よろよろとしているディーネを介抱しながら、話しかけてきたクラウドという男の子と少し話すことにした。

「そうか……俺もサリナ―ル魔術学校に受験するつもりで来たんだ。エルビスっていうんだ。よろしくな」

 俺は、手を出して握手を求めた。クラウドも意図を察して笑顔で握手を返してくれた。

「えっと……エルビス君は泊まるところ決まってるの?」

「いや、今着いたところだから決まってないな」

「そうなんだ! じゃあ一緒に宿を探さないかい?」

 俺の答えを聞いて嬉しそうにクラウドが提案をしてきた。まぁ同級生になるかもしれない人間との交流はあった方がいい、ここは提案に乗っておこう。

「ああ、それは良いな。一緒に探そう。」

「ところでその背負っている方は彼女さんかな? だとすると僕はいない方がいいんじゃ?」

「いや、彼女じゃない。こいつは家族みたいなものだ。」

「マスターそう言って頂けてディーネは幸せです。もう死んでもいいです。というか死にます。吐きそうです」

 ものすごい嬉しそうなと今にも吐きそうな顔を織り交ぜた微妙な顔をしてディーネはそう言った。だが馬車に酔っているせいで顔が真っ青だ。

「彼女も辛そうだね、早く宿を探そう!」

 クラウドは先行して歩き始めた。

「ところでエルビス君はどこから来たの?」

「俺は、ハーミラから来た。」

「え? ハーミラから来たの? あそこにも魔術学校あったよね? なんでこっちに来たの?」

「よくあるだろ? グレワール魔術学校の校風が好きじゃなかったんだ。」

 そう言うとクラウドは納得した顔をした。グレワール魔術学校は伝統的な教育方針を重要視している為、新技術などに手を出すのが遅い。魔法技術を深く、そして新技術を開発したいという志の高い人間はグレワール魔術学校を避けるのが定番だ。

「なるほどね、僕は魔眼を持っていて、これの制御を何とかしたくてサリワール魔術学校に受験したんだ」

 魔眼持ち? 聞いたこと無いな。スキルの一種か? それとも生まれつき持っている特殊技能だったりするのか?

「マスター魔眼はスキルの一種です。空間に漂う魔力、魔素を目視で認識できるスキルです。扱いにはコツがいるので魔素が濃い地域に住んでいる魔眼持ちは盲目と勘違いされがちです。」

 俺の心を読んだディーネがわかりやすく疑問に答えてくれた。

「えへへ、そうなんだよ、エルビス君の近くは僕の視界がほとんど見えないくらいに魔力が漂っていて修行になるかなって思って近づいたんだ。ごめんね?」

 騙したことを申し訳なさそうに謝るクラウド

「いやいいぞ? 気にするな。むしろ練習に付き合ってもいいんだけどどうだ? 宿を見つけたら少し修行でも」

「ほんと? ぜひお願いするよ!」

 俺のスキルには教育ブーストがある。恐らくすぐに技術を習得できるだろう。

 しばらく街を観光しながら宿を探すと三日月という名の宿があった。

「ここはどうなんだ? 俺は値段とかあんまり気にしてないけどクラウドはどうだ?」

「僕もあんまりお金には困ってないからここでいいと思う!」

 俺たちの案も纏まったので宿に入ると体格のでかいおっさんが受付をしていた。

「いらっしゃーい! 三人か? 三人部屋は高いぞ?」

 入店直後いきなり大声でそんなことを言われた。耳が壊れそうだ。

「こんな、イカツイおっさんが対応してたら来る客も来ないだろ.……」

「ああ? テメェなめてんのか?」

「仕方ないだろ? 素直な感想だ。それに入店直後に鼓膜を破壊しようとするな!」

 やべぇ! 声に出ちゃった。ついぽろっと出ちゃったんです! すみませんでした!

「マスター思ってることと言ってる言葉が逆です」

「おほん! まぁいいや2人部屋と一人部屋で頼む」

 俺が部屋の割り当てを注文したがおっさんは聞いていない。狼のように泣き始めた。

「俺だってこんな所で普段から受付してる訳じゃない! 娘が風邪ひいてんだよ死ぬんじゃ無いかって心配で声だってあげたくなるわ!」

 あ、自分語り始まっちゃった……これは長くなりそうだ。風邪くらいならディーネに任せればなんとかなりそうだな。

30分ほど無駄話を聞き流し、やっとおっさんが話を元に戻した。

「それでお前らは2:1の部屋割りでいいんだな?」

「ああ、問題ない、後で娘さんの風邪治すから安心しろよな、一回部屋に戻ってディーネが休んだら直させるから」

「ほ、本当か! お前は回復魔法使いだったりするのか? ありがてぇ」

 そのままテンションが上りルンルンのおっさんに部屋前まで案内された。

「じゃあクラウド、片付け終わったらすぐ出てこいよ!」

 そう言って俺とディーネで二人部屋に入ろうとすると背後から驚いた声が聞こえた。

「どうした? クラウド?」

「いや、部屋割りが想像と違っただけだよ」

「いやいや、クラウドお前ディーネと寝るつもりだったのか?」

 そう言ったクラウドが慌てて手を振りながら否定する

「ちちち、違うって! 僕とエルビス君と一緒かと思ったんだ!」

「いや、会ったばっかのやつと同じ部屋ってなにか嫌だろ?? 普通に今の部屋割りのほうがいいと思うぞ?」

「ま、まぁそうだね! 準備終わったらすぐに呼ぶから!」

 そう言ってクラウドは自室の中に入っていった。

「ますたぁーもう限界です早くベッドに連れていってください〜」

「ほら、水飲んで、そこの布団に寝て大人しくしてろ。後気分が良くなったらおっさんの娘を治すんだぞ」

 ヘロヘロなディーネをベッドに寝かせ水を飲ませて布団を掛けてから俺は部屋を出た。

「ごめん、待たせたな」

「いや、いいよ、ディーネさん馬車酔いしてたから介抱してたんだよね。じゃあ行こうか!」

 多分俺のせいで視界が確保できていないクラウドの修行をするために一度街を出て近くの森まで向かうことにした。