「マスター? 大丈夫ですか? まだ気持ち悪いですか。すみませんチョコレートが嫌いなんて知らなくて……」
「いや、もういいよ、この3日間ずっと謝られてたし流石に俺が困る。」
「わかりました。もうマスターも元気になりましたし、謝るのはやめます。ところでマスター今日は試験の日ですよ?準備は良いですか?」
「準備らしい準備は要らないだろ……あーなんか緊張してきた。」
「マスター深呼吸です。落ち着きましょう!」
俺は深く息を吸い吐き出した。少し落ち着いた。
「第1級生徒、2級、3級ってあるけどできれば2級が取れればいいな」
「マスターなら一級でも余裕です! 私が保証します!」
ディーネが思いっきり胸を叩き、むせている。取り敢えず背中を擦る。
「ありがとうございます。マスター」
「じゃあ俺はそろそろ行くから!」
俺はディーネの見送りを受けながら部屋ドアを開けるとクラウドが待機していた。
「具合はもう大丈夫なのかい?」
「ああ、しばらくあの黒い食べの物の名前は聞きたくないが問題ない。行こうぜ」
俺とクラウドはサリナ―ル魔術学校の校門まで来た。洋風なお城といった感じのかなり大きな城が何個か連なっている。
「受験者はこっちです! 受験者の方はこちらです!」
案内人の指す方向に従って歩いていくと体育館のような大きな場所に着いた。入り口で番号の着いたカードを配っているので受け取ってから中に入る。
「エルビス君何番? 僕は1252番」
「俺は1253番、あそこに受験者用の椅子があるな。行こうぜ」
椅子に座り一時間ほど待っていると呼び出しがかかった。
「1250~1299番までの人はこちらに来てください!」
周りに耳を傾けると他の生徒の話が聞こえる。
「やっぱ一級狙いだよな! 間違っても三級落ちはしたくないな!」
「ああ、二級でもいいが一級の10人の枠に入れれば学園生活もウハウハだぞ!」
そんな会話が聞こえてくる。一級はそれこそ、この国の未来を背負う人材! みたいなやつが選ばれる、間違っても龍魔法しか使えないオレは選ばれない。
「なぁ? クラウドはどうなんだ? 魔眼ってだけで一級狙えそうか?」
「いやいや無理だよ! 僕詠唱遅いし」
「詠唱?」
「うん、詠唱」
「詠唱ねぇ。この間お前に教えたのは無詠唱のやり方なんだけどまだ詠唱してるのか?」
「え? 無詠唱のやり方?」
「うん無詠唱のやり方、というか実際に詠唱なんてしてないのに魔法を俺に飛ばしてたじゃん」
「た、たしかに……あ、呼ばれてるし行こうか」
俺はクラウドと一緒に広い部屋に入った。部屋には強面の男が一人いた。
「うわぁ! すすすごい! 英雄のカインさんだ!」
クラウドが喜びの声を上げている側で俺は感激に震えていた。カインさんだ……生きていたんだ。よかった。俺のことは忘れて、知らないんだろうけどそれでも良かった。
「二年前に王都の近くの森に出現した宵闇の魔女っていう黒い姿をしたノーライフキングを単独撃破した真の英雄だよ! エルビス君」
その黒いノーライフキングって黒魔種だよな、やるなぁカインさん。物思いにふけっているとカインさんが偉そげに話し始めた。それがかなり面白い。
「今日の試験官は英雄と呼ばれているこの俺、カインだ!」
「ぶふぉ!」
「なんだ? 1253番」
「いえ、何でもありません」
つい面白くて吹いてしまった。
「あー、お前たちの中から次代の英雄が出ることを願っている! では1250番。こっちに来て俺と戦え。俺に魔法を当てたらそれだけで合格だ。当たらなくても安心しろ。精密照準試験とか魔法威力試験とか魔法適性とか総合的に判断するから!」
1250番の女の子が緊張気味に前に出た。魔法を長ったるい詠唱をして撃つが、かすりもせずそのまま退場になった。
1501番の女の子は身体強化魔法の使い手らしく軽く詠唱をした後飛び掛かりあっさりと吹き飛ばれた。
そしてクラウドの番だ。「よろしくお願いします!」とあいさつをして魔法を詠唱し始めたが途中で思い直したのか詠唱破棄をして無詠唱で魔法を発動した。
「うぉ! 無詠唱だと……しかもいい威力だ!」
グレンに褒められたカインは有頂天になり舞い上がってしまったのかそのままグレンに接近されKOされた。次は俺の番だ。
「さあ次は君だ。さあ全力の魔法を打ってこい。俺はそれをしのぎ切って見せよう!」
「ぶっ! ほ、本当に全力でいいんですか?」
臭いセリフに思わず笑ってしまう。カインは鼻で笑い肯定した。では遠慮なく!
「責任は取ってくださいよ! 『子龍魔法:ダークスピア』」
俺は全力の闇属性ドラゴンを魔法で生み出した。英雄になったカインさんなら避けてくれるだろう。
突然の魔法に目を大きく見開きカインはドラゴンの吐いた闇の槍を剣で弾きぎりぎり避けるも爆風で吹き飛ばされた。ふふふ、驚いてる、驚いてる。もう一発撃ってやろう。
「子龍魔法:ダークブレス」
カインは龍のブレス攻撃を必死に剣でしのぎながら叫ぶ。
「お、お前! 詠唱はどうした。こんな化け物を生み出す魔法が詠唱無いとかどうなってんだ! ぐばっ!」
俺はカインさんに近づき蹴り飛ばした。俺の勝ちだ! そう思ったがいきなり立ち上がった。
「まだだ! 俺も本気を出す。お前も腰の剣を抜け!」
なんかやる気になったようだ。そっちがその気ならこっちも本気だ! 俺は剣を抜刀する。さぁ! 英雄になったカインさんとガチバトルだ!
「素晴らしいその剣は俺の剣の数百倍の神聖さを感じる! 精霊が宿っているのか? まぁ試せばわかる!」
そう言ってカインは飛び掛かってきた。