「咲果、体調でも悪い?」
翌朝、学校に行くと教室に咲果の姿がなかった。ふじやんが「咲果は遅刻」と言いながら出席簿をチェックしていたが、僕が知る限り彼女が遅刻してきたことはない。
僕の言葉に倉田がウムと顎を引いた。
「少し休んでから来るって」
連れ回しすぎたかな。昨日遅くなったから体調を崩してしまったとか? 大丈夫だろうか。
ぐるぐると心配が頭の中を回ると、倉田は「心配しないでって言ってたから」とニコリともせずにそう言った。
倉田と咲果は、中学時代からの親友らしい。クラスのみんなと満遍なく仲良くできる咲果だが、倉田には人一倍心を許しているように感じていた。
咲果は倉田には色々なことを話すのだろうか。例えば昨日のこととか──。
「昨日家族で遠出したから疲れたのかも、って言ってた」
さらりと顔にかかる黒髪を耳にかけながら放たれたその一言に、僕の心はぴりりと小さく軋む。
──そっか。咲果は倉田にも、僕と出かけたことを話していないのか。
予想はしていたものの、その事実は思った以上に僕の心にダメージを与える。そういう僕だって、昨日の出来事をボウにも誰にも話していなのだからお互い様なのに。
そう考えると、ボウも倉田も、僕たちがただのクラスメイトだとは言い切れない距離感で過ごしているなんて想像もしていないのかもしれない。
僕にとって会話をする女子は咲果と倉田くらいだけど、咲果は他の男子生徒たちとも普段から普通に会話をしている。傍から見れば、僕らはただのクラスメイトでしかない。
それでいい、その方が都合がいい。面倒なことは避けたいし、僕がわかっていれば十分だし。──なんて、そんな思いはいつの間にか、自分に言い聞かせるための言い訳になっていたみたいだ。
咲果と倉田はどうやって連絡を取っているのだろう。スマホを見ても、相変わらず僕が送ったメッセージを咲果が読んだ形跡はない。昨日はあんなに楽しくて、あれほどに幸せで、僕らの未来がキラキラと輝いていたはずなのに、今じゃそれすら夢だったのではないかと思ってしまう僕は、女々しいだろうか。どちらにしても、咲果が早く元気になるのを何よりも祈ろう。
『無理するなよ』
短く送るメッセージ。
本当は色々なことを話したかった。SNSに投稿されていた僕らの音楽の評判の話、父親と話したことに、この先の僕らのこと。
進路のことはこれからきちんと考えよう。だけど僕の将来に、音楽と咲果という存在が必ず必要だということはわかっている。
彼女の体調が戻ったら、一番にその話をしようと思う。きっと多分、夢へと続く道はいくつもある。ふたりでならば、どんなに険しい道でもきっと進んでいけると思うんだ。これがだめならあれにしよう、こっちが行き止まりなら回り道を探そうとか、僕よりも柔軟性のある咲果はどんなときも笑って言ってくれそうだ。
そんなことを考えながら、一時間目の歴史の資料集を取りに教室の後ろのロッカーへと向かう。そこでちょうど、ガラリと教室後方の扉が勢いよく開いた。