音楽の道──。自分の中に芽生え、それでもなかなか認められなかった思い。それが咲果と話したことで自分の中へとストンと落ちた。
 僕が見つけた新しい光。できることならば、この光の先へと行ってみたい。

 それでもいざ言葉にすると、何かとてつもなく大きなことを口にしているのではないかと感じてしまう。
 しかし、ふじやんは眉一つ動かさなかった。

「うん、いいんじゃないの。で、具体的にはどうする?」

 絶対に否定されると思っていたから、こうもすんなりと受け入れられると反って不安になってしまう。僕は色々と頭の中を整理してみる。いかんせん、僕だってつい最近この想いを自覚したばかりなのだ。

「専門学校とか、働きながら事務所に入るとか……。それを調べるためにここに来たんですけど……」

 どんどん尻窄みになる僕の声。そうかあ、とそこで初めてふじやんは僕から視線を外して腕を組みながら天井を見た。ギシッと古びた椅子が悲鳴をあげる。

「音楽って一言で言ってもさ、色々あるわけだろ? 山口先生のような音楽教師も、音楽の道のひとつだし。イツキングは将来どんな仕事をしたいの? 歌手? 演奏家? 作曲? 教師? コンサートの演出家とか、レコード店の店員だって音楽関係でしょ?」

 そう言われ、僕は目を丸くするしかない。言われてみればそうだ。僕がイメージする音楽と言えば、ギターでメロディを作って演奏し、咲果がそれに合わせて歌うというものだったけれど、それだけではない。音楽教師になりたいのならば、大学進学は夢に直結する道であるし、演奏する側になりたいのならばまた別の選択肢が最善となるのだろう。

「……僕は、曲を作りたくて」

 たった数分のこれまでのやりとりで、僕はすっかりふじやんに心を開いてしまっていた。今まではうざったいと思ったこともあったのに、僕は自分で思うよりもずっと単純みたいだ。

「作曲家になりたい?」

 ふじやんの問いに、僕はうーんと唸ってしまう。今まで自分が作った曲を歌ってくれたのは、咲果だけだ。彼女が歌って初めて、僕の歌は完成する。そう考えると、どうも作曲家というのも違うように思った。

 僕がしばらく唸っていると、よし、とふじやんは両手を打つ。

「イツキングの気持ちはわかった! 俺も音楽関係で色々調べてみるから、イツキングももう少し自分のやりたいこととかを詰めてみたらいい。将来のビジョンなんて大袈裟なもんじゃなくてさ、最初にまずどんなことを知りたいのか。どんなことができるようになりたいのか。どんな自分でいたいのか」

 そう言って立ち上がったふじやんは、棚の中から数冊のパンフレットを取り出して僕へと手渡した。それはどれも、音楽に関わる学校のものだ。専門学校、四年制大学の音楽科、はたまた超一流音楽大学。もちろんここは進路指導室だから学校の資料しかないけれど、「芸能事務所とかもネットで色々調べてごらん」という言葉でふじやんは僕の背中を押す。
 僕はそれらのパンフレットを小脇に抱えると、小さく頭を下げて進路指導室を後にしたのだった。