定できないぞ! どうする? 逃げるか」

カインさんの提案より早くシルヴィがこちらに走ってくる。カインさんは後ずさりしている。

「エルビス? エルビスだ。生きてたんだ! よかっだよ~本当に心配したんだよ。死んだんじゃないかってマリーさんもマリウスさんもそう言うから私もそうなんじゃないかってずっと心配で! 今までどこにいたの?」

カインさんがいるので、反応できず戸惑っているとシルヴィがその異変に気がついたようだ。

「あ、そのな? 嬢ちゃんエルビスは記憶がねぇんだ。だからそのへんも分かってやってくれ」

「貴方は? どちら様でしょうか?」

「あ、俺、いや、私はカインと申します。冒険者としての活動中彼を見つけたのでここまで拾った次第でございます」

カインさんが拙い敬語を披露していた。

「そうですか、ありがとうございます。彼は私の大事な人なので感謝してもしきれません」

カインの表情が引きつる。

「え、エルビス、いや様を付けたほうがいいのか? お前貴族だったのか……」

「え? いや違いますよ。そんな訳ないじゃないですか!」

「気起きないのになんでそんな事分かるんだよ。貴族と結婚するなんて貴族しかいないだろ?」

俺とカインの会話を聞いてクスクスを笑うシルヴィ。

「いえ、エルビスは一般人ですよ? ただ彼と私が結ばれているだけです!」

いや、わからん、泉で溺れる俺はイマイチ理解してないらしく記憶をたどっても分からない。

「あれ? エルビス記憶喪失って言った? もしかして私のこと忘れちゃった?」

「あ……えっと、はい忘れました。すみません。幼馴染のシルヴィさんでいいんですよね?」

カインが凝視しているので本当のことなど言えずに誤魔化してしまった。もうこっちのほうが便利かもしれないし記憶喪失でごり押すか

「そ、そうだよ……しっかり思い出して? シルヴィだよ」

「ひゅーお熱いね」

カインが口を挟んできた。その瞬間シルヴィが恐ろしい目でカインを見た。

「カインさんといいましたか? 今大事なところなので邪魔しないで下さい!」

「ひっ、すすみません」

カインは姿勢を正し俺達の会話を聞くことにしたらしい。

「ねぇ? エルビス覚えてない? 私達夫婦なんだよ。覚えてないかな? 結婚してるのだから浮気禁止だよ?」

俺は、シルヴィの左手の薬指を見た。指輪はハマってない。俺も渡した記憶はないしまず、子供だ。結婚なんてありえない。十中八九嘘だ。という訳でこらしめるとしよう。

「そうなんだね、僕たち夫婦なんだね・・・でもごめんね、僕覚えてないから、急にそんな事言われても困る。シルヴィちゃんは可愛いけど、今の僕からしたらただの知らない人なんだ、だから別れてほしい。あと嘘つきは嫌いだ」

自分の記憶喪失という嘘は棚に上げて嘘つき嫌い宣言をした。すると 俺にそんな事を言われるとは思っていなかったのだろうシルヴィは、ポロポロと泣き始めた。

「う、うわ~ん、きらわれちゃった~ごめんなさい、嘘だから! 嘘なの夫婦とか嘘だから嫌いにならないで~」

 ガチ泣きしてしまった。ここからシルヴィはを慰めるのに一時間かかった。早く家に帰りたかったのだが、放おっても置けないので仕方なくだ。

「エルビス……お前やるな! これは将来とんでもない男になりそうだぜ」

カインは俺のそばでずっとニヤニヤしている、俺のシルヴィの振り方が面白かったらしい。

「ぐす・・・じゃあエルビスくんのパパとママに会う? 忘れちゃったかもしれないけど優しい人だよ?」

 半泣きのシルヴィに手を引かれ俺は両親に会いに行く事になった。もちろん記憶喪失は演じたままで行く予定だ。カインも一緒だ。しばらく村に止まるらしい。

逃した黒ローブの警戒と情報整理があるらしい。