「すごい……」
曲が終わると、見ていたひとりの女子高生の声を合図にぱちぱちと拍手が起こる。ゆっくりと瞳を開けた咲果は、改めて目の前の光景に驚いているようだ。
だって僕らの前にはいつの間にか、二十人を超える人々が集まっていたのだから。
「あの……ええっと……う、歌います!」
普通、路上ライブというのは歌手を志望している人々が行うことが多い。芸名なりグループ名なりを用意していて「どうもーイツキングでーす!」みたいな感じで挨拶を交えながらパフォーマンスを進めていく。ところが誰もいない公園で、猫一匹を相手にふたりだけで演奏してきた僕らにはグループ名なんてあるはずもなく、目の前の観客に名乗ることのできない彼女は、とりあえず〝歌う〟ということで僕らなりの誠意を示すことを選んでくれたようだった。
それに何より、彼女はきっと、楽しかったのだと思う。僕たちはそのあと自分たちで作ったほとんどの曲をノンストップで披露した。しっとりとしたバラードでは観客の数人が涙を流し、アップテンポの曲のときにはまばらながらも手拍子が起きた。
そのときに僕は確信したんだ。この路上ライブが終わったら、僕は咲果にこう言おう。
「ふたりで一緒に、夢を掴みに行こう」って──。
週末の夜のアーケードに、僕らの音楽は優しく響いた。