「で、音楽の専門学校行くわけ?」

 昇降口を出ると、ボウは最初の疑問をもう一度口にした。どこかの学園ドラマかのようなワンシーンを演じてしまった僕たちは、照れくささを残しつつも駐輪場へと並んで歩く。

 吹奏楽部の練習している音楽が、開け放たれた窓から聞こえる。寒い季節でも、大人数で練習をしていれば窓を開けたくなるものなのだろうか。いや、もしかしたら空へと響く音はまた格別だから、好んで窓を開けているのかも。
 ゆっくりと三階の窓を見上げながら、僕はボウの質問にゆっくりと返事をする。

「まだ考え中だけど、もしかしたら」

 そっかぁーとやたら感心したようにボウは頷く。それから少し考える素振りを見せたあと、えいやといった様子で僕の顔を覗き見た。

「樹って、サッカーすごかったんだろ?」
「上には上がいたから、すごいかはわからないけど。一応前の高校はサッカー推薦で入ったよ」

 こうして話してみると、自分の中ではきちんと過去として整理できているのだと改めてわかる。
 ボウもその一声に勇気を使ったのかもしれない。ほっとしような呼吸のあとに、すげぇなぁと感嘆を漏らした。

 そっちこそ大学でもサッカーを続けるのかと聞けば、ボウは少し申し訳なさそうに、だけどきっぱりと「もうサッカーはやらない」と答える。

「俺さ、まだまだ自分自身模索中なんだよね。何がやりたいとか、こうなりたいとか、そういうのは特になくて。だからそれを大学の四年間で見つけられたらいいなって思う」

 みんなそれぞれ、色々なことを考えている。極めたいものを見つけている人もいれば、それを探している途中の人もいる。これだ!と思っていたものが実は違ったという人もいるだろうし、その逆もまたあるのだろう。それでもきっと、今の僕たちがいるこの時間は、そんな風に迷いながら、もがきながら、光を見つけていくためのものなのかもしれない。

「ミュージシャンになるの?」
「まだはっきりとはわかってないんだ」
「なんで音楽の道に進みたいと思ったわけ?」
「それは──」

 その先の言葉を、僕はごくりと飲み込んだ。
 ギターはじーちゃんからもらったもので、基礎はじーちゃんから教わった。なんとなくのメロディを作ったり、適当に歌うことはひとりのときからやってきたことだ。だけど、そのことに初めて意味が生まれたのは、咲果と夜の公園で会うようになってから。
 咲果とは毎晩のようにあの場所で会っているし、ふたりで曲を作ったり演奏したりしている。それでも彼女から「このことは絶対に誰にも秘密だよ」と口止めされているというのは前に言った通りだ。

「──なんか、いいなって思ったから」

 突如説得力をなくした僕の言葉に、ボウは思い切り変な顔をした。だけどすぐに「スタートはそういうもんだよなぁ」と彼なりに納得してくれたようで、両手を頭の後ろで組んだままゆらゆらと体を揺らす。それから「芸名はイツキングとかどう?」なんて言い出して、またかよと僕は頭を抱えたのだった。