今思えば、咲果が僕に歌ってと言ったのはあれが初めてのことだった。僕が音痴であることは誰よりも彼女が知っていたはずなのに、それでも歌うことが〝嫌いではない〟ことも、きっとお見通しだったのだろう。
もちろん僕が披露した歌は、それはそれはひどいもので、せっかく作った曲がどんなにうまくできていようと全てを台無しにしてしまうほどのものだったけど、それでも彼女は笑い飛ばしたりはしなかった。目を閉じて、耳だけじゃなく五感全てを研ぎ澄ませて、僕の歌を聞いてくれた。
まさか自分で歌うことになるだなんて、僕は想像もしていなかったから。ほとんどぶっつけ本番みたいな感じで、何度も躓いたり止まってしまったりもしたけれど、あれが僕にとっては人生で初めての〝誰かのために作った曲〟を自分で歌うという経験。
──きみが教えてくれたんだ。
空っぽになってしまった僕の頭上にも、星はたくさん輝いているんだってことを。