飯塚さんの潜伏先を想定しようにも、何も思いつかなかった。

過去の行動記録から予測するなんてことは、とっくに本部のAIがやっているだろう。

それでも見つけられないとなると、もう手の打ちようがない。

いそいそと出かける母も見送って、ようやく家の中は静かになった。

食洗機のスタートボタンを押して二階に上がると、パソコン前で寝転がる。

昨夜、夜通し竹内と話し合い、出てきた答えはなにもない。

確かに人間の声であるのに、無機質に読み上げられた声明文がまだ耳に残る。

どうしてこんな反乱を起こそうとしたのか。

あの人の孤独と悲しみは、どこにあったのだろう。

4畳半PCルームのかび臭さまで、そのまま俺に染みこんでくるようだ。

いつの間にかうとうととして、ふと階下から聞こえる声に目を覚ました。

母の声と共に、聞き慣れない男女の声が聞こえる。

気がつけば時計は15時を回っていた。

来客があると言っていたのは、このことか。

上半身を起こして、凝り固まった体をほぐす。

ふいに窓の外に、黒い影が横切った。

その影はひさしの上にぴょんととまって、跳びはねる。

「……R38?」

俺は慎重にガラス窓を開けた。

背中に小さなボックスを背負った、一羽のカラスがとまっている。

俺に個体の区別はつかない。

もしこれが本当にR38なら……。

「おいで」

そう言いながらも、慎重にマウスを操作した。

R38はいづみに訓練された特別なカラスだ。

人語を解し、翻訳機を通して意志疎通出来る。

その研究を行っていたいづみは、飯塚さんと姿を消した。

間違いなく行動を共にしている。

R38への行動指示は、いづみだけの特権事項ではない。

俺にだってやろうと思えば、黒い羽根はなくてもあのボックスを介して出来る仕組みだ。