蕎麦を食べ終えた僕たちは、自転車を走らせてあちこちを巡った。とは言ってもこの地に詳しくない僕は、意気揚々と自転車を漕ぐ咲果についていくだけだ。
この地域で一番大きな公園では、自転車を止めてぐるりと中を一周した。
公園と言っても、ブランコや滑り台のある公園ではない。広大な敷地には滝や大きな桟橋があり、夏場には水遊びに最適な河原もある。キャンプ広場にロッククライミング施設と、休みの日にはたくさんの人で賑わうのであろうことが容易に想像できた。
咲果はやたらと張り切って公園の中を案内する。その辺に植えられている木々を指しては「これはモミジ!」とか「これはサクラ!」などと植物の名前をも紹介するくらいの熱の入りようだ。今は冬だからほとんどの植物は葉が落ちて寒々しい姿だけど、あと数ヶ月もすればサクラは薄紅色の花で満開になり、モミジにも青々とした新芽が生い茂るようになるのだろう。
夏が来ればこの河原で水遊びができるらしい。これだけ緑があれば蝉の鳴き声がひっきりなしに響いて夏気分を感じさせてくれそうだし、ボウや倉田も誘って四人で過ごすのもよさそうだ。受験生の夏休みなんて遊んでいる暇はないと大人たちは言うだろうが、どんなときでも絶対に息抜きは必要だ。
秋には紅葉を見に県外からも多くの人々がこの公園を訪れるそうだ。ぐるりと周りを見回せば、四方は山に囲われている。日中は混雑しそうだが、早朝ならば人もまばらだと思う。咲果は早起きするのは得意なのだろうか。学校に行く前に見に来るのもよさそうだ。朝焼けと紅葉とか、絶景である予感しかしない。この土地の住民の特権を、大いに利用させてもらおう。
そうこうしていれば、またこの冬の季節がやって来る。来年の今頃には、僕たちは受験を目前に控えて焦ったりもがいたりしているのかもしれない。だけどきっと、僕と咲果はこうやって同じように、一緒にいるんじゃないかと思うんだ。
そのときの僕たちは、どんな関係になっているんだろう。そのことを考えるとどこかむず痒く、それでいてくすぐったくも感じる。
咲果は僕のことをどう思っている? こうやってふたりで過ごす時間を作るということは、アリかナシで言えばアリ寄りだとは思うんだけど……。
今まであまり女子と深く関わってこなかったせいで、女心みたいなものは正直よくわからない。それでも今この瞬間、楽しそうに笑ってくれる彼女がいるならば、とりあえず今はそれで十分かな、なんて思うんだ。