ドラゴンは咀嚼した後、肉塊を吐き出した。ここで俺の感情をを抑えていたスキルをすり抜ける感情が芽生えた。猛烈な怒りだ。
俺はドラゴンに向かって超加速を使って駆け出した。まだ破壊属性が使えるギリギリの時間だ。剣圧に破壊属性を付与して斬撃波として飛ばす。
「死ね!死ね!死ね!」
剣圧が貯まるたびに破壊属性を付与して飛ばすが全くダメージが入らない。もうすぐ破壊属性付与ができる時間が限界を迎えるそうなったらゲームオーバーだ。
ドラゴンが尻尾で反撃をしてきた。ぞのまま俺は叩き飛ばされた。だが俺には、体力自動回復 (極大)がある。時間をかければまだ戦える。だが時間を掛けると破壊属性付与の時間が切れる。俺は出血して肺にたまった血を臓器操作で無理やり押し出した。
「マスター! ご無事ですか!」
家の残骸に埋もれていたディーネがカインさんに担がれて這い出てきた。生きていたかよかった。
「おい、エルビス……なんで帰ってきた。そのまま逃げればよかっただろ」
「そんな訳にもいかないでしょ」
「カインさんまだ戦えますか?」
「当たり前よ。あのドラゴンを倒して、そこのクソガキをぶっ殺す」
カインさんの視線の先にはべフィスがいた。カインさんは、ディーネを安全な場所に置いてこちらに来た。
「時間的に最後の破壊属性攻撃をします。その後に攻撃をかまして下さい」
「わかった。任せろ」
『光、龍魔法:シャイニングレーザー(破壊属性付与)』
宙に浮いた龍から極大の光線が吐き出された。
「GYAOOOOOOOOOOO」
ドラゴンの体が少しずつ崩れていく光龍が光線を出し終わる頃にはドラゴンの姿は完全に消滅していた。
「ハハハ、やったなエルビス意外と簡単だったぜ。俺なんもしてねぇよ。後はそこのクソガキだけだ」
べフィスに近づいていくカインさんに巨大な火球が十方向以上から跳んできて直撃した。俺は、吹き飛んだカインさんのもとに走る。
「カインさん! 大丈夫ですか。今回復させます」
俺がカインさんのもとに走るとカインさんは既に息絶えていた。俺はカインさんを殺した犯人を特定するため周囲を見た。そこには11体のドラゴンがいた……
ドラゴン達の口に火が充填され始めた。ここで死ぬのか……
「止めるんだ! そいつには話がある。」
どこかで聞いたことがある声がする。失踪中と言われていたベフィスとローブを被った男の二人組だ。
「やあ。久しぶり! どうだい。この圧倒的な力。シルヴィはどこだい? 僕の力を見せて今度こそ結婚するんだ!」
「少し黙れベフィス、お前は所詮実験台だ、別にこの村を襲うのはお前でなくてもよかったんだ。それ以上妨害するなら殺すぞ!」
黒ローブの男に脅され黙るベフィス。
「まぁいい。そこの精霊以外だと最後の生き残りのようだしな。せっかくだ。この黒錬金術製のドラゴンについて説明してあげよう。」
驚きの余り声が出ない黒魔種の正体が黒錬金術だと……
「そんなはずないだろ……じゃあ結界の中に湧き出ていた黒魔種は全部手作りだというのか?」
「黒魔種? ああ、黒錬金術の過程で生まれる強個体の事か……いいねその名称貰うね。」
そう言って豪華な手帳に黒魔種と書き綴る黒ローブ。
「さて説明してあげよう! 哀れに死ぬだけの君にそうだな。まず黒錬金術がどういう物なのかと言うところからだ」
くつくつと笑いながら説明してくる黒ローブ、こちらとしては都合がいい破壊属性を使えなくなった今、体を回復させるには最高の時間だ。
「黒錬金術は白錬金術の反対とか言われているが本質はどちらも同じ、自然の力の利用さ、ただ白と違って黒は魔術を使って無理やり自然の力を捻じ曲げて使うんだ! だから効果が違う! 圧倒的な力を持った効果を生み出す。そしてその代償がこれさ」
そう言ってドラゴンを指さす。
「不自然に捻じ曲げた力の反発は魔物の発生に影響したそれが君の言う黒魔種だ、君は黒魔種と戦っていただろ? 気が付かなかったか? すべての個体がありえないくらい頑丈なわけではない。君が未来身の鏡を使った日、不自然に大きい黒魔種が出てきたはずだ。」
「それは、黒錬金術で作られた鏡が君たちの姿を未来の姿に、端的に言えば大きくしたからだ。作った錬金道具の効果を黒魔種も引き継ぐ、そしてこのドラゴンは最高傑作だ! 知っているか? スキルは一度だけ進化できるんだ。めったにない特殊例だが確かに存在する。」
そういって男はブローチをひらひらと俺に見せる。
「このブローチには攻撃力の最上、攻撃力強化(特大)と防御力の最上級、防御強化(特大)が入っている。スキルには上中下しかないと言われているがもう一段上があるんだ!」
そう言ってドラゴンをポンポンと叩く
「こいつもそのスキルを持っている」
スキルだけ聞くとオレのはるか下位互換だ。だが黒魔種というだけで本来の3倍のスペックはあるはずだ。それにあんなスキルが入れば、今の俺には勝ち目がない。
さっき魔力と破壊属性をほとんど使ったのは間違いだったか
俺はドラゴンの操り主であろうべフィスに剣圧による火の斬撃波を飛ばした。
「うぅぐぐがっは!」
ベフィスが吹き飛び力付きた。だが黒ローブは全く気にしない雰囲気で立っている。
「はっはっは! 面白い、面白い! なんですか! その魔法はレポートにも手帳にもかいて無かった! 素晴らしい!」
ローブの男は高笑いを繰り返している。
『子龍魔法:アイスバレット!」
氷の玉はドラゴンの腹に突き刺さるが全く気にした様子がないもう魔力がない
「クック! いいでしょうこちらも本気を出すとしましょう!」
そう言って指を鳴らすと先ほどのドラゴンが11匹のドラゴンが近づいてきた。これは無理だ……
そう諦めドラゴンが吐く火球を受け止めようとした時オレの前に、同じくらいの身長の女の子が飛び出てきた。
そのまま女の子に火球は直撃して吹き飛んだ。
「シルヴィィィィ!」
俺はシルヴィに駆け寄った。
「おい、なんで!何でこっちに来た!」
シルヴィは弱々しく微笑むとオレの頬に手を伸ばした。俺はその手を掴む。
「エルビスには死んでほしくなかったの……」
そう言ってそれ以上何も言う事もなくシルヴィの手から力が抜けた。俺の選んだ白い服が真っ赤に染まっていく。
「あああぁぁぁぁぁぁぁうわあああああああ」
俺は回復の秘術を発動した。対価はなんだ! 何でも持って行け! 腕でも足でも命でも全部やる!
だが回復の秘術は掻き消えた。なんでだ? オレの背後にディーネがよろよろと近づいてきた。
「マスター、シルヴィさんは命を失ったのではありません。奪われました、あのドラゴンは命を吸収するようです。回復の秘術は失ったものを回復という形で取り戻すスキルです。失ったのではなく奪われたので回復の秘術は発動しません……」
嘘だろ……俺は失ったのだシルヴィをそしてシルヴィとの時間をこの村での生活をこれから過ごす人生のすべてを全部全部だ……
嘘だろ……俺は失ったのだシルヴィをそしてシルヴィとの時間をこの村での生活をこれから過ごす人生のすべてを全部全部だ……
そこでハッとした、オレは失ったのだの……回復の秘術は失ったものを回復という形で取り戻すならば……俺を基準に回復の秘術を使えばもしかしたらみんな帰ってくるのかもしれない
俺は回復の秘術を発動した。回復の秘術は俺の周りだけに留まらず惑星全域に広がっていった。
◇
「がぼっごぼぼ」
気が付くとオレは回復の泉にいた。命がものすごい勢いで摩耗していくのを感じる。だがここで死ぬわけにはいかない! この回復の泉の中にいるから俺はまだ死んでいないに過ぎない。対価は命だったのだ。俺は、心の中でディーネを呼ぶ。
すると暗い泉の中が光った気がした。光った方に移動するとディーネがいた。
「マスター? あれ、私……あれ?」
水中で混乱しているディーネ、おそらくオレが近づいたことで、オレの持つ回復の秘術空から自動的に契約を結ばれたのだろう。
回復の秘術でみんな生き返るのかと思ったが、村のみんなはあのドラゴンに殺された……いや、命を奪われた。つまり生き返らせるのは不可能だった。それでも俺の失った時間を取り戻すために時間を巻き戻すという形でスキルは発動したのだろう。
そしてオレの思考を読めるディーネはオレを介して未来を思い出したのだろう。
(回復に秘術の対価が命だったみたいだ……命やばい……助けてディーネ)
そう言うとフフッと笑うディーネ
「仕方ないですね命を与えます。こんな例めったに無いんですよ。もしマスターが回復の泉以外で命を対価にしていたら普通に死んでいまいた」
そう言ってディーネがオレにキスをしてきた。俺は失った命を回復してもらい天井を破壊して地上に出た。
スキル、持ち物、記憶。俺だけこっちに全部持ってきたようだ。
「流石です! 流石私のマスターです! あの状況からよく今の状況まで持ってきましたね! 私諦めてました!」
そう言ってディーネが俺に抱擁する。
「放せ! 苦しい!」
「嫌ですよ! 私がマスターの命を救ったんですから少しくらい、いいじゃないですか!」
30分ほど弄ばれやっと解放された。
「マスター私は契約しているから思い出せましたがシルヴィさん、他の村の人は無理ですよ?」
「ああ、わかってる、あの村は解散するべきだ。今の俺、というより子供の俺じゃあ、どんなに頑張っても前回より少し強くなる程度だ、あのドラゴンたちには勝てないし人死が出るくらいなら村を解散させたほうが良い」
ここは、過去だ、オレが回復の泉でおぼれた直後だろう。
「違いますよ?あの泉でマスターはちゃんと半年間溺れています。」
オレの考えを読んだディーネが、オレの勘違いを訂正する。
「え!嘘、マジか……まぁいい時間はあるゆっくり着実にやろう。そろそろここらへんでカインさんと出会う時間だ。だけど合わないほうが良いだろ……もし村人の避難に失敗したら巻き込んで殺すことになる」
「マスターあのベフィスを殺せはいいのでは?」
「いや、あの黒ローブがベフィスは実験対象みたいなことを言っていた。あいつを殺しても無駄だ、今から黒錬金術を止めるというのも無理だ、国の政策になっているから自分で気づかせるしかない」
ゼオンさんが言っていた。ここ二年くらい不作が続いていると、それも全部黒錬金術の所為だろう。シルヴィに黒錬金術の効果が逆効果だったのも、そこら辺に影響しているんだろう。
考え事をしている間にシルヴィと出会った河原まで来た。前と同じようにシルヴィは寂しそうに一人でポツリとしている。
「シルヴィ!」
オレがそう呼ぶとシルヴィは目を見開いてこちらに駆け出してきた。
「エルビス! 生きてたんだね。よかった! よかったよ!」
シルヴィは俺に抱き着きすりすりしてくる。
「ところでそこの綺麗な女も人誰?」
そう、以前と少し違うのはここからだ・・・
オレは、ゼオンから誕生日プレゼントしてもらった保存の鏡をシルヴィに渡す。
「え? なにこれ」
鏡を受け取り覗き込んだ瞬間シルヴィはその瞬間、頭を押さえる
「うぅぅぅ、あれ、えっとあれ? エルビスが川に流されて、それであれ? 今日はエルビスの誕生日であれ? あれ?」
未来の記憶を思い出し現在の記憶とごっちゃになってシルヴィは混乱している。
「マスター? これは……最初から予期していたのですか? こんなものをあらかじめ持っているなんてさすがです」
ディーネは驚きすぎて声がぶるぶるだ。まぁ完全な偶然なんだけどな
「エルビスが小さい!かわいい!」
俺に抱き着いてベタベタし始めるシルヴィ
「シルヴィ……シルヴィも小さいからな」
「え? あれ? 最近大きくなってた最近大きくなってた胸がぺったんこ!」
どうやら胸が大きくなっていたらしい気づかなかった。
「シルヴィ……ここは過去だ、昔の時間だ」
「昔? エルビスが小さくなったんじゃないの?」
「いや違うここは俺たちが6歳の頃の時間軸だ。みんなは未来の事を知らない俺たちだけが知っているんだ。」
「そうなの?」
よくわかっていない顔をしている。
「取り敢えずだ! 最近黒魔種が多かっただろ?」
「うん多かった」
「あれが村を襲ってみんな死んだんだ」
「? さっきまでみんないたよ?」
「だからここは過去だからだ。未来でそういう事が起きる。だから逃げなくちゃいけない。」
少なくとも一年半以内に……村は解散した方がいい、あとシルヴィ、未来と現在がごっちゃになっている。これも何とかしなくては
俺とシルヴィはゼオンの所に行く前にシルヴィが理解するまで説明を続けた。そしてローレン家の前に着いた時、ゼオンは家の前にいた。
「おお! お帰りシルヴィ。エルビスは……なんでいる! くそガキ!」
あぁ、攻撃的なゼオンさん懐かしい。半年ぶりに村に帰ってきた人間に掛ける第一声がこれか。まぁいい、以前の流れを辿ろう! オレは龍魔法で裏山を完全消滅させた。
「エルビス!?」
流れは説明していたが裏山を完全に消滅させるとは思っていなかったのだろう。シルヴィも驚いていた。ごめん! やりすぎちゃった!
ゼオンは口をあんぐり開け、失神した。
時間はあるとわかっていても焦る気持ちがある。未来でどんな凄惨な出来事が起きるか分かっているからだろう。
「おい! 起きてくれ、ゼオンさん!」
頬を何度か叩くとゼオンさんは、目を覚まし裏山のあった方向を見る。
「あぁ夢じゃなかったか……」
「お父さん! 大事な話があるの執務室に行こ!」
「大事な話だと! 結婚するのか」
「違うから……早く」
シルヴィが話を進めてくれた。身体的には疲れていないが精神的に疲弊しているから助かる。
「ところでそこの青髪の女性は誰だ?」
「この人はディーネさん! エルビスと契約している精霊さん!」
「せ、精霊と契約したのか、そうか! あの威力の魔法は精霊との契約で……ふむ、シルヴィと結婚しないか? エルビス君」
おや? 前回と流れが違うぞ? 手のひらくるくるだな……
「その話はまたいつか。今日は、精霊の未来予知があったから話に来たんです」
そう話すと興味深そうに耳を傾けるゼオン
「2年後にこの村に12匹のドラゴンが攻めてくる。」
ゼオンは思いっきり机を叩いた。
「それは本当か? 夢や嘘ではないのか?」
「ここに精霊がいるのが証拠だ。」
「そうか……それはどうにかなるものなのか?」
「いえ、どうにもなりません。冒険者のカインさんが助太刀に来るんですけど無くなってしまいます」
「そうか……ならこの村は解散させた方がいいな、ちなみにその時、村はどうなった?」
オレは深呼吸して話始める。
「みんな死んだ。ゼオンさんもシルヴィもみんな……」
ゼオンが手を握りしめる音が聞こえてくる。
「そうか……では今日から村を解散させるための準備を始める。エルビス君も手伝ってくれ」
「はい、わかっています。一年半以内に全員別の村や町に引っ越しさせましょう。」
ゼオンは一気に老けた顔をしてため息をついた。
「はぁ金掛かるな、何か稼げる方法ないかなぁ」
一応ドラゴンからむしり取った鱗があるけどこれ渡そうかな? そんなことを考えているとディーネが俺に水の入った水筒を渡してきた。
「ディーネ。これは?」
ディーネは嬉しそうに微笑みながら説明を始めた。
「回復の水です。毒、麻痺、呪い何でもござれです!」
「本当か! それ売れば避難代が全部解決だ!」
本当にうれしそうにゼオンがディーネに抱き着こうとする。
「私に触れていいのはマスターだけです!」
ディーネの本気の蹴りを食らい吹き飛んだゼオンは、それでも尚、ニヤニヤと笑っている。ここに今、変態が生まれた。
「エルビス達一家はどこへ行くつもりなんだ? 俺たちは少し離れたザーグの街に行こうと思っている。シルヴィが悲しむ……金は出すからお前たちもどうだ?」
「自分は子供なのでそういう判断はできません。」
ゼオンが驚いた顔をする。
「そういえばお前まだ6歳だったな、しっかりしすぎてそんなイメージ無くなっていたぞ、それにしても半年前はもっと子供らしかったと思うんだがな」
そりゃあ中身はもう18年くらい生きてますから。とは言えず笑ってごまかした。
そして半年後、俺たちの村は事実上解散した。俺とシルヴィも離れた所に住むことになった。
◇
そこから6年シルヴィとのやり取りは手紙だけのやり取りになった。
「お兄ちゃん?今日は魔術学校の試験を受けるために家を出る日でしょ?もうさぁお母さんとお父さんもともばらばらになって6年だよ?いい加減にしっかり起きなよ!」
レイラに朝早く起こされた。実は村の解散時、ごたごたに巻き込まれ家族バラバラになってしまっていた。そんな俺をレイラは俺を見つけてくれた。今は同じ家に住んでいる。
「じゃあそろそろ行ってくる。」
「行ってらっしゃい! お兄ちゃんもグレワール魔術学校に来ればいいのに何でサリナ―ル魔術学校に行くの? 全くもう!」
そんな妹の怒る声を聴きながらオレは家を出た。
俺は、今日6年間一緒に生活した妹と離れ魔術学校の入学試験を受けに行く。俺が受験するサリナ―ル魔術学校は、ウルド領のハーミラという町にある。
今いる街からは、馬車で3日程度かかる距離だ。俺がいるマージャスという町には、グレワール魔術学校という学校があり、そこに妹は研究員として通っている。
俺が、グレワール魔術学校に通わかなったのは、妹がいるからではなく校風が肌に合わなかったに過ぎない。
ちなみにサリナ―ル魔術学校の入学試験は、8日後だ。実は、走った方が早いのだが今回は、馬車に乗ってゆっくりと行くことにする。
「じゃあ、そろそろ行くから……レイラわかってるよな? 変なことはするなよ!」
俺は妹に変なことはしない様にと注意だけしっかりとしておく。
「お兄ちゃん……それはもう一人の私に言ってよ。私はあんな事したくないのにもうひとりの私が勝手にあんな事やるんだから仕方がないじゃん
妹は二重人格だ。何かに取り憑かれていると俺の契約した精霊は言っていたが……ナニコレすごく心配、『また』勝手に人間を家に連れ込んで魔術付与実験とか始めないよな? 心配だ。
さて、妹に注意もした。魔術学校に受かればこの街には帰ってこない、お世話になった冒険者ギルドにも挨拶をしよう。
いつも通り冒険者ギルドに入るとにぎやかだった冒険者ギルドが静まりかえる。
「あ、エルビスさん! 今日はどうしました?」
受付嬢がびくびく震えながらオレの対応をする。初めて冒険者ギルドに来た時、かなり高ランクの冒険者に喧嘩を売られそいつを吹き飛ばしたらギルドが半壊した。それ以降ずっとこんな対応だ。
「今日は、挨拶をしに来たんです。前々から言っていた魔術学校の入学試験があるので行ってきます。合格したら帰ってこないので」
受付嬢が立ち上がり嬉しそうに微笑む
「とうとう行くんですね!」
「なんか嬉しそうですね……」
全力で顔を背ける受付嬢、はぁ……まあいいや行こう。事前に予約した馬車まで向かう。そして馬車に乗り込むと妹がこちらに走ってきた。これは……凶悪な方の妹だ……
「お兄ちゃん。これ! 私が開発した魔術道具! もし危なかったらこれ使って!」
そう言ってオレに渡してきたのは、卵だった。卵ですか? まぁ食べろってことかな? わからんが持ていってと言うなら持っていこう。
見送りのレイラを置いて馬車が走りだす。すると俺の腰に携えている剣から青髪の16歳程度の女の子が出てきた。彼女はディーネ、初めて会った時から姿は変わっていない。なぜなら彼女は精霊だからだ。
「マスター私は自由です! あのいつどこで凶悪なモンスターに変身するか分からない凶悪な妹君から離れられました! うへへへへ」
ディーネは妹によって以前行われた何かによって強烈なトラウマを植え付けられていたらしく、普段のディーネではありえない異様なテンションで自由を謳歌していた。
しばらく馬車に乗っていると、ガタンと音を立て急に馬車が停止した。
「お客様。魔物です! 護衛が今魔物を退治するので、少々お待ちください!」
御者のおじさんがそう言ってオレたちが馬車から出ない様にと忠告してきた。俺はレイラが渡してきた卵を見つめる。少しだけ気になって使うことにした。
おそらく割れば効果が発動するんだろう。そう信じて俺は思いっきり卵を地面に投げると急に出現した縄出現してディーネを目掛けてウニョウニョ這い回り始めた。そしてディーネがグルグル巻きになるまで数秒だった。
「え……どういう事?」
「マスター。何でこんなことをするんですか! レイラ様ですか? レイラ様に影響されたんですか? 私はいつものマスターが好きです! 戻ってください!」
縛られたディーネは、半泣きになりながら俺に懇願してくる。
「ごめん。今ほどく。全くレイラはやっぱり変わってないじゃないか! これ危なくなったらディーネを生贄にしろってことだろ? 今度会ったらお仕置きだ!」
俺が必死にディーネの体から縄を解いていると馬車の外から声がした。まだほどき終わっていない……ディーネを俺の体で隠しながら対応する。
「お客様! 魔物の討伐が終わりました! また動き出すのでしっかり捕まってください!」
「了解しました。お疲れさまです」
御者のおじさんが俺たちにそう言って操縦席に着くと再び馬車がゆっくりと動き始めた。馬車に揺られながらディーネに絡みついた縄をナイフで切り裂いた。だが固くてなかなか切れない。
「マスター痛いですそこ痛い! もっと優しくお願いします!」
30分程度解くのに時間がかかってしまった。ディーネはトラウマを刺激されたらしく馬車の端っこにうずくまり泣いている。
そこからは何もなく馬車で3日かけようやくハーミラに着いた。
「マスター気持ち悪いです。介抱をしてください~」
3日間の苦行を乗り越え地面に降り立ったディーネは馬車に酔いヘロヘロだ。
「あの大丈夫? そこの女性すごく辛そうだ。僕はクラウド、魔術学校に通うためにこの街に来たんだ。」
同じくらいの時間に別の馬車から降りてきた少し気の弱そうな男の子が声を掛けてきた。
これが、クラウドとの出会いだった。
よろよろとしているディーネを介抱しながら、話しかけてきたクラウドという男の子と少し話すことにした。
「そうか……俺もサリナ―ル魔術学校に受験するつもりで来たんだ。エルビスっていうんだ。よろしくな」
俺は、手を出して握手を求めた。クラウドも意図を察して笑顔で握手を返してくれた。
「えっと……エルビス君は泊まるところ決まってるの?」
「いや、今着いたところだから決まってないな」
「そうなんだ! じゃあ一緒に宿を探さないかい?」
俺の答えを聞いて嬉しそうにクラウドが提案をしてきた。まぁ同級生になるかもしれない人間との交流はあった方がいい、ここは提案に乗っておこう。
「ああ、それは良いな。一緒に探そう。」
「ところでその背負っている方は彼女さんかな? だとすると僕はいない方がいいんじゃ?」
「いや、彼女じゃない。こいつは家族みたいなものだ。」
「マスターそう言って頂けてディーネは幸せです。もう死んでもいいです。というか死にます。吐きそうです」
ものすごい嬉しそうなと今にも吐きそうな顔を織り交ぜた微妙な顔をしてディーネはそう言った。だが馬車に酔っているせいで顔が真っ青だ。
「彼女も辛そうだね、早く宿を探そう!」
クラウドは先行して歩き始めた。
「ところでエルビス君はどこから来たの?」
「俺は、ハーミラから来た。」
「え? ハーミラから来たの? あそこにも魔術学校あったよね? なんでこっちに来たの?」
「よくあるだろ? グレワール魔術学校の校風が好きじゃなかったんだ。」
そう言うとクラウドは納得した顔をした。グレワール魔術学校は伝統的な教育方針を重要視している為、新技術などに手を出すのが遅い。魔法技術を深く、そして新技術を開発したいという志の高い人間はグレワール魔術学校を避けるのが定番だ。
「なるほどね、僕は魔眼を持っていて、これの制御を何とかしたくてサリワール魔術学校に受験したんだ」
魔眼持ち? 聞いたこと無いな。スキルの一種か? それとも生まれつき持っている特殊技能だったりするのか?
「マスター魔眼はスキルの一種です。空間に漂う魔力、魔素を目視で認識できるスキルです。扱いにはコツがいるので魔素が濃い地域に住んでいる魔眼持ちは盲目と勘違いされがちです。」
俺の心を読んだディーネがわかりやすく疑問に答えてくれた。
「えへへ、そうなんだよ、エルビス君の近くは僕の視界がほとんど見えないくらいに魔力が漂っていて修行になるかなって思って近づいたんだ。ごめんね?」
騙したことを申し訳なさそうに謝るクラウド
「いやいいぞ? 気にするな。むしろ練習に付き合ってもいいんだけどどうだ? 宿を見つけたら少し修行でも」
「ほんと? ぜひお願いするよ!」
俺のスキルには教育ブーストがある。恐らくすぐに技術を習得できるだろう。
しばらく街を観光しながら宿を探すと三日月という名の宿があった。
「ここはどうなんだ? 俺は値段とかあんまり気にしてないけどクラウドはどうだ?」
「僕もあんまりお金には困ってないからここでいいと思う!」
俺たちの案も纏まったので宿に入ると体格のでかいおっさんが受付をしていた。
「いらっしゃーい! 三人か? 三人部屋は高いぞ?」
入店直後いきなり大声でそんなことを言われた。耳が壊れそうだ。
「こんな、イカツイおっさんが対応してたら来る客も来ないだろ.……」
「ああ? テメェなめてんのか?」
「仕方ないだろ? 素直な感想だ。それに入店直後に鼓膜を破壊しようとするな!」
やべぇ! 声に出ちゃった。ついぽろっと出ちゃったんです! すみませんでした!
「マスター思ってることと言ってる言葉が逆です」
「おほん! まぁいいや2人部屋と一人部屋で頼む」
俺が部屋の割り当てを注文したがおっさんは聞いていない。狼のように泣き始めた。
「俺だってこんな所で普段から受付してる訳じゃない! 娘が風邪ひいてんだよ死ぬんじゃ無いかって心配で声だってあげたくなるわ!」
あ、自分語り始まっちゃった……これは長くなりそうだ。風邪くらいならディーネに任せればなんとかなりそうだな。
30分ほど無駄話を聞き流し、やっとおっさんが話を元に戻した。
「それでお前らは2:1の部屋割りでいいんだな?」
「ああ、問題ない、後で娘さんの風邪治すから安心しろよな、一回部屋に戻ってディーネが休んだら直させるから」
「ほ、本当か! お前は回復魔法使いだったりするのか? ありがてぇ」
そのままテンションが上りルンルンのおっさんに部屋前まで案内された。
「じゃあクラウド、片付け終わったらすぐ出てこいよ!」
そう言って俺とディーネで二人部屋に入ろうとすると背後から驚いた声が聞こえた。
「どうした? クラウド?」
「いや、部屋割りが想像と違っただけだよ」
「いやいや、クラウドお前ディーネと寝るつもりだったのか?」
そう言ったクラウドが慌てて手を振りながら否定する
「ちちち、違うって! 僕とエルビス君と一緒かと思ったんだ!」
「いや、会ったばっかのやつと同じ部屋ってなにか嫌だろ?? 普通に今の部屋割りのほうがいいと思うぞ?」
「ま、まぁそうだね! 準備終わったらすぐに呼ぶから!」
そう言ってクラウドは自室の中に入っていった。
「ますたぁーもう限界です早くベッドに連れていってください〜」
「ほら、水飲んで、そこの布団に寝て大人しくしてろ。後気分が良くなったらおっさんの娘を治すんだぞ」
ヘロヘロなディーネをベッドに寝かせ水を飲ませて布団を掛けてから俺は部屋を出た。
「ごめん、待たせたな」
「いや、いいよ、ディーネさん馬車酔いしてたから介抱してたんだよね。じゃあ行こうか!」
多分俺のせいで視界が確保できていないクラウドの修行をするために一度街を出て近くの森まで向かうことにした。
俺とクラウドは一度入った街の正門から出て、近くの森に向かった。森の中を少し進んだ所で俺は剣を抜きスキル『斬撃波』を発動し平らな平地を作り出した。
「す、すごいね! エルビス君」
俺を褒めてくれるクラウドの目が心なしかキラキラしている。
「まぁいい、俺が魔法を出すからクラウドはそれを見続けてくれ。よくわからんけど魔力の流れを見えないように練習するんだろ?」
「そうだね、じゃあ僕はエルビス君の放つ魔力を見ないように練習するから魔法を放ち続けて!」
通常状態で魔力が溢れてるのにこれ以上に魔法を使えと? 何の魔法使おう? あんまりバリエーションが無いんだよなぁ。取り敢えずファイアーボールでいいかな?
俺が魔法を発動すると、俺の体と同じくらいの大きさのドラゴンが生まれて火球を吐き出した。『ズゴーン』という音を立てて木が吹き飛びあたり一帯が燃え上がる。
「うむ、いつも通りだ。いつものノリで撃っちゃった」
俺の魔法を見てクラウド、は無言で固まっている。2年くらい前に龍魔法のコスパ問題を解決するために開発した中龍魔法だ。
正直この火力の魔法を使う意味はなかったのだが、馬車に乗っている間魔法練習ができていなかったので使わせてもらった。
ちなみにこの6年の間に俺は、聖眼というスキルを獲得した。このスキルはパッシブのスキルの効果を切ることができる。つまり魔術支配を切って普通に魔法を使える可能性があるということだ。
それでも俺みたいなやつをグレワール魔術学校が受け入れてくれる訳がないのでサリナール魔術学校へ行くことにしたのだ。
「……それどういう魔法? 周囲に漂う魔素とか魔力の量がありえないくらい多かったけど」
「いや、企業秘密かな。ごめんな? 今から消火するから少し待っててくれ」
燃え広がった火を消すために中サイズの水龍を魔法で作り出した。そしてその水龍が吐き出す水球が空中で爆発し局地的な大雨をもたらした。
もちろんその局地的大雨の真下にいた俺たちはびしょ濡れだ。
「どうだ? 魔眼はそろそろ習得できたか?」
「いやいや。そんなに早く習得できたら困らないよ、ってあれ? なんか魔力の遮断が出来るよ。なんで!? すごい!」
やはり俺の教育ブーストは優秀だな。もはや教えてすらいない、ただ魔法を見せただけなのに効果が発動するとは
「ねぇ、エルビス君魔眼の扱いはすぐに終わちゃったし、エルビス君に魔法教えてほしいな? 君が教えてくれたら僕うまくなる気がする!」
うん、その予感は正しいよ。幼なじみのシルヴィに教えたら1日で火魔法を完全に習得して俺を超えていったからなぁ。
未だに魔術支配の効果に頼らないと魔法が撃てないのに……
「そうだな。じゃあまず魔力を全身に満遍なく貼り巡らせて」
「わかった。む、難しいね。これでどう?」
クラウドの体に魔力が満ちていく。よく見ると肩の辺りに魔力が偏って集まっている。
「少し失礼」
肩を魔力を込めた人差し指で突くとバランスが崩壊してクラウドの体に満ちた魔力が弾け飛んだ。
「んっくっ! 駄目だったかもう一回やるよ!」
クラウドの体に満ちている魔力は不安定そのものだ。魔法詠唱云々以前の問題らしい。
「いやダメだ! 魔眼を発動してみろ魔力が不安定だ……それを揺らがないようにしてくれ。見えるんだから簡単だろ?」
クラウドは、しばらく苦労していたが急に魔力を安定させた。教育ブーストの影響のようだ。
「いきなり出来るようになった! どう?」
「完璧だ! じゃあも今度は体に集まった魔力を腕だけに集中させてくれ」
「今の体に満ちてる魔力を全部腕に押し込めるの?」
「そうだ。それを繰り返して魔力を即座に発動したい部位に集約できるようになったら教えてくれ。俺も魔法の練習するから」
そう言って俺は、魔法の練習を始めることにした。ファイアーボールを普通に出せるようにしよう!
「まず手に魔力を集約させる」
普段俺は魔法を自分で調整して撃っているわけではなくスキルが勝手に吸い上げるのに任せているためどれくらい魔力を込めればいいか分からない
「少し多めでいいか……ファイアーボール」
魔法を発動すると手元に1メートルを超える火球ができ上がる。火球は勝手に俺の手を離れ草原に火を付けた。あっという間に燃え広がり森も燃えそうになったタイミングで龍魔法を使って消化した。
「危なかった……魔力の調整は練習しないと駄目だな」
俺が後ろを振り向くと顎が外れそうなくらい口を開けたクラウドが魔力を集約させた状態で固まっていた。
「あ、できた? じゃあその魔力を属性魔法に変換し」
その後は言葉を発することができなかった。
なぜならクラウドが放った火球が、俺の顔の横を恐ろしい速度で擦り、背後の生えたばかりの木を爆散させたからだ。
「うひゃぁ! ご、ごめん! 魔力の込め具合がわからなくて」
そうだよな……分かる! どれくらい魔力を込めたら良いか分からない。基準値を教えてほしいよ。まぁ今教えてるのは無詠唱の魔法発動だから詠唱する分には必要のない技術だったりするんだけどね
「エルビス君の魔法なんであんなに威力高いの?」
俺たちは街に帰る途中雑談をしながら帰っていた。といっても俺が質問され続けただけだが……
「俺の持つスキルがイメージに合わせて勝手に魔力を持って行くんだよ。もう魔法=龍みたいなイメージが強くなちゃって癖ついてるんだ……しかも普段普通に魔法を使わないからどれくらい魔力を込めたら良いかわからないし」
「へー大変だね。そのスキル、でもイメージだけで魔法が発動できるならあの龍の魔法も納得できるよ」
「いや、まぁ別の手加減のスキルで威力調整できるから別にいいんだけどね? せっかく魔法が使えるならバリエーション増やしたいじゃないか」
クラウドは同意を示すように首を何度も振る。
「わかるよ! やっぱり魔法を使うなら僕も使える種類を増やしたいな」
「ところでクラウドは試験パスできるのか?」
「僕魔眼持ちだからね!それだけで通れるよ!」
クラウドは嬉しそうにどや顔になった。どうやら魔眼持ちは優遇があるらしい。若干羨ましいと思いながら、そのまま宿に入ると馬車酔いから復活したディーネが待機していた。
「マスターびしょびしょじゃないですか! ちょっと待ってください!」
そう言ってオレの手荷物から布を出してごしごしと拭き始めた。何故か母親を思い出した。
「マスター魔法練習はどうでした? うまくできました?」
ディーネは更に俺の服を脱がせようとしながら質問してきた。
「おい何してるんだ。ディーネ! 勝手に服を脱がさなくてもいいよ! それより宿のおっさんの娘さんは治したか?」
「治しましたよ! ちゃんと感謝されてきました。それよりもです。少しくらい服を脱がせたっていいじゃないですか! ところでマスター最近いい体してきましたね! もう少しで私好みのいい体になりますよ! もちろんマスターであるならばどんな体でも愛してみせます!」
ディーネは俺の服をぐいぐい引っ張りながら言葉と行動のダブルパンチでセクハラしてくる。
「服を放せ! ディーネ伸びるだろ。変態!」
「いーやーでーす! 私が着替えさせます。私の仕事です」
ディーネがしつこく服を引っ張る。そして『ビリっ』服が破れ俺の裸体が晒された。
「す、すみません。マスタ―破れてしまいました。調子に乗ってすみません」
「はぁ、しょうがない……新しい服買いに行くか」
「私もお供します。久しぶりの買い物ですね」
◇
と言う訳で服を買いに来た。ついでにディーネの服を買っておこう。
「マスター私の服も買っていただけるのですか?」
「ああ、ついでにな……」
ディーネは勝手に服を選び始めた。しばらく観察していると水色のワンピースのようなものを持ってきた。
「それ欲しいのか?」
ディーネが本当に欲しそうにこくこくと頷く。まぁディーネが普段着ている服以外着ているのを見たことはないんだけどね。
「わかった、じゃあこれを一つと俺も服を選ぼう。」
「マスターのは私が選びます。」
そう言ってディーネが俺の服を選び始めた。しばらく待っていると、はやりの服を持ってきた。ディーネが選んだのでそれを買うことにした。
店を出て暫く歩くとパフェを売っている店があった。
「マスターあ、あのぱふぇとか言う商品とてもおいしそうです! ぜひ、ぜひお恵みください!」
ディーネが俺の肩を掴みガタガタと揺らしながらお願いしてくる。
「わかった、わかったから! 揺らさないでくれ!」
「ほんとですか! 流石マスターです!」
ディーネはニコニコしながら俺にちょこちょこと付いてきた。
「あ~何がいいんだ?」
「チョコレートパフェでお願いします。」
「はいはい、っていうかなんでパフェなんてあるんだよ・・・過去に転生者がいたのか?まあいいや、チョコレートパフェ1つください!」
しばらく待つと懐かしいフォルムをした食べ物が出てきた。それをおいしそうに頬張るディーネ
「マスターもどうですか? 一口どうぞ!」
「あ、ごめんチョコ嫌いなんだ……」
そう言うとしょんぼりした顔をし始めた。本当に嫌いなんだけどなぁ……
「いや、嘘だ! 一口貰おうかな」
「ほんとですか? ではどうぞ!」
嬉しそうに俺にパフェを差し出すディーネ、一口食べるとチョコ独特の苦みと風味がしてきた。
「おいしいですか?」
「あ、ああ、お、おいしいと思うぞ!」
顔を引きつらせながらオレは返答する。
「ではもう一口どうぞ!」
「い、いや!もういいかな!ディーネの分が無くなるだろ?俺なんか気にしないで食べてくれ」
「いえ!マスターあっての私です!ですのでマスターが食べてください!」
そう言いながら俺の目の前にチョコレートが近づけられる。ああ、くらくらしてきた。そんな黒い物体近づけるな!
「いやいや!ディーネにはいつも世話になってるからな、ディーネに買ったものだぞ?俺に食べさせようとしないで一人で食べてくれ!俺はこれ以上絶対に一口も食べないからな!」
ディーネが悲しそうな顔をする。ずるいだろそれは!
「じゃじゃあ、一口だけ、あと一口だけ貰おうかな?」
そしてオレはチョコレートパフェを食べた。
「おいしいですか?」
「ああ、うまい」
俺は、無心で答える
「帰ろうぜ、ディーネ」
そしてオレはチョコの臭いと味にやられて、3日間寝込んだ・・・試験当日だ。
「マスター? 大丈夫ですか? まだ気持ち悪いですか。すみませんチョコレートが嫌いなんて知らなくて……」
「いや、もういいよ、この3日間ずっと謝られてたし流石に俺が困る。」
「わかりました。もうマスターも元気になりましたし、謝るのはやめます。ところでマスター今日は試験の日ですよ?準備は良いですか?」
「準備らしい準備は要らないだろ……あーなんか緊張してきた。」
「マスター深呼吸です。落ち着きましょう!」
俺は深く息を吸い吐き出した。少し落ち着いた。
「第1級生徒、2級、3級ってあるけどできれば2級が取れればいいな」
「マスターなら一級でも余裕です! 私が保証します!」
ディーネが思いっきり胸を叩き、むせている。取り敢えず背中を擦る。
「ありがとうございます。マスター」
「じゃあ俺はそろそろ行くから!」
俺はディーネの見送りを受けながら部屋ドアを開けるとクラウドが待機していた。
「具合はもう大丈夫なのかい?」
「ああ、しばらくあの黒い食べの物の名前は聞きたくないが問題ない。行こうぜ」
俺とクラウドはサリナ―ル魔術学校の校門まで来た。洋風なお城といった感じのかなり大きな城が何個か連なっている。
「受験者はこっちです! 受験者の方はこちらです!」
案内人の指す方向に従って歩いていくと体育館のような大きな場所に着いた。入り口で番号の着いたカードを配っているので受け取ってから中に入る。
「エルビス君何番? 僕は1252番」
「俺は1253番、あそこに受験者用の椅子があるな。行こうぜ」
椅子に座り一時間ほど待っていると呼び出しがかかった。
「1250~1299番までの人はこちらに来てください!」
周りに耳を傾けると他の生徒の話が聞こえる。
「やっぱ一級狙いだよな! 間違っても三級落ちはしたくないな!」
「ああ、二級でもいいが一級の10人の枠に入れれば学園生活もウハウハだぞ!」
そんな会話が聞こえてくる。一級はそれこそ、この国の未来を背負う人材! みたいなやつが選ばれる、間違っても龍魔法しか使えないオレは選ばれない。
「なぁ? クラウドはどうなんだ? 魔眼ってだけで一級狙えそうか?」
「いやいや無理だよ! 僕詠唱遅いし」
「詠唱?」
「うん、詠唱」
「詠唱ねぇ。この間お前に教えたのは無詠唱のやり方なんだけどまだ詠唱してるのか?」
「え? 無詠唱のやり方?」
「うん無詠唱のやり方、というか実際に詠唱なんてしてないのに魔法を俺に飛ばしてたじゃん」
「た、たしかに……あ、呼ばれてるし行こうか」
俺はクラウドと一緒に広い部屋に入った。部屋には強面の男が一人いた。
「うわぁ! すすすごい! 英雄のカインさんだ!」
クラウドが喜びの声を上げている側で俺は感激に震えていた。カインさんだ……生きていたんだ。よかった。俺のことは忘れて、知らないんだろうけどそれでも良かった。
「二年前に王都の近くの森に出現した宵闇の魔女っていう黒い姿をしたノーライフキングを単独撃破した真の英雄だよ! エルビス君」
その黒いノーライフキングって黒魔種だよな、やるなぁカインさん。物思いにふけっているとカインさんが偉そげに話し始めた。それがかなり面白い。
「今日の試験官は英雄と呼ばれているこの俺、カインだ!」
「ぶふぉ!」
「なんだ? 1253番」
「いえ、何でもありません」
つい面白くて吹いてしまった。
「あー、お前たちの中から次代の英雄が出ることを願っている! では1250番。こっちに来て俺と戦え。俺に魔法を当てたらそれだけで合格だ。当たらなくても安心しろ。精密照準試験とか魔法威力試験とか魔法適性とか総合的に判断するから!」
1250番の女の子が緊張気味に前に出た。魔法を長ったるい詠唱をして撃つが、かすりもせずそのまま退場になった。
1501番の女の子は身体強化魔法の使い手らしく軽く詠唱をした後飛び掛かりあっさりと吹き飛ばれた。
そしてクラウドの番だ。「よろしくお願いします!」とあいさつをして魔法を詠唱し始めたが途中で思い直したのか詠唱破棄をして無詠唱で魔法を発動した。
「うぉ! 無詠唱だと……しかもいい威力だ!」
グレンに褒められたカインは有頂天になり舞い上がってしまったのかそのままグレンに接近されKOされた。次は俺の番だ。
「さあ次は君だ。さあ全力の魔法を打ってこい。俺はそれをしのぎ切って見せよう!」
「ぶっ! ほ、本当に全力でいいんですか?」
臭いセリフに思わず笑ってしまう。カインは鼻で笑い肯定した。では遠慮なく!
「責任は取ってくださいよ! 『子龍魔法:ダークスピア』」
俺は全力の闇属性ドラゴンを魔法で生み出した。英雄になったカインさんなら避けてくれるだろう。
突然の魔法に目を大きく見開きカインはドラゴンの吐いた闇の槍を剣で弾きぎりぎり避けるも爆風で吹き飛ばされた。ふふふ、驚いてる、驚いてる。もう一発撃ってやろう。
「子龍魔法:ダークブレス」
カインは龍のブレス攻撃を必死に剣でしのぎながら叫ぶ。
「お、お前! 詠唱はどうした。こんな化け物を生み出す魔法が詠唱無いとかどうなってんだ! ぐばっ!」
俺はカインさんに近づき蹴り飛ばした。俺の勝ちだ! そう思ったがいきなり立ち上がった。
「まだだ! 俺も本気を出す。お前も腰の剣を抜け!」
なんかやる気になったようだ。そっちがその気ならこっちも本気だ! 俺は剣を抜刀する。さぁ! 英雄になったカインさんとガチバトルだ!
「素晴らしいその剣は俺の剣の数百倍の神聖さを感じる! 精霊が宿っているのか? まぁ試せばわかる!」
そう言ってカインは飛び掛かってきた。
カインは、常人では認識できない速度で俺に飛び掛かってきた。高速で振り下ろされる一撃を軽く剣で受ける。
「おいおい、一発で決めるで決めるつもりだったのにやるな! お前名前は?」
鍔迫り合いをしながら、カインさんは楽しそうに語りかけてきた。
「エルビスです」
「エルビスか……覚えておこう!」
「……忘れてんじゃねぇか!」
完全な八つ当たりを織り交ぜながら鍔迫り合いしている剣を思いっきり押し返し、腹を蹴飛ばそうとしたが、向こうも同じことを考えていたようで俺の足は届かず俺が吹き飛んだ。
「ハハハ! 子供が大人と足の長さで戦おうとしてるのが間違いなんだよ!」
俺の隙を見逃さずカインは火の渦の様なものを飛ばしてきた。とっさに闇の剣圧で無理やり打ち消した。
その瞬間フッとカインさんの姿が消えた。火の渦と闇の斬撃波のぶつかったエフェクトで隠れたらしい。剣圧の効果で背後に気配を感じ振りむくと若干服が破れたカインさんが立っていた。
あの一瞬で俺の背後に回ったらしい。数年ぶりに脳内アナウンスが流れた。
『聖眼が進化します。聖眼が神聖眼になりました。』
突如見える景色が変わる。周囲にあふれる魔力、魔素、そしてその人間の生命力そう言ったものが一気に見え始めた。
正直今全く必要のない機能だ。視界の邪魔でしか無い。カインさんから漂う生命力の多さに視界を塞がれ満足に戦闘ができなくなった
「おいおい! 急にどうした。手加減ってか? なめるなよ。本気見せてやるよ」
カインさんの剣の速度が更に上昇した。神聖眼のせいで剣の動きが見づらくてしょうがない。カインさんの生命力を削って視界を確保しよう。そんな鬼畜な事を考え力を込めた瞬間他の試験管からの声が聞こえた。
「待った! 待った! 二人とも待ってくれ。落ち着け。落ち着いてくれ! 周りを見ろもうやめてくれ!」
走ってこちらまで来た試験官が泣きながら懇願する。周りを見ると先ほどまで、広い部屋の中にいたのに今は壁に大穴が空いておりその穴は街の方まで続いていた。更に俺達がいた部屋はヒビが入りまくり今にも倒壊寸前と言った感じだ。
「小僧! あとは任せた!」
そう言って走り去ろうとするカインに剣圧を発揮して使い脅しをかけた。その場でぴたりと止まりこちらに戻ってきた。
「冗談だって、な! それよりどうするかな……」
「カインさん何か大量の魔力触媒とかありませんか?」
「ああ、それならあのノーライフキングが持ってた魔力結晶とかどうだ? 売るのか? 売って賠償するなら俺名義だからな」
「いえ、こう使います!」
俺は、魔力結晶を対価に回復の秘術を発動する。俺たちの戦闘により破壊された校舎を復活させたのだ。未だによく分かっていないが回復の秘術はスキルに書いてあった内容とは違う動きをすることがある。特に失われたわけでもない校舎を修復できたのもそのよくわからない動きのせいだ。
6年前に回復の秘術を使っていこう人死に関しては回復の秘術は全く機能しないし全然関係ない壊れたものなどは対価があれば修復できる。知らない間にスキル内容が変化でもしたのか?
「……ん? 今何をした?」
カインが掠れた声で俺に質問してきた。
「内緒です。さっきカインさんが予想した通り、剣が関係してるとだけ言っておきます。」
カインはそのヒントで大体理解したようだ。
「まじか……やっぱすげーな精霊ってのはこんなボロボロだった場所をあっという間に元に戻すとは、なあ、お前サリナ―ル魔術学校なんか行かないで俺と世界を回らないか?」
「今は、お断りします。提案はとても魅力的ですけど」
「そうか、今はなんだな? ならいつか声を掛けてくれ、お前が声を掛けるのを楽しみにしてるからよ!」
そう言って格好つけて試験会場から出ようとしていた。
「あの? カインさん。この後も試験が……」
「あ! やっべ! 忘れてた。くそぉかっこよく立ち去ろうとしたのに……」
相変わらず肝心なところがダメダメな人だ。カインさんは走って定位置に付いて試験を続行した。
俺はどうすればいいんだ? 合格だろ? 帰っていいのかな?
「君は次の試験に向かってださい!」
試験官の案内に従い歩いていくと外に出た。そしてそこにはいくつかの的があった。
「次の試験はあちらの的をできるだけ少ない手数の魔法で破壊することです。1253番さんどうぞ!」
呼ばれたのでオレは定位置に立ち水の小龍魔法を発動した。
『子龍魔法:バブルボム!』
触れると爆発する水の玉が的に直撃して大爆発して軽いクレータを作り出した。もちろん的は消え去った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
試験官が走って逃げ去って行った。直しておこう。今度は自前の魔力を対価に回復の秘術を使った。
「ふぅ! 元通り!」
「いや、元通り!じゃないよ。何してるの!? 完全にやりすぎだよ。エルビス君!」
クラウドが大声で叫び始めた。耳元で叫ぶな、うるさい……
「仕方ないだろ……こういうのはガッツリと決めないと」
クラウドとしばらく揉めていると別の試験官が来た。
「君たちは何をしているんだい? 魔法威力試験はやったかい? ここの担当鼻にしているんだ。全く、やってないならこっちだついてきなさい」
その試験官が威力試験の監督だったらしい俺たちが来ないことを疑問に思ったらしい。変な行動を取ったせいで採点がマイナスになるかもしれない、思いっきりやっておこう!
今回の的は、ゲージが付いた的だ、魔法を当てると威力に応じて、ゲージが増えるのだろう。
というわけで俺の手番が来たので本気を出すことにした。
『龍魔法:シャイニングレイ』
威力ゲージの付いた的に本気の攻撃をぶつけた。だけど攻撃を当てる用の的そう簡単に壊れないはずだ。
という予想はただの予想であり、実際は魔術学校の裏にある森まで光線が突き抜けていった。そして遠くの方で大爆発を起こす。勿論、的は消え去った。
クラウドが俺の頭を叩いた。
「いい加減にしなよ。やりすぎなの! わかる?」
「いや……ごめん的直すから……」
今日は回復の秘術大活躍だな……回復の秘術の条件が少し軽くなったのはディーネとの仲が良くなったためだろうか? 前は条件が厳しく厳密に失われたものだけだったが最近は、大体のものが治せるし便利である。
瞬く間に修復されていく森と試験会場、背後で試験管が息をつまらせている音が聞こえる。
そして試験管にもう俺は帰っていいと言われてしまった。魔法適性は? と聞くともう2~3パターン使ったのは確認した。これ以上学校を破壊しないでくれと言って追い返された。
反省しながら宿に帰るとディーネが待機していた。
「ディーネ……俺、落ちたかもしれないでも良いんだ。落ちたらカインさんと世界を回るから」
「イヤイヤ……そんなわけないじゃないですか。私は信じませんよ」