「どんなことでも報告は欠かすなと言ったはずだ」

「ハイ、すみません!」

竹内はその声に、脊髄反射的に起立する。

俺は仕方なくのろのろと立ち上がりながら答えた。

「マップ上に隊長の姿が確認できなかったので、これは緊急事態かとッ……」 

腹に強い衝撃が加わる。

隊長の固い拳が、腹腔にめりこんだ。

着ぐるみの上からでもこの威力だ。

俺はピンクウサギのまま路上に崩れ落ちる。

「お前らのうかつさには、心底うんざりさせられる」

緑の帽子をかぶり、ひげの配管工に扮した隊長は竹内をにらんだ。

リスは敬礼する。

「08隊員のもとにR38と思われる接触あり。現在調査、追跡中です」

「端末を出せ」

ようやく視力の戻った俺に向かって、隊長の手が伸びた。

俺は仕方なくそれを差し出す。

「今の制裁は、難を免れた機器の報告を怠った件」

隊長は自分の端末とそれをつないだ。

情報が転送されてゆく。

「これだけで済んだことを、ありがたく思え」

まだ息がうまく出来ない。

投げ返されたそれを、毛むくじゃらの手でかろうじて受けとめた。

「対象はここにない。もっと頭を使え」

隊長は背を向ける。

この部隊の全てを統括するような人に、所詮かなうわけがない。

俺だって、この部隊と天命の全てを操れたら……。

人混みに紛れ、風景に溶けて消える隊長を見送る。

こんな人がトップだなんて……。

「やっぱ想像以上に荒れてんな、隊長。飯塚さんがこんなことになってさ」

竹内はリスの頭を取った。

「もう行こうぜ。隊長がここにいないと言ったら、あの人はここにいない」

こみ上げる吐き気と痛みとを、もう一度飲み込む。

悪いが俺は、そんな単純に出来てはいない。