そして私達は、別れた。
別れたと言っても会社に行けば、変わらずに上司と部下の関係。
普通に顔を合わせるし必要なら会話だってする。
「課長。企画書のことですが。このような感じでどうでしょうか?」
「あぁ、ちょっと待っててくれ。電話の後に見るから」
課長は、電話をしながら言ってきた。
私は、はいと返事をするとデスクに企画書を置くと
自分の席に戻った。
いつもと変わらない課長の姿だ。
だが、その姿を見られるのは……あと少しだけ。
部長になる話は、引き受けたと別の人から聞いた。
これで良かったのだ!
これで課長は、前に進める。
部長として新たなスタートが切れると言うものだ。
「ねぇ、あんた本当に後悔してないの?別れて」
仕事帰りに久しぶりに美奈子と食事をした。
いつものイタリアンのお店で。
バスタを食べていると美奈子が心配そうに私に尋ねてきた。
「……後悔していないと言ったら嘘になるわね」
「だったら別れなかったら良かったのに……」
「無理よ。そうでもしないと課長は、あの話を断るじゃない。
あの人、優しいから」
今でも胸が痛んだ。
無意識に課長の事ばかり考えてしまうぐらいに。
でも課長は、私の気持ちを優先するばかりに
自分の気持ちを犠牲にする。
それだけは、してほしくなかった。
「私から見たら……亜季。あんたも十分優しいわよ?」
「えっ……?」
「今時…自分の気持ちを優先して
別れるだの別れないだのと言うカップルが多い中
あんた達は、お互いに譲り合ってるじゃない」
それって…お互いに優しいからで相手を想い合っているからじゃない?
本当……お似合いだったと思うわよ。あんた達は…」
呆れつつも美奈子は、励ましてくれた。
美奈子。ありがとう……。
本当ね。支え合えるような恋人同士になりたかったな。