日々は単調に呼吸をしていた。

 僕が彼女に送っていたメッセージは、一向に既読の文字をつけずにそのままになっている。一度だけ「今夜、来てほしい」とメッセージを打ったけれど、もちろん返事はおろか読まれた形跡さえも刻まなかった。

 それでも学校での咲果はいたって普通の様子で、決して僕を避けているという風ではない。きっかけがあれば会話はするし、目が合えば彼女はニッと口の端を上げたりもする。ボウと倉田と四人で昼休みを過ごすことだってもちろんあるし、学校での様子だけを切り取れば僕たちは何も変わってなどいなかったし、僕は何も失ってなどいなかった。彼女が僕を〝いっくん〟と呼ばなくなったことを除けば。

 傍から見ればほんの小さな変化だ。しかし僕の心の中にはぽっかりと穴が空いている。彼女があの朝に言った『寝ぼけてるの?』という言葉。もしかしたら僕が彼女と過ごした時間は、本当に夢だったのではないだろうかと思うことすらある。

 ──いや、そう思わなければやるせなさで潰されそうだったのかもしれない。

 それでもギターを取り出して弦を弾けば、自然とふたりで作った曲が指先から流れ出し、ヨレヨレになった僕のノートには咲果に見せるために書いた歌詞やコードのメモがしっかりと刻まれている。

 ──あの時間は、夢なんかじゃない。
 ──だけど、あの〝咲果〟は夢だったのかもしれない。

 咲果があまりにも自然に振る舞っているため、僕は彼女の心の中に踏み込むタイミングを見失っていた。
 それと同時に怖かったのかもしれない。彼女に『そんなこと知らない』と言われることが。
 かけがえのない時間を、なかったことにされてしまうかもしれないということが。

 黒か白かをはっきりさせるのが苦手な僕の、悪いところだ。