その後、僕と咲果はまるまる三日間、ろくな会話をしなかった。その間、昼休みはボウと二人で過ごしていたし、毎日のように「早く仲直りしてくれないと俺と倉田の時間が……」などと文句を言われたけれど仕方ない。
僕だって早く元通りになりたい。だけど、あの曲を完成させるまでは中途半端な形で彼女と向き合いたくなかったのだ。
補足しておくと、あの曲は僕から彼女への手紙のようなものではあるが、僕が歌うわけにはいかない。ご存知の通り、僕は歌に関してはセンスを全て前世に置いてきてしまったからである。歌を作ることはできても、歌うことはできない。シンガーソングライターがテレビで活躍しているのを見ると、天は二物以上を人に与えるのだなと思ってしまう。
──とまあそんなわけなので、僕は生まれて初めてオタマジャクシを用いた楽譜を作ったのだ。もちろん読み方さえわからない僕に本格的な楽譜など書けるわけもなく、できあがったのはメロディラインを奏でるだけのシンプルなもの。わかりやすく言うなれば、歌詞の部分をピアノの右手だけで弾くような簡素な楽譜だ。
こんな僕でも、便利な世の中のおかげでどうにかこうにか譜面におこすことができた。僕らにはインターネット先生、動画先生、という心強い味方がついているのだ。